ループ0 殺人事件発生してみた
「リーズウェル=ヴァンハークト侯爵令嬢。お前は愛する婚約者、マルクト=ハイデマン侯爵令息を、そこのリナリー=マクラフト伯爵令嬢に奪われ、恨んでいた。」
「違います。」
うん違う。
「今日このパーティに、リナリー=マクラフト伯爵令嬢が来ることを聞いて、隣家であることを利用し、招待されることに成功した。」
「違います。」
全然違う。
「リナリーマクラフト伯爵令嬢が、この部屋で一人になった事を幸いと、影から忍び寄り、手に持ったナイフで彼女を一突きに刺殺した。」
「違います。」
まったく違う。
「では何故、リナリーマクラフト伯爵令嬢が死んでいるこの部屋で、その血に塗れたナイフを握って座っていたのだ? リーズウェル=ヴァンハークト侯爵令嬢?」
「違います。」
だから違うって。
「何が違うのだ? お前は被害者を恨んでいて、死体の前で血塗れのナイフを握っていた。お前が殺したことは、明明白白だ!」
「違います。」
明明白白に違うんだって。
「いい加減にしろリーズウェル=ヴァンハークト侯爵令嬢! 何が違うと言うのだ!」
「私はリエル=ハンクト伯爵令嬢です!」
初めから人違いなの。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私、リエル=ハンクトは、転生者だ。
まあ、チートとかは無かったし、何も始めていないから、良かった点とかは無い。
ただ、考え方が人とずれているらしく変人扱いされているだけ。
今日もいつも通りに招待されたパーティにやって来たの。
貴族に生まれたお仕事みたいな物だから、ちゃんとこなさないとね。
もちろんコネや隣のよしみでわざわざ招待してもらった訳では無いわ。普通に送られて来た物よ。
大体私の家は、馬車で30分はかかるんだし。
パーティ会場で、知り合い2~3人と話していたら、ちょっと熱くなってきたので庭へと涼みに出ることにしたのよ。
まだパーティが始まってさほど時間が経っていないことも有って、庭にはあまり人が居なかったの。
気ままに歩いていると、人気がどんどん無くなっていき、頭に衝撃が走って意識が途絶えたわ。
その時誰かに殴られたみたい。
悲鳴が聞こえて意識を取り戻すと、私は白い床の上に寝ていたわ。
頭はズキズキ傷んだけど、青と緑を重ねた服はパーティに来たまま、破れたり汚れたりも無かったし、無くなった物も無かったわ。
ふと目を上げると、目の前に血塗れのナイフが転がっていたの。
手に取って眺めていると、「人殺し!」の声が聞こえ、周りを眺めると、部屋から出る扉にウェイターとメイドがいて、ウェイターが私を指差していたわ。逆の方向には、窓が有って、そこから離れた所に女の人が倒れていたの。
その女の人の綺麗な金髪は乱れていて、桜色のドレスは真ん中が血で真っ赤に染まっていたわ。
そしてたくさんの人がやって来て、気付くとエリック王子が周りの人を指揮していたの。
エリック王子は黒い髪に黒い夜会服を着て、腰に剣を差していたわ。
パーティに剣なんて変よね。
そして変なエリック王子は私の目の前で、人違い推理を披露し始めたのよ。
全然人違いだと気づかないから、自分の名前を言ったの。
そうすると、周りがザワザワしたわ。
「リエル=ハンクト伯爵令嬢だと? リーズウェル=ヴァンハークト侯爵令嬢ではないのか?」
「そっくり令嬢?」
「ああ、そっちの令嬢か。」
私とリーズウェル=ヴァンハークト侯爵令嬢は隣に並んでみれば違いはいくらでもあるわ。
でも、遠目や片方だけ見ると、同じような銀色の髪に緑の瞳、体形に、顔のパーツや並び方も割と近くて、よほど親しい人でもないと間違える程度には似ているの。
おまけに服の好みや選び方、アクセサリやその他のあしらい方などがそっくりで、パーティ会場等では、どっちが参加しているのか、もしくは両方が参加しているのかわからなくなってしまうのよ。
それで、爵位も知名度も低い私が『そっくり令嬢』とか『にせもの令嬢』とか言われているわ。
今日も、私だけが参加しているのか、ヴァンハークト侯爵令嬢も来ているのか、私にもわからない。
ただ、間違われたことだけはわかるわ。
「ですからそこの死んでいる彼女と婚約者を取り合ったりしてませんし、もちろん恨んでも居ません。」
「いや、そっくりなんだから、同じように婚約者を取られているんじゃないのか?」
「いえ、婚約者は居ませんから。」
「じゃあ恋人をとられたとか。」
「恋人も居ませんって。」
似てるからって相手がいるって決めつけるな!
「じゃあ、そっくりな彼女が婚約者を取られたから取った相手を恨んで殺した?」
「そんな理由で殺しませんって。」
何が悲しくて他人の恋人が取られた恨みを晴らさないといけないのよ。
「じゃあなんで殺したんだ?」
「殺してませんっ。 誰かに殴られて、気が付いたらここに居たんです。」
自分でも信じがたいけど本当なんです!
「そんな事が実際にあるわけは無いだろう。」
「他人の婚約者が取られたからって殺意を抱くよりは有りますよっ」
私とエリック王子はにらみ合う。
普通なら王子とにらみ合うなんてお断りだけれど、ここで引いたら殺人犯だ。
やっても無い殺人の犯人なんてもっとお断り!
先に目をそらしたのはエリック王子だった。
「このままでは埒が明かないか。ならば。」
エリック王子は視線を落とすとボソッとつぶやいたわ。
そして腰に下げている剣を引き抜いたの。
その剣は、剣身は透明で、水晶か何かで出来ているように透き通っていて、柄の根元に時計の様な物が埋め込まれていたの。
剣身が綺麗……じゃなくて。
「暴力反対!」
「安心しろ、この剣は『時の天秤』と言って、無罪であれば無傷だそうだ。」
そう言いながら剣を振りかぶるエリック王子。
「だそうだって、無罪の人に使った事ないの?」
「初めて使うのでな。」
ゆっくりとこちらに歩いて来る。
「先に何かで確かめてっ」
「お前で確かめる。」
ゆっくりと近づいて来る。
「不良品だったらどうするのっ」
「これでも剣は得意だ。痛いと思う前にあの世だ。」
私の目の前で止まる。
「安易な殺人反対っ」
「生き残ったら感想を知らせてくれ。」
そう言いながら剣を振り下ろ…………
ザシュッ
チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク
どこかで時計の音が聞こえる……
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