10話 目撃証言
「お兄さん、が……?」
「キャロット・B・メイキャット……あなたの家、世界に名を轟かせる五大貴族”B”の……次期当主となるはずの……ディアス・B・メイキャット……本人」
どうやらキャロットの家は相当大きな権力をもつ貴族らしい。兄も学園では有名だったようだ。
言われたことをすぐに飲み込めず、キャロットはしばし息を呑んでいた。
しかしそれから湧いた疑問に、リトリーに食って掛かる。
「そ、それっ、なんでもっと早く……っ」
キャロットは詰め寄るが、うまく話せていない。
混乱のあまりにまだ整理がついていないのか。
対するリトリーの表情には迷いや後悔が含まれている。視線をキャロットから逸らしている。
「……言おうか、まよった……。でも……いま伝えないと、だめだとおもった。……これは……ほんとう……」
「詳しく聞かせて、リトリーちゃんっ!」
ユイがお願いし、リトリーは首を縦にする。
「彼は……もう一人の誰か、男のひとと……あの図書室を……うろついてた……」
「ディアス兄さまの他にも生きている人が……?」
リトリーはキャロットの兄のことはわかっても、その男のことは誰だかわからなかったようだ。
「うん……でも……なんだか……こわい……顔……してた」
「……」
その後特に本を取るわけでもなく、二人は立ち去ったそうだ。
「目的はなんだったんだろう?」
「わからない……ただ……言ってた……『屋上へ戻るぞ』って」
「!?」
つまり、屋上に避難している?
彼ら以外の仲間を含めて。
キャロットとユイと目線を交わす。
キャロットのお兄さんだけでなく、ユイの探している知り合いもそこにいるかもしれない。
いや、待てよ……?
「で、ではっ、屋上へ向かって、みなさんを助けましょう!」
「待つんだ」
「ふぇっ? ユート様、どうして……?」
だがしかし。
「思い出してみろ。
この学園に潜入する前に俺たちが受けた歓迎を。
背後から射られた弓矢。屋上に隠れる人影。
あのときの奴と、キャロットのお兄さんが行動をともにしているのだとしたら……」
そのときのことを思い出したようにハッとする二人。
リトリーは蚊帳の外と言った様子で眠たげな目をこすっている。
「で、でもっ」
ユイは主張するように一歩前に出る。
キャロットはオレの推測を聞いて拳を強く握りしめて、わなわなと震えている。うつむいて隠れた前髪で、その瞳は覗くことができない。
「本当かどうかはわかりませんっ。だって、キャロちゃんのお兄さんは、とても、優しい人だったって、キャロちゃん、いつも言ってました……」
それに、と言う前にキャロットがユイのスカートの裾をつまんでいた。
「もういいよユイ。ありがとう。だいじょうぶわかってる。
ディアス兄さまはそんなことする人じゃないって。
行こうよ。それを確かめに、さ」
キャロットはオレの前まで車イスを引いている。
見上げているキャロットの瞳が少し、潤みを帯びているように錯覚した。けれど、彼女が目元を拭ったあと。いつもどおりの強い意志を秘めた眼差しがオレを見つめていた。
「……行こう」
キャロットの言うとおりだ。
リトリーの言うことが、あの弓矢が、”何を意味しているのか”確かめるために。オレたちはそこへ向かわなければならない。




