怯え
「お気づきですか?」
珠以の顔と珠利の顔がのぞき込んでいた。
「うん。」
頭の軽さに違和感を覚え、ふと触れてみる。
それは今までの感触ではなかった。
軽さから、まるで髪の毛の全てがなくなったかとさえ思えた。けれど手を頭に沿わせると、首のあたりに触れ慣れた糸のような感触が残っていた。
「髪の毛・・・切り過ぎちゃった。」
「私が後で切りそろえますから。・・・お水です。」
「ありがとう。初音ちゃん。」
初音から冷たい水を受け取ると、美珠は水を飲もうとして止まった。
手が震えていた。
敵に怯える、こんなこと姫として、この国の跡継ぎとしては誰にも気が付かれたくなかった。
自分は強いと思われたかった。
「ごめん、少し一人になりたいの。」
珠利は美珠が震えているのに気が付いていた。
珠以に目で合図するとその場を仕切った。
「ほらほら、出よう。晩ご飯食べにいこ。相馬、皆の分用意しな。」
「は?お前、女だろ。ちょっとは女らしいことしろよ!この暴力女!」
昔のように仲良く怒鳴りあいながら出てゆく二人の姿を見て美珠はほんの少しだけ笑顔を作った。
「二人は相変わらずだね、あっ、珠以も食事取りに行ってきたら?」
「俺の前で強がらないで下さいね。甘えてください。」
珠以はそう言うと布団の中に隠れて震えている美珠の手を取る。
「まさかこんな所に現れるなんて。美珠様、恐い思いをさせて申し訳ありませんでした。」
珠以はそう言うと美珠の手に口付ける。
「珠以。」
「あなたを守るために俺はいます。それは今だけではありません。これからもずっと・・・。王は一人では王にはなりえません。支える者達がいて、くじけそうになったり、迷いそうになれば、命を投げ出しても助けられる者が必要なのです。俺はあなたにとってのその一番の人間でありたい。」
美珠はその言葉を聞くと涙が出た。そして隠すために珠以の胸の中にポソンと顔を埋めた。
珠以の心臓の音を聞くと安心できた。
その言葉で十分だった。
「ありがとう・・・。珠以。」
「いえ・・・。」
いつの間にか美珠の手の震えも止まっていた。
「珠以と二人で居ると・・・とても安心する。」
「ええ。この時間がとても愛しい・・・。」
珠以は美珠の短くなった髪に触れていた。
「珠以は・・・髪の毛の長い女の子が好き?」
「別に髪の毛の長さなんて関係ありません。俺はあなたが、あなたの中身が好きなんですから。」
「じゃあ、剃刀で頭を剃っちゃおうかしら・・・。撫でたらチクチクするわよ。」
「それはちょっと・・・。きっとそうなったら、そのまま胴着を着せて、国王騎士団の入団試験に送り込むかもしれませんね。」
珠以が自分を慰めようとしてくれている。
だからこそ、美珠も冗談を言ってみた。些細なことでいい。
この人と笑っていられれば。
しかし珠以はその後美珠に無情な一言を呟いた。
「・・・美珠様、明後日我々は戦いに行きます。美珠様は珠利達と避難をしておいて下さい。」




