13話 遺言
「お前は、ポッター!?」
ユイとキャロットのことを襲撃した連中のひとり、ポッターが爆撃魔法を発動させるためのモーションをする。
「魔法使い、無駄。オレ、主人守る、使命」
魔法を使うと先読みしたバードリヤも発動モーションを構える。
その瞬間、見ぬいた。
先ほどの打撃を弾いた盾を発動するモーションと……違う!
バードリヤが盾をつくり出す。
今だ。
ポッター……の姿をしているリトリーにあらかじめ決めておいた下がれの合図をする。
(あらかじめポッターの背格好を絵にしてリトリーに見せておいた。リトリー
は見て認識した人になら変身できる。)
バードリヤの盾を前にして魔法の発動を諦めたように、リトリーが後ろへ下がる。
隙は、この時にしかない!
バードリヤが魔法無効の盾を出している今、物理攻撃を阻む術はない! 盾を切り替えられるまえに、ぶん殴ってやる!
「うラァ!」
厄介なバードリヤを殴り、ディアスごとまとめて柵までふっ飛ばした。
気絶しているようだ。バードリヤは起き上がらない。
「バードリヤ、オイ! 起きろ、オイ! なぁ! はぁ、はぁ……」
ディアスはブチ切れるのをこらえて、悔しまぎれに舌を鳴らす。
「縛らせてもらう」
縄はここへの道で拾った。
「……」
口から出血しているのか。ディアスが血を吐いた。
「殺せよ」
「……」
「さっさと殺れ。もう……堕ちてる」
「……」
「おまえが渡してくれ。引導を……」
「ディアス、さん……」
最後の最後で、ディアスはかつての姿を取り戻しかけていた。
「これ以上生きることが恥だ」
「………………わかっ」
何かが刺さる音がした。
それとともに、弱い声で息絶えるバードリヤ。そして……ディアス。
振り向くとそこには、弓矢の男。服を脱いでいる。
身体のうちに、まだ弓矢を残していたのか……! 完全に油断してしまっていた。自分へ向かう殺気ではなかったから気づくのが遅れてしまった。
「前から気に食わなかったんだよォ……おまえも死ねやァ、ディアスゥゥゥウウウウ!!!!!!!!!!」
弓矢の男から放たれる弓矢を捕らえる。彼の元へ全力で疾駆し、拳を振るう。
「ぐっはぁああああああ」
弓矢の男の身体が宙に浮いて、鉄柵の上に叩きつけられた。
やがて彼は後ろに傾いていき、
「ウアアアアアアアアアアア!!!!」
まっすぐに屋上から落ちていった。
屋上から落下して地面に直撃すれば、確実に命はないだろう。
「あの男……やはり……信用は……するべきではなかった…………」
声がする。ディアスはまだ生きていた。彼は横たわり、空を仰いでいる。
「どちらにせよあんたら全員、もう許されない咎持ちだ。
みんな……大馬鹿野郎だよ」
「……そう、だな……」
ディアスは大きく咳き込む。大量の吐血。
「お兄さま……」
気づけば、キャロットとユイがそばにいた。
「愚かな兄を許せ……キャロット……」
「おにいさ……!」
キャロットの瞳からは大粒の涙がこぼれていく。口元を震わせているが、やがて抑えきれなくなった嗚咽が漏れる。
「最後に……おまえのことを……旨そうな食料ではなく、妹のキャロットとして見ることができて、よかっ……た……」
ディアスの手をとるキャロット。
キャロットはただただ兄の手を包み込んでいた。
静かに看取られようとするディアス。その姿を複雑そうな面持ちで、ユイが見ている。リトリーも……
「……」
いや、リトリーの瞳には何の色も伺えない。無色、無関心、無表情。
気にかかったが、ディアスの声が思考を止める。
「そこのキミ……」
「はい……?」
どういうわけか、彼はユイのことを呼んでいた。
「キミの……父を……見た」
その一言で、ユイに動揺が走った。
瞳は揺らぎ、胸元に寄せた小さな手をきゅうっと握る。
「お父さまを……? で、でも、お父様は、十年前に、その、亡くなって――」
うろたえる彼女の声は自然と小さくなっていた。
「いいや、あれは……キミの父……マク・ウル先代学園長……たしかにその人だった……」
ユイはたった今言われたことを整理できずにいた。
もし仮にそうだとしたら――考えを巡らせる内、彼女は黙り込んでいた。
「……本当か?」
ディアスに訊ねる。
「この学園を……出て行った」
「……ひとり、か?」
「いや、違う……。十年前に……行方不明になった、…………と、ともに……」
「!?」
「……他には?」
「………………」
ディアスは何も言わない。
苦悶するように眉をひそめている。
「……………………………バイターを率いて、いた」
その言葉を最後にして、彼は事切れた。
信じたくない遺言だった。




