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終話 生活必需品

 





 同じ事を何度も何度も説明して、漸く理解を得られた。

 日はたっぷりと暮れたが、室内をランプが煌々と照らしているので、話し合いに支障はなかった。


 このランプも油が使われているもので、魔導具とか蝋燭のように不安定なものではない。

 この世界ではあまり見かけない物だった。


「使徒を見つける旅に私が同行して、シャルさんの生活を支える。使徒を全員倒した後、最終的に中央大陸で安全で安定した生活を保証してもらう代わりに、私は降参すればいい。そういうことですね!」

「所々抜け落ちているが、概要はそんな感じだ」


 凄まじく飲み込みは悪いが、漸く伝えられた。

 他にも頼み事はしたが、大したものではないので、問題はないだろう。


「よし。とりあえず寝るぞ」

「は、はい…初めてなので、優しくしてくださいね?」

「……せいっ!」ゴンッ


 本当に人の話を聞かないやつだ。

 俺が中央大陸の出身で、王家とも懇意にして頂いている貴族だから、そこまでいけば生活の心配はいらないと伝えたのを、ずっと『貴族様のお妾ですね!わかります!』と勘違いしている。

 何度訂正しても、本人の中では揺るがないようでタチが悪い。


 そんなハナコの頭上に手刀を落とした。


「いたぁぁっ!?頭!頭がもげちゃうっ!?」

「頭が割れる前に寝室へと入り、さっさと寝ろ。俺はそこのソファを借りる」


 リビングにはスプリング付きのソファがあり、その辺の宿のベッドより、数段寝心地が良さそうだ。

 俺はそれに横になると、ハナコにシッシと手を振り、目を閉じるのであった。



 翌朝から、ハナコの頭から抜け落ちている頼み事は始まった。


「えっ!?ランニング!?何故っ!?」

「はぁ…何度も説明しただろう?お前に足りないのは、俺についてこられない脚力だ。だから、それを比較的安全に得られ、邪魔が入らないここで得るんだ」

「そ、そうでしたっけ?へへっ!」


 何がへへっだ。

 本来であれば、直ぐにでもこの大陸を走破して、使徒を全員見つけてしまいたい。


 しかし、急がば回れである。

 ハナコのステータスを鍛えれば、その方がより安全に、より早く行えると考えたのだ。

 期間は一ヶ月。


 その間に脚力とついでに腕力。そして夜は呪物を使ったトレーニングをハナコに課したのだ。


 夜には、あの下着も履いてもらおう。

 あの苦しみも味わうがいい。


 ハナコにとって悪夢である、スパルタの日々が始まった。




「ひぃっ!?」

「早く逃げないと喰われるぞ?」


 コイツは直ぐにトレーニングをサボろうとする。

 そこで俺が考案したのが、ハナコの走力に近い速さを持つ魔物に追わせるというもの。


 俺が捕まえてきた狼型の魔物が、ハナコを追う。

 冷静に考えたら今のハナコでも倒せそうな相手だが、涎を撒き散らしながら迫る狼にビビってそれどころではなさそうだ。




「ひぃっ!?ま、待って!無理無理っ!」

「泣き言を言ってもやめんぞ?」


 ある日の魔法の鍛錬中。

 ハナコは魔力が高いくせに、碌な魔法が使えなかった。

 原因としては、魔法の知識がなく、さらには強くなる意思がない為、創意工夫をしてこなかったからだ。


 今は魔力制御の鍛錬中。

 俺の放つ魔法を相殺させている最中である。


 無駄に魔力が高いから、こちらは問題なく上達しくだろう。




「ひぃっ!?無理ですっ!助けてください!」

「ダメだ。倒すまで休むことを許さん」


 あれからハナコは強く(?)なり、魔物との戦闘トレーニングに入っていた。


「大丈夫だ。ハナコは強い。正面から挑めば、使徒以外に負ける事はないはずだ!」


 嘘だ。

 ハイエルフの姫さんは兎も角、爺さんにも勝てないだろう。

 いくらステータスが高くとも、その技術は赤子のそれだからな。

 だが、嘘でも何でもいい。

 もしかしたらその嘘で、鶏が空を飛ぶかもしれないから。


「ひぃっ!?来ないでぇぇぇっ!!」

「拙いっ!!」


 ドーーーンッ


 テンパったハナコの魔法は、大地を抉り、地形を変えてしまう。

 ハイエルフの姫との約束を違えてしまった……

 しかし。ハナコはそんな事は知らない。


「よ、良くやったな?見てみろ。跡形もないぞ」

「しゅ…しゅごぃ…」


 ハナコは自分が起こした天変地異に驚くも、直ぐに笑顔になった。


「シャルさん!私最強なのではっ!?」

 ゴンッ

「いたーーっ!?」

「馬鹿か。あんなに魔力を込める必要はない。相手の力量に応じて、込める魔力を考えろっ!」


 訓練とはいえ、初陣である。

 本来ならば、怒ることはしないつもりだったが、コイツの顔を見ていると怒らずにはいられなかった。

 そんな俺は拳骨と共に、失敗を伝えた。


 前髪で表情は隠れているものの、調子に乗った表情をしていることは想像に難くないからな。




「これが今のハナコのステータスだ」


 ※ハナコ・ヤマダ 19歳 女 人族

 体力…1068→1932

 魔力…3254→4171

 腕力…38→49

 脚力…59→85

 物理耐性…1411→2238

 魔力耐性…4081→4918

 思考力…83


 ウェスタの使徒(生活創造魔法)


 俺は紙に写した鑑定結果をハナコヘと見せる。


「凄いですね!この一月で強くなったとは思っていましたが、倍近く強くなったのではっ!?」

「調子に乗るな。そもそも始めが弱すぎたんだ。今は魔法を使えば、そこら辺にいる魔物に遅れをとる事はないだろうが、その程度だ。

 俺でもハナコを瞬殺することは簡単だから、調子に乗って死ぬなよ?」


 俺がハナコを鍛えたのは、生活や二馬力での情報収集など、旅に役立たせる為だ。

 今、死なれては困る。


「は、はぃ」

「わかったようだな。明日から旅に出る。目標はこの大陸最大国家である連邦だ。いいな?」

「住みなれた地を離れるのは寂しいですけど…わかりました。必ず役に立つので、絶対に約束を守ってくださいね!」

「今でも人一人が遊んで暮らせるくらいの蓄えはある。そこは信用してくれ。

 とりあえず、今日までの疲れを取っておけよ?」


 はいっ!

 元気な返事の後、ハナコは寝室へと入っていった。


 漸く準備が整った。

 五番目の使徒であるハナコは力に固執していない。

 その生い立ちと前世の影響により、今世に多くを求めていないようだ。


 しかし、俺に出会って考え方が少し変わってきたと本人が言っていた。

 戦わなくとも死なないルートの存在に気付いたのだ。


 もちろんそのルートは、ただ降参するだけでは手に入れられない。

 俺という使徒を助け、俺が他の使徒を下した先にそれは存在する。


 その後に何を求めているのかは知らない。

 ハナコに限って人を傷つけるような未来は存在してなさそうなので、俺も気にならない。というか、知りたくもない。


 この一月でのハナコの印象を一言で表すのであれば『自堕落』。この言葉に尽きる。

 俺が尻を叩かなければ、直ぐに引き篭ろうとする。兎に角、努力という言葉の反対側に存在しているのが、ハナコという使徒であった。


「どうせこれからも俺を怒らせるのだろうな……」


 気は重たいが、この家は居心地が良過ぎる。

 これをいつでもどこでも創造出来るというのは、争いがなければ俺も選びたい程の権能だ。


 フカフカのソファに身体を沈め、明日からの旅に備えて、本日は休むこととした。


 目指すは東大陸最大の国『シュミット連邦』。

 次の旅では一体どんな難題・難敵が待ち受けているのか。


 頼りない相棒を仲間に迎え入れ、わかっていた事ではあるが、少し気が重たくなる夜を過ごしたのであった。

次話から新編になります。


が!


遅ればせながらの長期休暇を頂きたく……

年末年始の休みの間ずっと小説を書いていたら……私用が山積みになり…消化してからということです……


期間は開きますが、よければブックマークなどをしてお待ちいただけると幸いです。

多謝。

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