52.僕の新たなる道
パートタイマーの採用面接を終えた日の夜。
社長室のデスクには、数百枚に及ぶ応募者たちの履歴書控えと、キアリーが細かく書き留めたメモが積まれていた。
「……ふふ、やっぱり面白いなぁ」
キアリーはランプの明かりの下で、目を輝かせながらペンを走らせていた。
そう――キアリーが今回、あえてギルドを通した大規模な求人を出した最大の理由は、単なる「作業員の人手不足」だけではなかったのだ。
キアリーの胸の中でフツフツと湧き上がっていたのは、この世界に生きる者としての純粋な知的好奇心である。
(この世界に存在する『固有スキル』とは、一体なんなんだろう?)
自分自身の『トラップバスター』やエレンの『テルアライ』、そしてスライムのグリコにも発現した『カンサイベン』。
これら多種多様なスキルは、どんな条件で発現するのか?
発動にはどのような精神状態や意志が関わっているのか?
そもそも、世界の人類やモンスターのうち、一体何パーセントが固有スキルを覚醒させているのか――?
「人手を雇う」という名目で求人を出せば、街中のあらゆる人々が「自分の能力」を履歴書に書いて持ってくる。
キアリーにとってその面接の場は、人を選ぶ場所であると同時に「世界のスキル保持者の生データを収集する絶好の実験場」だったのだ。
実際には安全面を考慮して、スキル持ちを採用することはなかったのだけれども。
『兄ちゃん、まだ起きてんのか?研究者気取りもええけど、夜更かしは肌に毒やで~』
高級レタスのベッドから、グリコがぷるんと顔を出して欠伸(※顔も口もないが)を噛み殺した。
「あはは、ごめんごめん、グリコ。でもね、すごくワクワクするんだ。世の中にはボクたちの知らないスキルがもっとたくさんあって、みんなそれぞれ面白いきっかけで目覚めてる。これって、すごく魅力的な研究テーマだと思わない?」
『ふ~ん……まあ、兄ちゃんが楽しそうならワテは何も言わんけどな。せいぜいワテの「カンサイベン」の論文も美化して書いてや!』
「うん、もちろんさ!」
キアリーは無邪気に笑った。
事業活動としては1ゴールドの利益にもならない、ただの個人的な探究心から始まったスキル分析。
しかし――これがのちに、この世界に「固有スキル学」という前人未到の学問分野を切り拓き、キアリー・アーンハートの生涯をかけた『最大のライフワーク』になっていくことを、この時のキアリーはまだ知り得る由もなかったのだった。
かつて、自らの内に宿る固有スキルを「気味の悪い異能」と疎まれ、誰にも理解されないまま故郷を逃げ出してきた、ひとりの青年がいた。
失意の中で辿り着いたこの街で、彼は自分の能力を正しく使い、人々と誠実に向き合った。
『トラップバスター』という危険を回避する力と、彼の穏やかで温かい人柄は、瞬く間に街の人々に受け入れられていく。
困った時に手を差し伸べてくれるギルドのエレン。
破滅の罠でありながら賑やかさをくれるステラ。
頼れる用心棒のアーサーとマック。
牧場のオークさんやミノ姐さんたち。
そして、社長室のデスクの上で高級レタスにくるまり、ちょっとイラッとする言葉で軽口を叩いてくれる緑の相棒・グリコ。
気づけば彼の周りには、かけがえのない大切な仲間たちと、自分を必要としてくれるあたたかな「居場所」ができていた。
スライムビジネスで一財産を成した今も、彼が立ち止まることはない。
元来の旺盛な好奇心と科学者としての探求心に火がついた彼は、これから生涯をかけて「固有スキルの生態と解明」という新たな大海原へと漕ぎ出していくのだろう。
青空の下、社長室の窓から賑やかな街並みを眺めながら、キアリーは静かに胸に誓う。
(……ボクを受け入れてくれたこの街に、大好きな仲間たちに、一生かけて恩返しをしていくんだ)
『おい兄ちゃん!なにカッコつけて外眺めとんねん! レタスの取り替えの時期やぞ!』
「あはは、分かったよグリコ。今新しいの敷いてあげるからね」
最弱の青年が手に入れた、最強の仲間と最高に愛おしい日常。
彼の冒険と探求の物語は、この温かな街とともに、これからもどこまでも続いていく――。
これにてキアリーの物語は一応完結です。
ご拝読ありがとうございました!




