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会員制真夜中の秘密クラブ  作者: 織風 羊
21/21

21 夜会の終わりに

よろしくお願いします。



 彼は珍しく片手にグラスを持って私の傍までやって来た。


「今夜は誰も来ないようですので、私も一杯いただきましょう。これですか? ラフロイです。シングルモルトの香りを楽しむにはウイズ・ウオーターが一番です」


 そういう彼の顔は、いつもの優しい笑顔であった。


 私はビリヤードを途中でやめて、いつもは何人もの人達が集まる丸いテーブルに腰掛け、隣でシングルモルトを楽しんでいる老紳士に語りかけた。


「あの画伯が描いた貴婦人なのですが、どう見ても現代風ではなくて、中世の時代を感じるのですが」


「そうですね、そうかもしれませんね」


「今もご存命なのでしょうか、画伯と同じ年頃の人であったとするなら、失礼ですが、それなりにご高齢と思えるのですが」


「はい、あの時代から若く美しいままですよ」


 私は、あの時代というと中世の時代から?と思ったが、あまりにも馬鹿げた質問になると思い、言葉を慎む代わりに別の質問をしてみた。


「今も若く美しく、ということはご健在のようで何よりです。で、今はどちらにいらっしゃるのかご存じなのでしょうか?」


「あの暖炉の部屋の奥の扉の一室ですよ。マダムは静かに眠っております」


 私は、その言葉を聞いた途端に、背中に冷たいものが走るのを感じた。


 それは私の考え過ぎと言っても過言ではないと思うのだが、もしも中世の時代に生きていて別室で静かに眠っているだけ?だとしたら? それとも眠っているのは今夜だけということなのか? それならば今まで少しの時間でも何故、夜会に出てこなかったのか? 想像すればするほどに私は言葉を失っていった。


 それを知っていてか知らないふりをしているだけなのか、老紳士はさらに言葉を続けた。


「マダムの名前はリンと言います。このクラブの発起人であり、今もオーナーとして健在です。ただ、現在のところは眠っておられますが」


 現在のところは? 私はマダムと呼ばれるリンという夫人の生命の長さを確信したように錯覚した。


「何度もお伺いして失礼とは存じますが、マダムとの出会いは、どんなご様子だったのでしょうか?」


「私は昔、古本屋を経営しておりました。その時のお客様とでもいったらよろしいのでしょうか。私とは、その頃からのお付き合いになりますが、マダム・リンは、ずっと以前からこの星にいらっしゃたようですよ」


 私は、この星、と言う表現に目眩のようなものを感じながら、


「続けてお伺いしても差し支えがありませんのでしたらですが、私達はそれぞれに軽く挨拶をして名前も交換し合いました。が、私は貴方のお名前を伺うことを失念しておりました」


「私ですか、私はそう、タッタリア、とでもお呼びくださいませ」


 更に私は、この二人の関係を知ろうとも思わなかったが、どう考えてもおかしいそれは、集まりくる人達の体験談に加えて、まるで素性の分からない二人の老紳士と老貴婦人、いや、タッタリアの言うことが本当なら淑女になるのだろうか?


「さあ、私も今夜は喋りすぎました。今夜は誰もお越しにならないようですので、この辺りでお開きにしましょう。さぁ、扉までお送りいたしましょう」


 そう言われて、改めて老紳士を見ると、有無を言わさせないような毅然とした態度が表れていたので、私はシンガポールスリングを三分の一ほど残して席を立った。


 そして、扉の前に立つと、私は勇気を振り絞って最後の質問を投げかけてみた。


「いつも招待状をお送りくださって感謝を申します。ところで差出人は、いつも会員制真夜中のクラブとなっていますが、正式な名称とかはあるのですか?」


「マルセリーノ、このクラブの名前です。貴方も、この名前をご存じだと思いますが?」


「・・・・・・・・。」


「さぁ、今夜はお帰りになった方が良い。これ以上知ると貴方は記憶を無くしてしまうかもしれませんよ? もちろん冗談ですが」


 彼はいつもより以上に微笑んで、そう言いいながら扉を閉めたが、私は扉の外で確信した。


 次に話をするのは、私でなければならないのだろうと。


 そして、何故、私の取引先の重役は、私を此処へ推薦してくれたのかが少し分かったような気がした。


 更には、あの重役にはどんな物語があったのであろうか? 想像しても仕方がない。


 既に亡くなっているのだから、いや、もしかして記憶を無くされたのか? その後で・・・。


 それはあり得ないだろう、私は一人で、馬鹿げた空想をしたと自分を嘲笑いながら夜道を歩いた。

 

 タクシー乗り場までゆっくりと歩いた。

ありがとうございました。

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