ループ9 ループを終わらせてみた
簡単には行かないと思っていたけれど、出て来ただけで、ひっくり返されるとは思わなかったわ。
狡賢いから、言い逃れられるようにしてるってああいう事だったのね。
こうなったら、やり直せるのを強みと思うしかないわ。
一回でもあっちを殺人犯だと思わせれば勝ちなんだから!
「あの。」
カルツォーニ伯爵子息がこっちを見ている。
ちょっと戸惑っているようだけれど、ああ
「頭は冷えました?」
にっこり笑いつつ声を掛ける。
「ええ、どちらか分からないってこういう事だったんですね。」
カルツォーニ伯爵子息が明らかにほっとする。
「『そっくり令嬢』は伊達じゃありません。」
胸を張って笑う。堂々とした方がいいって学んだんだ。
「いくつか質問して良いですか?」
「どうぞ。」
何が聞きたいんだろう?
「前の前の時、どうしてあの場所に居たんですか?」
「どうして……確かめたかったからですかね。でもいつも眠って運ばれていたから、場所が分からなくって、『人殺し!』って声を目印にたどり着きました。」
たどり着けて良かった。何がどうなっているか分からずに、時だけ巻き戻ってるところだった。
「そうだったんですか。それで、今の目的って何ですか?」
「犯人突き出して、巻き戻りを終わらせる!」
「そうなんだ。僕にできる事は有りませんか?」
「え?」
すっごく爽やかな顔で協力を申し出られた気がする。
私、あなたが斬られた原因なんだけど。
「僕だって終わらせたいんですよ。それに拘っているのがばかばかしくなったんです。後、僕の事はヴルムンと呼んで下さい。」
苦笑してる。そっかあ頼ってしまおう、斬られ仲間!。
「有難う。私の事はリエルって呼んでね。それでヴルムン、頼みたいことが有るの。」
「任せて下さい、リエル!」
ヴルムンには頼みごとをして分かれたわ。
私もやることをやらないと。
また、ヴァンハークト侯爵令嬢が、このパーティに来ていた噂を流す。
これが前回有効だったから。
終わったら、時間を見計らってまたあの部屋に行くわよ。
「きゃぁぁぁぁ」
「人殺し!」
ただいま死体を発見しました。
狐の人殺し発言も前回と変わらない。
「扉の外から見ているだけで人は殺せないっ。いい加減な勘違いで人を指差さないっ。」
やっぱりこの狐はいらつくなぁ。
前回と同じように、エリック王子や他の人もやって来て、いろいろガヤガヤした後に、いつもの並びになった。
今回も私は発見者。
「リエル=ハンクト伯爵令嬢、リナリー=マクラフト伯爵令嬢の死体を発見したそうだがその通りか?」
「はい、その通りです。」
同じように答えておく。
この後も同じように答えたわ。
発見時の状況を報告して、リーズウェル=ヴァンハークト侯爵令嬢が怪しい事を伝えたの。
今はリーズウェル=ヴァンハークト侯爵令嬢がやって来るのを待っている所。
後は熊かな。
「この女だ、この女が部屋から出て行くのを見た!」
やっぱり熊だ。熊が大声を上げながら、私の方を指差している。
「どういうことだ?」
エリオット王子が熊に話を聞いている。
「この屋敷の裏庭を散歩していたら、丁度この部屋の窓からこの女が出てくる所を見たんだ。」
誰でも出られそうな窓を指している。
さあ、ちゃんと反論しないと。
「私、あなたの事を良く知りませんが、私とヴァンハークト侯爵令嬢の見分けがつくのですか?」
「そ、それは……」
熊の額から汗がにじみ出した。
目もキョロキョロと落ち着かない。
「リーズウェル=ヴァンハークト侯爵令嬢がやって参りました。」
来たっ
入口から声が響き、ヴァンハークト侯爵令嬢が姿を現す。
真っ白なドレスに、大ぶりの白い髪飾りをつけて。
「なるほど、そっくりだな。」
エリック王子が二人を見比べてそう言った。
私も今回は、白いドレスに大ぶりな白い髪飾りだ。
熊もどうしてよいか分からずおろおろしている。
「あなた、なんて格好をしているの!」
ヴァンハークト侯爵令嬢が私を見ながら声を荒げた。
「貴方こそ、その格好で家で休んでいたの?」
ヴァンハークト侯爵令嬢を見ながら言い切る。
私はいつもと違う装いでパーティに来ただけ。大きな髪飾りをつけてドレスでくつろぐ人ほど趣味は悪くない。
「エリック殿下に呼ばれたから着替えて来ただけよ。」
「この時間で? 着替えが早いのね。」
ドレスである。真面目に着付けたら1時間近くかかる。
エリック王子が呼びに行ってから15分と掛かっていない。
「そんな事どうでもいいでしょ、呼ばれてきたら変な難癖をつけられるなんて。」
「あなたが来るなり言いがかりをつけて来たんでしょ。」
「それで、本題に入りたいのだが。」
「「申し訳ありません。」」
エリック王子に言われては謝罪するしかない。
「リーズウェル=ヴァンハークト侯爵令嬢。お前は愛する婚約者、マルクト=ハイデマン侯爵令息を、そこのリナリー=マクラフト伯爵令嬢に奪われ、恨んでいた。相違ないか。」
エリック王子は淡々とヴァンハークト侯爵令嬢に尋ねた。
「私はそんなことを尋ねられるために呼ばれたのですか。」
ヴァンハークト侯爵令嬢は、冷たい瞳でエリック王子を見つめながら言った。
「そして今日、リナリー=マクラフト伯爵令嬢を殺した。」
「話になりませんわ。」
ツンと頭をそらしつつ、エリック王子とは別の所を見た。
エリック王子は私の方を見た。
「この窓から出た女性が、ヴァンハークト侯爵家の庭に入っていくのを見ました。」
突然、窓から声がした。
窓の方を見ると、ヴルムンが顔を出していた。
「その女性について、詳しく話してくれ。」
エリック王子が言った。
「青緑のドレスを着て、ドレスに赤いシミの様な汚れが有りました。長髪で、髪の色は銀色でした。丁度あんな感じの人でした。」
ヴルムンは私とヴァンハークト侯爵令嬢を指差していた。
「その人なら私も見たわ、怖い顔で死んでいる人を睨んでいたの。」
「俺も見たな、会場で誰かを探していた。」
「私も見たわ。」
「居たって噂なら。」
観客から目撃情報が寄せられる。
青緑のドレスを着たヴァンハークト侯爵令嬢を見た噂を流していたのも効果あったみたい。
「青緑のドレスか……全然違うな。」
私とヴァンハークト侯爵令嬢を交互に見ながらエリック王子は零す。
「ドレスなら、着替えればいいんですよ。自分の家に帰ったわけですし。」
「なっ」
私の提案に対し、ヴァンハークト侯爵令嬢が声を上げた。
「何で私が着替えたことになるの。あなたが着替えても良いでしょう?」
「パーティ会場でドレスを変えるのは大変ですし、言い訳が大変でしょう?私の家は30分ほどかかりますしね。その点あなたなら、入っていった先が自分の家の庭ですし、そのまま家に帰って新しいドレスに着替えればいいのですわ。例えば白いドレスとか。」
ヴァンハークト侯爵令嬢のドレスを見る。
「何が言いたいの!あなただってドレスが汚れていれば、ここで着替えれば良いでしょう?血のシミが付いていれば、着替えるのもおかしくないのですから。」
「血のシミ?」
私が呟やくと、ヴァンハークト侯爵令嬢がはっとした。
「僕は赤いシミとしか言ってないのですが。」
ヴルムンが付け加えた。
「赤いシミと聞いて血のシミかと思ったのよ。死体に、べっとり血が付いているでしょう?」
「パーティで赤いシミならワインじゃない?」
ちょっと突っ込んでみる。
「ヴァンハークト伯爵令嬢。」
エリック王子がヴァンハークト伯爵令嬢の方に向き直りながら言った。
「私じゃないわ! ただそこにある血から思い浮かべただけじゃない!」
このエリック王子はそのくらいの誤差は気にしませんよ。
「大丈夫、この剣は『時の天秤』と言って、無罪であれば無傷だそうだ。」
剣を抜きながら振り上げた。
「ひぃぃ。」
ヴァンハークト侯爵令嬢が悲鳴を上げながら、手を顔の前に上げる。
「生き残ったら感想を知らせてくれ。」
そう言いながら、エリオット王子は剣を振り下ろした。
ザシュッ
ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン
ヴァンハークト侯爵令嬢を斬った瞬間、時計台の鐘の様な音が聞こえ、剣身の黒い靄が晴れて行った。
ヴァンハークト侯爵令嬢はピクリとも動かず、血を流して倒れていた。
私はヴルムンの方を見た。
ヴルムンも私の方を見ていた。
どちらからともなく笑っていた。
「有罪であったか。」
エリック王子は残念そうに剣を鞘にしまった。
そして、私の方を見た。
「ハンクト伯爵令嬢、ヴァンハークト侯爵令嬢が有罪であった以上、お前の無罪は確定だ。
無罪であれば、無傷であると言う、一度斬られてくれないか?」
「今の鐘の音でこの事件については終わったと思います。実験は次の事件でお願いします。」
言い切ると同時に、私は扉に向けて駆けだしていった。
もう二度と、あの剣で斬られるのはごめんだ。
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