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両者

美珠は珠以が出立すると聞くや否や、眼を多きく見開き首を振った。

「嫌!絶対嫌!」

和やかだった二人の空気は一瞬にして重いものとなった。

「避難なんていやよ!私もあなた達と!だって支えてくれるって言ったばかりじゃない!」

「必ずあなたの元へ戻ります!俺は死なない!やっとあなたのそばにいられるんだから!でも美珠様!あなたはこの国の跡継ぎです、危険な目にあわせるわけにはいきません!」

「跡継ぎ?そんなものどうだというのです!危ない思いをしてる人を置いて逃げるなど!私は自分の民や仲間を捨てる人間ではありません!」

「分からない人だな!あなたが無事でいることが民の希望なんですよ。」

 美珠と珠以の口論はますます熱を帯びてきた。

「分からないのはあなたよ、この分からず屋!私は孝従を止めに行く、そうあの人の奥様と約束したのよ。」

「孝従があなたの話をまともに聞くとお思いですか!」

「聞いて貰うのよ。」

「このお人好し!だからそうやって恐い思いばかりしてしまうのですよ、とにかく逃げて下さい。」

「絶対に嫌よ!」

 珠以は美珠の顔を見る。美珠も珠以をにらみつける。

「あなたとは意見が合わないようね。」

「そうですね。俺の気持ちを全く無視して下さるようだ。記憶が戻られてからというもの気が強くて困る!」

「性悪の貴方よりましでしょう?」

 珠以と美珠はお互いそっぽを向いていた。

「もう部屋から出て行って頂戴!」

「ダメです。またあの女が襲ってきたらどうする気ですか!強がってても、あなたの力じゃ追い払えないのですよ。今日は警備もかねてここにいるよう仰せつかっていますから、床に布団をしいて眠ります!」

 美珠は口を膨らませ横を向いた。

 一方、珠以はやっと美珠を黙らせることが出来安心したようだった。

 美珠はずっと考えていた。自分が今すべきこと、いや、したいと願感じることを。

 そして目を閉じて隣に座る珠以にもたれかかった。

「どうなさいました?」

「私は孝従を助けてあげたい。」

 その口調が優しいものだったので、珠以は違和感を感じた。

「孝従はきっと今、寂しい。」

「何のことですか?」

「私・・・知ったの・・・。孝従はいい父親だった。つい最近まで。家族を作って村に溶け込んで・・・。でも・・・それは一瞬で消えてしまった。それを奪ったのは騎士同士の喧嘩。」

「奪った?」

「ええ。孝従の子供は・・・騎士の喧嘩に巻き込まれたそうです。身重の奥さんも怪我をして・・・。そして・・・命をを奪ったのは国王騎士団・・・。」

「私の団が子供を・・・?」

「ええ・・・。私も騎士同志もめているのは耳にしていました。けれど軽く考えてしまっていた。騎士がもめて一般の民達に被害が出ている。・・・その『被害』なんて・・・考えもしなかった。事務的に聴いていたの。」

「・・・確かに我々がたしなめようと血の気の多いものたちはいます。けれど・・・まさか・・・子供を・・・。」

 それは国王騎士団長国明として衝撃的な事実だった。

 報告にあがってくるものは厳正に対処していた。

  けれどそれは氷山の一角にしか過ぎなかったのか。

 たとえどんな非難を受けようが、彼らを信じ守るつもりだった。国王騎士を、自分の下で働くものたちを誇りに思っていた。

 けれど真実はどこにあるのか・・・。

 自分が美珠の元を離れることになった根源、孝従こそが敵だと思っていた。彼の行い全てが悪だと。

 極悪非道、かつて自分達の信頼を裏切り、自分を切り捨てた挙句、また現れ美珠にまで手を出そうとした許せない男。

 けれどおそらくあの男にすれば、騎士こそが憎むべき存在であり、その上でのうのうと長と名乗る自分が許せない存在だったに違いない。

「珠以・・・。」

「・・・そう・・・ですか・・・。ならば、責任を取るべきは俺です。だからあなたはどうか逃げてください・・・。」

「私は・・・あの人の奥さんと話をした。あの奥さんの顔を、思いを自分の口から伝えたい。どれだけ心配されて、どれだけ愛されてるのかを。」

「美珠様・・・。」

「だから・・・私は行きます。」


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