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目指す地は

 





 大森林を目指す俺は、道に迷わないようにクリミア達と通ってきた道を辿っていた。


「確かこの道を北に逸れると小国が乱立する地域に出るんだよな」


 現在はバラッドの街と大森林入り口の中間地点。

 ここから北上すると、ヒュージー王国ではなく、小国群に出ると聞いていた。


「そしてここから北東に進むと大森林か」


 真東か少し南に逸れると、そのどちらも別の小国群に着いてしまう。

 ここアルテスミス王国の東は、小国群と面しているのだ。

 北は一部が小国群で、それ以外はヒュージー王国だ。


「よし。後は大きな街や街道は無かったはずだし、真っ直ぐ向かうとするか」


 真っ直ぐとは読んで字の如く。

 どんな障害があろうと、定規で引いた直線のように、真っ直ぐと進むという事だ。


 目指す地は北東にあり。





「……どうしてお主がここにおるのじゃ?」


 見た目と違い、年寄り臭く喋るエルフはハイエルフの…何だったかな。名前が長すぎるんだよな。


 ※ ニューロウィニア・レスクリーナー


 そうそう。こんな名だったな。


「皆、もう良い。離してやれ」

「よ、宜しいのですか?姫に何かあれば…」

「妾は良いと申しておる」


 姫か…名前が長すぎるから、呼び易くていいな。


 呑気に話しているが、俺は絶賛エルフに捕縛されている。


 大森林に着いて、初めてのエルフと遭遇した時に『ここのハイエルフの知り合いなのだが、案内してくれるか?』なんて話しかけたら戦闘になってしまった。


 勿論恩があるので、こちらからは一度も攻撃していない。

 しかし、向こうも信仰の対象でもあるハイエルフとユグドラシルを守るために、こちらに譲る気はない。


 そうなると、エルフ達が力尽きるまで相手をしなくてはならなくなった。


 エルフは森と共に生きる種族。そのため、森を傷つける様な攻撃はして来ず、弓や近接戦の戦いになる。


 暫く攻撃をいなしていると、誰も攻撃をして来なくなる。

 無駄だと気づいたからだ。


 そしてそうなると、少しはこちらの話を聞くしかなくなる。


『俺はここにいるハイエルフに恩があるんだ。そのハイエルフの家族とも言えるエルフを、こちらが傷つけるつもりはない。どうしたら会わせてくれる?』


 この言葉により、俺は捕縛される事になった。


 もちろんいきなり会わせてくれるはずもなく、捕縛したのをいい事に、エルフ達は攻撃を再開した。


 が。紐で縛られた程度で覆せるほど、俺とエルフ達の差は近くはない。


 またも同じ状況となり、ここまでかとエルフ達は諦めて、ハイエルフの元に報せに走っていった。


 そして俺は縛られたまま、ここに戻ってきたという事だ。


「騒がせて悪かったな」


 俺は縛られていた手を気にする素振りを見せつつ、ハイエルフ…お姫様にそう伝えた。


「わかっておるなら来るでないわ!」

「そう邪険にしないでくれ。こう見えて義理堅いんだ」

「義理堅い?」


 俺が来たのは恩を少し返しておくためだ。

 ここへ来る事はもうないだろうし、死ぬ時に後悔したくないからな。


「ああ。今、エルフ達が運んでいる物だが、それを贈りたい」

「…何じゃと?エルフを買収するつもりかえ?」

「何でそうなるんだよ…さっき言った通り、恩を返すための品だ。もちろん物でどうにかなる恩じゃないのはわかっている。それでも、何かしておかないと、落ち落ち死んでられないからな」


 死の間際に思い出すのが、のじゃのじゃハイエルフは嫌だ。

 見た目は美しいが、中身は婆さんだからな。

 いや、婆さんはいいんだ。何となく今際の際に後悔を残したくないだけ。


「…おかしな神の子じゃ。して、何を持ってきた?」

「服は抵抗があるだろうから、金物を持ってきた。鍋とか薬缶とかだな」

「…わかったのじゃ。有り難く受け取ろう」


 自然と共に生きているのだから、鉄製品は持っていないだろう。

 勿論エルフの長い人生の中では、ほんのひと時の楽にしかならない。

 それでも、思い出に残ってくれるのであれば、それで充分だと思い、この品にした。


 壊れたら、叩いて(やじり)にでもすれば良いしな。


「今日はもう遅い。村に泊まる事を許す故、早朝発たれよ」

「おっ?良いのか?悪いな」


 少し進んだ先で野宿しようかと思っていたが、お言葉に甘える事にしよう。


「ついて参れ」


 そう告げて歩き出した姫さんの後について行く。

 村の中に向かう道中も、村に着いてからも、エルフ達の注目の的になった。


「ここじゃ。入られよ」

「大きな家だな。お邪魔するよ」


 着いたのは村の中で一番の大木。

 その大木の上に鎮座する家に案内された。


「中はこうなっていたんだな」


 中央大陸の大森林でも、エルフの家には入った事はない。

 それどころか、そのエルフ達は俺と敵対関係にある。


 家の中は木そのものだった。

 まるで鳥の巣のような造りになっている。

 勿論使われている枝は皆太く、それが隙間なく並べられて蔦のようなものでしっかりと固定されているので、鳥の巣は失礼な物言いかもしれない。


「この中で好きに過ごすが良い」

「おお。ありがとう。しかし、えらく立派な建物だな?良いのか?こんな所に泊まっても」

「ここは妾の家じゃ」


「は?」


「神の子という危険分子を、妾の目の届かない所に泊まらせるわけなかろう?」

「それはそうだが…一応生物上は、俺は雄だぞ?余計エルフ達からの反感を買うのではないか?」


 姫さんの家かよ……通りで立派なはずだ。

 俺はエルフの怖さを知っている。


 エルフはハイエルフに対して、狂信的な行動を取る生き物だ。

 敵に回すと面倒だからという意味も込めて、贈り物をして機嫌を取ったつもりなのだが……


 これでは逆効果になるのではなかろうか……


「はっはっはっ!神の子は面白い事を言うのぅ。お主のような小童など、男としては見ておらぬ。妾は勿論のこと、里のエルフ達ものぅ」

「そうか。それなら良いんだ」


 普通は男としてどうかと思うだろうが、俺は男の前にユーピテル様の使徒だからな。

 侮られても気にはならない。


「まぁ座るが良い。それとも神の使徒は立ったまま家で過ごすのかえ?」

「そんな事はない。座らせてもらおう」


 姫さんと膝を突き合わせて向かい合うが、やはり物凄く整った造形をしている。

 肌はきめ細かく、スタイルも顔も芸術品としか言いようがない。


 女性としての魅力は全く感じないが、これを美しくないと言えば嘘である事は一目瞭然だな。

 まぁ、美的感覚は変わっているやつが稀にいるから、決めつけは良くないがな。


「なんじゃ?ジロジロ見て」

「いや、ハイエルフは初めて見るからな。他意はない。気を害したのなら、謝ろう」

「そうか。それよりもお主は妾以外のハイエルフを知っている風な口ぶりじゃったが…どうなのじゃ?」


 ああ…そんな風に聞こえるような事を言ったかもな。

 というか、既に使徒とバレているのだから、隠し事をする意味は少なく、情報収集という観点からみると、話した方が良さそうだな。


 広い室内を無駄遣いするほどの距離で向かい合うハイエルフに、俺は中央大陸のハイエルフについて語った。


 姫さんは使徒のハイエルフの事は知らなかった。

 お互いの存在はユグドラシルを通じて知っていた様だが、その考えや現在の様子はわからないみたいだった。


「ミルキィ・ラヴウェイのぅ」

「ああ。ところで…俺はそのハイエルフとその配下のエルフ達と敵対しているのだが……その事については?」

「何もないのじゃ。妾はユグドラシルを護る者。そしてユグドラシルはこの世界の中で繋がっており、複数に見えるそれは一本の樹じゃ。仮にお主が中央大陸に顔を出しているユグドラシルを害するというのであれば、妾は敵対する。

 しかし、お主にその様な気は無いのじゃろう?」


 これは以前、ユリスクから齎された情報と一致する。

 答え合わせの様な意味を込めた頷きを返した後、口を開いた。


「俺の目的は使徒を全て倒すこと。それ以外の事で、この力を振るうつもりはない。勿論敵対してきたら話は別だがな」

「同じじゃな」

「ああ。あ!」

「どうした?」


 すっかり忘れていたな。

 俺は懐を弄ると、小さな袋を取り出して、それを姫さんに渡した。


「なんじゃ?」

「お礼の品だよ。鍋とかはエルフ達へのもので、姫さんにはそれがお礼の品だ」

「ふむ。何じゃろうな」


 ジャラッ


 姫さんが掌の上で袋を逆さにすると、中から宝石の付いたネックレスが出てきた。


 やはり女性への贈り物は宝飾品に限る。

 これはサキの記憶にもあった事だから、間違いはないだろう。

 気に入らなければしまっておけばいいしな。


「ほぅ…中々に雅な物じゃ」

「付けてやるよ」


 俺はそう告げて立ち上がり、ネックレスを奪うと、その白く細い首にチェーンを掛けた。


「どうじゃ?」

「そりゃ似合ってるよ。エルフは総じて見た目が派手だから、ネックレスは大人し目にして正解だったな」

「ふむ。有り難く頂戴するのじゃ」


 エルフの表情は中々に読み取れないが、少しは気に入ってくれた様で何よりだ。


 その日、俺を訪ねて何人かのエルフがやって来た。

 理由は贈り物の使い方やお礼のお礼を伝える為だった。


 流石にハイエルフが迎え入れた俺を無碍には出来なかったようだ。


 その晩。俺はエルフの里で、ハイエルフの姫と一つ屋根の下で眠るという偉業を、人知れず達成したのであった。




「決して大森林で争うでないぞ?」


 明朝。エルフの里を出立する俺に向けて、ハイエルフの姫さんが告げる。

 昨日も、それ以前にも聞いていた話なので、既に耳にタコが出来そうではある。


 しかし、それは裏を返せばそれだけここが大切な場所だという事。

 俺も自分の大切な場所で、いかなる理由があれど暴れられたら許せないので、しっかりと頷いて返した。


「向かうは東。敵がどんな使徒であれ、俺は俺の出来ることを」


 目標を定め、気を引き締めなおした俺は、東へと足を進めていく。

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