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花言葉の物語 ~青春グラフィティ~  作者: 十六夜 あやめ
2章 不器用でも空回ってでもキミのもとへ
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クロッカス


 休日の早朝は職場へ向かう車も学校へ通う学生の数も少ない。たまにすれ違うのは犬の散歩をしている近所の人くらいで、この時間帯はまだみんな眠っているようだ。普段のぼくならば同じく眠っていただろう。けれど今回は違う。ぼくはいまの時刻よりもずっと前に起きて支度をしていた。茉依には「遅れてるんだからさっさといくぞ」と言ったけれど、実は茉依が寝坊しても待ち合わせ時刻に間に合うように時間を調整していた。見事に茉依が寝坊をするのだからぼくの読みも悪くなかったようだ。

 石田と雨宮さんとの待ち合わせ場所までぼくは茉依の歩調に合わせてゆっくり歩いた。


「ゆーさんに茉依さんこっちっス!」


 待ち合わせ場所にしていた学校近くのコンビニの前で大きく手を振っている石田がいた。


「こーくんおはよー」


「おはよう石田。雨宮さんがいないみたいだけれどもしかして遅刻?」


「茉依さんおはよーっス。ゆーさんもおはよっス。雨宮さんが遅刻なんてするはずないじゃないっスか。いまコンビニで買い忘れた物を買ってるっス」


 店内を覗くと雨宮さんがレジでちょうど支払いをしているところだった。

 待ち合わせ時刻10分前。ぼくの時間調整はなかなかぴったりだったようだ。


「あら、もう来ていたのね。待たせてしまってごめんなさい。茉依ちゃんに須永君おはよう」


「梓ちゃんおはよー。なに買っていたの?」


「これ? 虫除けスプレーよ」


「虫除けスプレー? 雨宮さん、山にでも行くの? そういえばぼくも茉依もどこへ行くか聞かされてないんだけれど……」


 そう言うと雨宮さんは「えっ!」と驚いていた。そしてそのままキッと目を尖らせて石田の方を向いた。


「ちょっ、雨宮さん怖すぎっスよ……。そもそも俺は何も悪くないっスよ、てっきり雨宮さんの方から2人に伝えてると思ってたんスよ。ゆーさんも何も聞いてこなかったし」


「伝えてないわよ。お父さんとお母さんに使用許可をもらったあとに2人に伝えておいてって言ったはずよ? しっかり聞いててもらわないと困るわ」


「言ってたような言ってなかったような……言ってたっスかねぇ……」


 雨宮さんは少し呆れ顔で石田を見つめたあとに小さくため息をついていた。


「須永君に茉依ちゃんしっかり伝わっていなかったみたいでごめんなさい。今日は私の家族がたまに使っている場所を借りることになったの。それはここから電車で数駅行った山の中にあるのよ」


「それで虫除けスプレーが必要なんだねっ」


「ええそうなの。茉依ちゃんの分も須永君の分もあるから安心していいわよ」


「雨宮さんにだけ支払いさせちゃ悪いよ。いくらかな、お金払うよ」


「気にしないでいいわよ。たいした金額でもないし、私も予備で持っておこうと思っただけだから」


「俺は聞いていたんスけど忘れちゃったみたいで……。雨宮さん貸してもらえないっスかね?」


 困った顔をした石田が下手に出ると雨宮さんは口元に手を添えてくすっと笑った。

 その瞬間、ぼくにはなんとなくこの先の展開が見えた。きっと間違いないだろう。


「あら、あなたが虫を引き寄せてくれれば本当は虫除けスプレーなんか必要ないのよ?」


「ちょっ! それひどくないっスか!?」


「言い忘れたうえに持ってき忘れる方が悪いのでしょう。子どもでもできることくらいやってもらわないと困るわ」


「もー朝からあんまりっスよ! ねぇゆーさんからも何か言ってあげてくださいよー」


 今日のぼくの先読みはどうやらなかなか当たるらしい。だけど、いまのは『読む』というよりも『流れ』で分かったというのが正しいのかもしれない。雨宮さんと石田のやり取りを何度も見ていることで自然と『流れ』が分かるようになるスキルが身に付いていたみたいだ。正直なところ、2人だけの『流れ』を分かっても役に立ちそうもない。


「…………。雨宮さんそろそろ行こうか」


「えぇそうね。それじゃあ私についてきてもらえるかしら」


「ちょっ、ゆーさんもっスかっ! 待ってくださいよー!」


 普段と変わらない光景を一通り見たところで、ぼくたち4人は駅へと向かって歩き出した。




   ――・――・――・―― 




「ねぇ雨宮さーん、あとどれくらいっスかー? あれこれ結構歩いてるんスけどー。俺疲れてきたんスけどー」


「うるさいわね、もう着くわよ」


 その言葉を発した後、すぐにそれは見えた。

 紺色をした屋根に大きなガラス窓が張られた風合いのいいログハウスだった。

 ぼくは思わず感嘆の声が漏れてしまった。ぼくたちは今日一日ここで過ごすのか。


「わぁーすごぉーい!!」


「いやー聞いてたよりも凄いっスね! なんかこれからとてつもない青春が待ってそうな気がするっス!」


 それはぼくも同感だ。こんな立派なログハウスを目の前にして心が高揚しないはずがない。今にも駆け出してしまいたい。それくらいぼくは楽しみで仕方がなかった。


「外だけよ。中は案外質素でたいしたことないけれど、今日は一日楽しく過ごしましょ」



 今日、ぼくたちは雨宮さんのご両親が所有する別荘にやって来ました。








 クロッカス。花言葉は、『青春の喜び』『あなたを待っています』などです。次回話に続きます。



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