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20 他に誰も
よろしくお願いします。
その夜は私一人きりのようだった。
「今夜はまだ誰も来ませんね」
とホスト役の品の良い老紳士が言った。
私は、それでもサイドテーブルにシンガポールスリングを置いて、一人でビリヤードを楽しみながら、誰か来ないかと待っていた。
私は、この秘密めいたクラブで、不思議な話を望んでいた、いや、欲していたと思う。
それは乾涸びた夏の大地の裂け目が、大雨を一気に吸い込むように、多くの体験談を聞きたかったのだ。
だが、その思いも叶わず、今夜は誰も来なかった。
「どうされますか?」
と老紳士に聞かれて、それでも私はシンガポールスリングをもう一杯頼んだ。
既に5杯目である。
ありがとうございました。




