与えられし力
「今の声。」
「美珠様の声だよな。」
暗守と魔央が足を止め振り返る。珠以は悔しそうに呟いた。
「何処に居るんだ、後ろじゃなかったのか。美珠様!何が何でも止めればよかった!」
付いてくることは相馬からこっそり聞かされていた。後ろから付いていくから大丈夫だと。けれど精鋭部隊は今まさに城の広間に出たところだった。
「国明・・・引き返すか?」
暗守の問いかけにほんの一瞬、珠以は悩んだ。そして瞬時に答えを出した。今は悩むことさえできない状況だった。
目の前には数十匹の魔物とかつて同じ所で暮らした竜騎士団団長が立っていたのだから。
「・・・さっさと終わらせてから会いに戻る。」
この状況を見て見ぬふりをし、彼女のところへかけつければ、きっと彼女は自分を叱りつける。
引き返すことなどこの国の騎士として考えてはいけないことだった。
「そうか。なら、さっさと終わらせる。」
聖斗が剣を抜こうとすると光東がそれを止め、自分の剣を抜いた。
「お前らは先に行け。ここには桐がいない。倒せるのは国明だけなんだから。」
「止まるな。さっさと行け。それから美珠様の無事を確認しろ。」
暗守も光東の隣で重い斧を構えた。
「迷うな!さっさと行け!爺共!」
「魔希!」
魔希は不敵に笑うと襲ってくる敵に炎をぶつけた。精鋭部隊として名を連ねた魔希は隊が二つに分けられるとき自ら魔央と別の隊を志願した。
本心では離れたくはなかったし、魔央もよくは思ってはいなかった。けれど名簿を見た時、勝つためには、この国のためには離れるしかない。そう思った。
能力の高い自分達ふたりが、別の隊に別れたほうが他の騎士達を補助し守れる。
それが美珠に許され戻ることのできた自分への罪滅ぼしだった。
「ちゃんと追いつく。俺を信じろ!もう暴発しない!約束する。だから、この国の為に!」
「分かった。・・・頼んだぞ!ここを死守しろ!すぐに助けに戻る。」
「偉そうに。もし、魔央が苦しんでたら俺が助けに行ってやる。」
魔央も魔希も顔を見合わせ、口元を緩めると同時に、お互いに背を向けた。
どれ程後ろ髪を惹かれてもお互いを信じていた。
竜桧は残った顔を見て鼻で笑った。
けれど、目だけは妙に血走っていた。その姿が異様でその場にいた者は背中に冷たささえ感じた。
「軽く見られたもんだな・・・。俺は桐から力を貰ったのに・・・。死んで貰う。桐に全員殺すように頼まれたんだ。俺の可愛い桐に。」