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第五使徒編 王国to王国

 





 ガゼットがいた国境に程近い町を出た俺は、ひたすらに南下していた。

 ヒュージー王国にもう一人使徒がいるのであれば、ガゼットに気付かないわけはないので、この国には居ないものと考え、別の国を目指しているからだ。


「近いのは、北のシュミット連邦か南のアルテスミス王国なのだが、どちらもそこそこ遠いんだよな」


 ガゼットがいた国境を越えると、そこにあるのは小国だ。それも一つや二つではなく、乱立しているのだから、そこに向かうわけにもいかない。

 小国同士の争いに巻き込まれても面倒だし、治安が悪く俺の身分証が使えるかも怪しいようなところだからだ。


「連邦はこの大陸一の大国だから、後回しにしよう」


 大きいと探すのも大変だしな。


 そんなわけで俺は南にある大国『アルテスミス王国』を目指すことにした。


 アルテスミス王国はここヒュージー王国の友好国であり、入国もすんなりと済ませられるだろう。

 まともに入国するかは行ってみないとわからないが。


 そのアルテスミス王国の国境が面しているのは、北にヒュージー王国、西と南が海に面した国である。

 東は数多の小国が存在しており、東の一部が大森林に面している。


「恐らくその大森林に、この大陸のユグドラシルがあるのだろうな」


 用がないから行くつもりはないが。


 さらに北の一部も小国に面している為、アルテスミス王国は必然的にヒュージー王国と国交を結んでいるというわけだ。

 何せヒュージー王国と仲良くしないと、陸続きの貿易相手がいなくなってしまうのだから。


 小国?

 そんなものを大国は相手にしないだろう。


 殆どの小国は、勝手に国と名乗っているだけで、その規模は少し大きめの街から部族程度の集まりに過ぎないのだから。


 サキの記憶から引用するのであれば、小国群とは内戦状態の国に近い。

 皆がそれぞれの主張ばかりしており、纏まりきれていない地域と呼んで差し支えないだろう。


 地球はオフィーリアよりも遥かに安定しているから、内戦に介入したり、その国の民を支援したりしていたが、ここではそんな事を出来る段階に全ての国が達していない。


 自国の事で手一杯なのだ。


「おっ。街道だ」


 考え事をしながら南を目指していた俺の目の前に、整備された道が姿を現した。


「久しぶりに人の生活圏に出たな。よし。今日こそはベッドで寝るぞ!」


 かれこれ三日は、野宿が続いていた。

 最短ルートを逸れてまで町で休もうと思えなかったが、そろそろ服が臭ってきた。


 見た目はそこまで気にしていないが、サキの記憶がある俺は、最低限の清潔感だけには気を使っているのだ。


 街道を爆進し街へと辿り着けた俺は、宿を取り、身支度を済ませて、久しぶりの柔らかなベッドで眠りへとつくのであった。




「昨日は慌てていたから聞きそびれたが…ここはどの辺りなのだろうか?」


 翌朝。目覚めた俺は宿で朝食を摂り、朝の支度を借りた部屋で済ませながらそう呟く。


「とりあえず久しぶりの人の街だ。ぶらぶらと散策してみよう」


 情報収集という言い訳の名の下に、俺は街の散策へと繰り出すことに決めた。


 泊まった宿は街の中心地より少し外れた場所にある。

 先ずは宿の人に冒険者ギルドの場所を聞いて、そこから聞き込みを始めることにした。



「ここはラリュールの街です」


 俺にそう教えてくれたのは、冒険者ギルド職員の女性だった。

 冒険者ギルドについた後、受付に並び、金のプレートを見せるとこの部屋に案内された。


 この部屋は、シャーリーポートのギルドで使っていた部屋と似たような造りで、俺は金ランクの特権を使い、ギルドで情報収集を始めたのであった。


 応対してくれたのは二十歳くらいの小さく可愛らしい女性で、ロキシーと名乗った。

 金ランクの対応を任せられるだけのことはあり、その見た目とは裏腹に、その説明は堂に入ったもので物怖じなど見られない。


「地図で言うとどの辺りにあるんだ?」

「はい。ここが王都ですので、そこから南東に向かって真っ直ぐ進んだところにあるのがこの街ですね。

 ここから南へ馬車で一日ほどの距離に、アルテスミス王国との国境があります」

「なるほどな…ありがとう。もう一つ聞きたいのだが、良いかな?」


 もう少しで国境に辿り着くとは。流石単身で走ってきただけの事はあるな。


「はい。何なりと」

「ああ。強くて有名な人を知らないか?冒険者以外でも」

「有名…ですか?そうですね…」


 ロキシーが話してくれた事は、一般的な範囲のことだった。

 どこそこの騎士様が王国では一番の剣士だとか、噂でしか知らない金ランク冒険者の話だとか。


 ガゼットはこの国唯一の魔法銀ランクだったが、その事については何も喋らなかった。

 恐らく金ランク以上の者の事は口止めされているか、金ランク程度の者にはその上位者については伝えてはいけないとかのルールがあるのだろうな。


 さて。残念ながらというべきか、予想通りと言うべきか。やはり新たな使徒の情報は手に入れられなかったな。

 次は武器屋や呪物屋巡りをしよう。


 最早大きな街に着いた時のルーティンだからな。



 夕方まで街中を散策したが、ユーピテル様の言っていた盾どころか、それ以外の古代遺物すら見つける事は出来なかった。


 そして翌日から、再び国越えを目指すことに。




「この辺が国境みたいだな」


 街へ寄るために一度は街道を使ったものの、街道は俺が走ると迷惑がかかるから、今朝からはまた道無き道を直走っていた。


 俺がそこそこ気合い入れて走ると、せっかく国や町が整備した道を抉って壊してしまい迷惑になるからな。


 そんな人よりも魔物と多く遭遇するここは、恐らく国境地帯なのだろう。

 人が警備しなくとも魔物が勝手に不法入出国者を防いでくれるのは、中央大陸も東大陸も同じようだ。


 この辺りは、ステータス値の平均が300から400の魔物で溢れていた。


「どの魔物もこの剣の前では紙切れ同然だから、強さに差を感じられないがな」


 ガゼット戦で不調をきたしてから魔法は使っていない。

 身体を巡る魔力の通り道が傷ついてしまったからなのだが、別に使えないわけではない。


「初心に返り、魔力制御の鍛錬を続けているが…」


 暫くは魔法を使わずに、基礎をもう一度鍛え直す事にしたのだ。

 魔力制御の鍛錬により、魔力の通り道である魔力路が丈夫になれば、ガゼット戦で使った出力の魔法でも、次は壊れる事なく使えるようになるはずだ。


 そう考えて、移動中も魔力制御の鍛錬をしていた。


 そのせいもあり、魔物との戦闘は常に神剣を使用している。


「魔力圏も広げられないから偶に不意打ちに遭うが、それもいい鍛錬になるしな」


 まさに一石二鳥。


「爺さんやユリスク辺りには白い目で見られそうだが、俺は俺のやり方を変えるつもりはないしな」


 他に良い方法があれば別だが。


 そんな鍛錬を続けつつ、俺はいつの間にかアルテスミス王国へと入国を果たしていた。

 これもいつものことか。





「この金は使えるのか?」


 大きい国では、どこでも冒険者証を身分証明書として使えるとは、ギルドに加盟した時の説明で聞いていた。

 しかし、金貨までは聞いていなかったので、目についた町へと入り、そこのギルドで使えるかどうかを聞いているところだ。


「これはヒュージー王国金貨ですね。問題ありません。同盟国ですので、同じ貨幣として使用する事が出来ます」


 ここでも高ランク用の別室が用意されていて、そこに案内された俺は、知らぬ町の知らない受付嬢から説明を受けた。


「それは素晴らしいことだな。これからも両国が仲良くしてくれる事を願うよ」


 実際。毎回国を移動する度に、金を宝石に変えるのは面倒なんだ。大変有り難いと俺は思うが、受付嬢は『こいつ何言ってんだ?』という表情を向けてきたように見えた。


「あの…両替でしたら…」

「ギルドでしてくれるのか?」


 何やら言いづらそうにしているので、俺は言葉の先を補足してみた。


「いえ…いえ、両替も出来ます。出来ますが、そもそも金ランク以上の冒険者の方は、ギルドに口座を持つ事が出来ます。ですので、預かり証さえあれば、どこの国のギルドでも、そこと預けた先の国のレートを踏まえた金額を、その国の貨幣で引き出すことが出来ます、よ?」


「そ、そうだったんだな…いや。俺が金ランクになった時に説明を受けなかったから、知らなかったんだ。助かったよ」


 はは…

 俺の乾いた笑い声が静まり返った密室に響いた。


 爺さん…説明を端折ったな……


 爺さんのせいにしているが、聞かなかった俺も悪い。

 実際爺さんがギルドから金を下ろすところを目撃していたし。


 その時は『俺に使う予定はなさそうだな』って思っていたからな。

 実際稼いでも、稼いだ端から借金返済で消えていたし。


 聞けば教えてくれた筈の爺さんにも、聞くことが出来なくなってしまったしな。


 爺さんの有り難みが、ここでも感じられたぞ。

 いつ生き返ってもいいからな?


 遠い空の下、どうしようもないと分かっていてもそう願った。






 アルテスミス王国に入国してから暫くの時が経った。


 ヒュージー王国と同盟国なだけあり、国風も街並みも似ていて、特に変わったものは見られなかった。

 勿論聞き込みも継続しているが、使徒らしき人物の噂はなく、要らないトラブルばかりが増えていた。


 そのトラブルで一番多いのが、今まさに巻き込まれているモノであった。


「シャル殿!今日こそは、ご同行願いたい」

「昨日も伝えたはずだ。俺にそんな時間はないと」

「そこをなんとかっ!若い金ランクの冒険者はシャル殿くらいしかいないのですっ!」


 俺が今いるのは、バラッドの街にある冒険者ギルド。そこの個室で俺に頭を下げているこちらの男性は、この街の領主の使いだ。


 そう。俺が良く巻き込まれるトラブルとは、貴族絡みの問題だった。


 国や街からすれば勝手に危険な魔物を間引いてくれる冒険者は、何者にも縛られない存在。例外として、ギルドからの強制依頼はあるみたいだが、金ランク以上を縛ることは出来ない。

 つまり、俺は法律を逸脱しない限り、自由ということ。


 これまでも金ランクのプレートを街の入り口で見せると、貴族や領主、代官などに話がいき、俺が泊まっている宿やギルドに使いの者が訪れることが多々出てきた。


 爺さんといた時はひと所に留まることはなかったから知らなかったが、この国に来てからは大きな街であれば使徒を探す為に数日から十日は滞在していたので、こういったトラブルに巻き込まれる事が出てきたのだ。


「依頼主はバラッド伯爵です!金に糸目はつけないことを約束します!」

「生憎と、金には困っていないのでな」

「そこをなんとかっ!このままでは私の首が飛んでしまいますっ!」


 どれだけ横暴な領主様なんだよ……

 泣き落としなのだろうが、余計に行きたくなくなったな。


「では、何なら首を縦に振っていただけますかっ!?」


 …なんか、俺が悪者みたいに聞こえる言い方はやめよ?


「残念だが、そちらに用意出来るものに、俺が欲しいものはないな」

「そんな……珍しい魔法薬や、魔剣など、お館様は所有されていますよ?それでも?」


 しつこいな……

 確かに武器は気になるが、俺には神剣がある。

 魔法薬も欲しいが、それを欲したばかりに、そのお館様の言う事を断れなくなるのは嫌だからな。


「それでもだ」

「うぅ…」


 大の男が情けない声を出すなよ……


「せめて、依頼内容だけでも聞いてはくれませんか?」

「……手短かにな?」

「はいっ!」


 面倒になってきてつい承諾してしまったが、よくよく考えてみると、この手法はサキの記憶にあるせーるすまん(?)が使う話術じゃないか……


 初めは無理な事を願い、後で簡単なお願いをする。

 そうすると、断った疚しさや、願いのハードルが下がった事と断る面倒臭さを天秤に掛けた結果、お願いを引き受けてしまうらしい。


 一度引き受けたが最後。

 じゃあ、次の簡単なお願いも聞いていただけますね?

 と、なる方法だ。

 そして今。


 俺はそのレールに乗っかってしまった。



「こちらです」


 バラッド伯爵の使いを名乗る男に連れられて、俺は何故か伯爵邸にいた。

 不思議だ……

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