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固有スキル『トラップバスター』と新しい街で暮らし始めた僕の話  作者: けろ
キアリーと固有スキル

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1.新生活のはじまり

「ふぅ……。これで全部、か」

キアリー・アーンハート(22)は、新居となる小さなアパートの部屋を見回した。

運び込んだ荷物は、大きめのリュックサックがひとつと、いくつかの生活雑貨だけ。あまりにも身軽な新生活のスタートだ。

埃を払うようにパンパンと手を叩くと、彼はさっそく街へと繰り出すことにした。まずは生活基盤を整えなければならない。何より、お腹も空いていた。

一歩通りに出ると、そこは活気に満ち溢れていた。

石畳の道の両側には色鮮やかなテントの露店が並び、商人たちの威勢のいい呼び込みの声が響き渡っている。行き交う人々の熱気に、キアリーは少し圧倒されながらも、どこかワクワクした気持ちで歩を進めた。

とある果物屋の前で、キアリーの足が止まる。

カゴに盛られた、ツヤツヤと赤く輝く立派なリンゴ。キアリーはそのうちのひとつを、吸い寄せられるように手に取った。

「お兄さん、目が高いね!今朝採れたばかりの新鮮なリンゴだよ!」

店主の威勢のいい声が飛ぶ。しかし、キアリーはそのリンゴをじっと見つめた後、困ったような眉を下げて店主に言った。

「あの……これ、腐ってますよ」

「はぁ!?」

店主の顔から一瞬で営業スマイルが消え、不機嫌そうな皺が寄った。

「お前さん、営業妨害かい? そいつのどこが腐ってるってんだ。傷一つない、一級品だぞ!」

周りの客も、何事かとこちらを盗み見ている。

「見た目はそうなんですけど……」

キアリーは引かずに、穏やかな、しかし確信に満ちた声で促した。

「試しに、半分に切ってみてください」

「……チッ。何にもなかったら、お前さんが買い取れよな!」

店主は怪訝そうな顔で忌々しげにナイフを引っこ抜くと、キアリーの手からリンゴをひったくり、小気味いい音を立てて真っ二つに叩き切った。

その瞬間、店主の動きがピタリと止まる。

「な……ッ!?」

切断面の中心部は、どす黒く変色し、じわリと嫌な汁が滲み出ていた。外見からは想像もつかないほど、中身は完全に腐っていたのだ。

「ほらね。誰かが買う前に気付いて良かったです」

キアリーはほっとしたように、店主に向けたとびきりの笑顔を咲かせた。

店主は呆然とリンゴを見つめ、それから目の前の青年を二度見した。外見には一切の予兆がなかったのだ。この若者、ただ者ではない。

「……おい、お兄さん。ちょっと待ってくれ」

店主は慌ててキアリーを呼び止める。

「もしかして、他にも傷んだ商品があるか分かったりするかい? もし見てくれるなら、ちゃんと報酬は出す! 頼めないか?」

「ええっ、ボクがですか……?」

街に来たばかりで、貯金も心許ない。仕事がないのは事実だったが、キアリーは急な展開に少し渋るような表情を見せた。しかし、店主の必死な視線に押し切られるように、小さく溜息をつく。

「……分かりました。少しだけですよ」

キアリーは野菜や果物の入った木箱の前に立つと、じっとそれらを見つめた。

その瞳の奥で、何かが小さく光ったようにも見えた。

おもむろに手を動かし、「これと、これと……あと、これ」と言いながら、いくつかの野菜や果物を別の箱へとテキパキと仕分けていく。その動きには一切の迷いがなかった。

仕分けが終わり、キアリーは仕分けた箱を指さして言った。

「これらは……食べても、胃腸の丈夫な人ならなんともないかもしれないですけど。1日か2日は、激しい下痢と発熱に苦しむ人が出るかもしれません」

「マジかよ……」

店主は青ざめ、自分の店の裏にそんな危険なものが並んでいた事実に戦慄した。

その様子を見たキアリーは、自分が余計な恐怖を煽ってしまったのではないかと、急に不安になってしまう。

「あ、あの……なんか気持ち悪いですよね、こんなこと言われて……ごめんなさい!」

ペコペコと頭を下げ、気まずそうにその場から立ち去ろうとするキアリー。

「いやいやいや!待て待て待て!」

店主は慌ててカウンターを飛び出し、キアリーの肩を掴んで引き留めた。

「謝る必要がどこにある!大助かりだよ!ほら、これは約束の報酬だ」

店主はキアリーの手のひらに、チャリンと音を立てて10枚の銅貨を握らせた。キアリーにとってはありがたい、確かな重みだった。

「お前さん、それだけの腕があるなら『ギルド』に行くことを勧めるよ。……なぁ、今度からギルド経由で仕事を頼んでもいいか?俺の名前はボリス。覚えておいてくれ」

「ギルドかあ……」

キアリーは手の中の銅貨を見つめ、ボリスにペコリとお辞儀をすると、その言葉を反芻するように呟きながら、賑やかな雑踏の中へと消えていった。

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