ツシジノ50ドーコ ←
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人間の姿の頃の( )は、とても美しかったらしい。
らしい、というのは謙遜とかではなくて、そう言われ続けたからだ。
全方位から鏡で私を映されても、私は自分を美しいとは感じなかった。
ある有名なアニメに出てくる女泥棒のように「とびっきりの良い女」とか言えたらよかったのかもしれない。
でも、私にはそんな事は無理だった。
街でどんなに声を掛けられても、何人に振りかえられようとも。
靴箱いっぱいのラブレターをもらったとしても、愛を叫ばれながら殺されそうになったとしても。
結局私は、自分を愛した事なんて、今まで生きてきて一度もなかった。
だから、私は綺麗なんかじゃない。
「とびっきりの良い女」でもない。
私は、この姿が醜くて嫌いだ。
目を覚ますと見慣れた天井が目に入った。
ああ、この化物が喰った「漂うもの」を全部、化物の胃袋から没収したんだっけ。
頭を掻きながらベッドから離れる。
真っ白なシーツが肌を撫でながら落ちた。
「化物……今日も……行こうか……?」
私は右腕に触れた。
化物は血管を広げて狂喜している。
冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出し、それを飲んだ。
味は……やっぱりこんなものだろうな。
欠伸をしながら玄関を見ると、綺麗に包装された箱を見つける。
私は顔を顰めた。
黒色の箱に紫色のリボン。
こんな事をするのは金持ちだけだ。
箱の上には蝶の形のメッセージカードが添えられていた。
夜に舞い降りる黒い蝶のように。
私はライターを持って外でそれを燃やした。
とりあえず、目障りなものはこれで消えたな。
私は再び玄関に戻り、リボンを解き、箱を開く。
そこにはどこに付ける物なのかわからない、大きくて黒いリボンがあった。
ゴシック調のそれは、異様に輝いていて、薄気味悪い。
私はSNSを開いて帰国子女に連絡した。
その内容は【ゴシック調の可愛らしいリボンを手に入れたんだけど、いらない?】といったものだ。
数分後に返信が来た。
そして書かれていた内容に私は鼻で笑ってしまう。
【GPSを仕込まれてるのはわかりきってるから、そんな気持ち悪いのいらない】




