9.第2階層へ
祝宴から数日後。
キアリーは再び、アーサー、マックと共に『黒鉄の迷宮』の前に立っていた。
今日の目的は、未踏の地である「第2階層」の探索とマッピングだ。
薄暗い第1階層の通路へと足を踏み入れる。
数日前、キアリーが『トラップバスター』で看破し、アーサーたちが解除したはずの床や壁の罠。そして、あの大量の銅貨が入っていた宝箱の部屋――。
それらは今、キアリーたちの目には、作動済みの罠の残骸と、空っぽになった哀れな箱として映っていた。一度踏破した彼らにとって、この階層はすでに「安全なただの通路」でしかない。
しかし、ダンジョンとは実によく言ったもので、一種の『生き物』なのだ。
もし、ここをまだ一度も踏破していない別の冒険者が入ってくれば、彼らの目には全く同じ罠が牙を剥き、全く同じ宝箱が銅貨を満載して鎮座している。入る者の「踏破状況」によって、ダンジョンはその姿を何度でも再構成する。
「……それにしても、最近の市場は少し騒々しいわねぇ」
歩きながら、アーサーが腰の革袋をパチパチと叩いた。
「アタシたちがこの前、銅貨を1000枚も持ち帰ったじゃない? あれと同じことを、他の新人パーティーもこぞってやってるみたいなのよ。味を占めた連中が、毎日毎日、1階層目から大量の銅貨を街に吐き出してるの」
「フォッフォ、おかげで街の物価が少しずつ歪み始めておるな。銅貨の価値が下がり、パン一個買うのにも、以前の倍の枚数の銅貨を積まねばならん。ギルドも頭を痛めておるようじゃよ」
マックが杖をコツンと突きながら、渋い顔で付け加えた。
ダンジョンが無限に生み出す富。それが今、街の経済を「過剰供給」という罠でじわじわと蝕み始めているのだ。
「そんなことになってるんですか……」
キアリーは、自分がボリスの店で貰う報酬の価値も変わってしまうのかな、と少し不安になりながら話を聞いていた。
だが、今の自分たちにできることは、依頼された仕事を完璧にこなすことだけだ。
「さぁ、お喋りはここまでよ。ここからが本番ね」
アーサーが足を止めた。
暗闇の先、下へと続く薄暗い石造りの階段が現れる。ここから先が、まだ誰も足を踏み入れていない、本当の未知――『黒鉄の迷宮』第2階層だ。
「キアリーちゃん、ここからはアタシたちの知らない罠だらけよ。準備はよろしくて?」
「……はい、いつでもいけます!」
キアリーはゴクリと息を呑み、視界のスイッチを切り替えた。
名付けによってより洗練された固有スキル『トラップバスター』の意識を、暗い階段の奥へと鋭く向けた。




