終話 失ったモノ、不必要なモノ
本日二話目です。お間違えなきよう。
うっ…何だ?身体中が痛い……
「はっ!?」
魘されて起きると、そこは荒野だった。
緑はなく、茶色の地面が続いている。
大地は割れていて、所々に地面と同じ色をした岩が転がっていた。
「俺は…どうして…あ……」
痛む体に喝を入れ身体を起こし、辺りを見渡すと、近くに赤黒い何かが転がっている事に気付いた。
そしてその正体にも。
「爺さんっ!うっ…」
駆け寄ろうにも、身体が上手く動かせない。
何とか立ち上がり、ヨロヨロと爺さんに近寄り、そして横たわる爺さんの身体を仰向けにさせた。
「爺さん……なんで…」
爺さん…ロイドは腹に穴が空いた姿だった。
苦しかっただろうに、その顔は何故か満足そうな表情をしていた。
「なんでなんて、分かり切っているよな……俺だっ!俺が不甲斐ないからっ!爺さんはっ!」
置いて逃げられなかった。
「爺さん…もっと色々聞いておけばよかった」
俺達の会話は常に戦いのことばかりだった。
これだけ密に居たのに、遺品を届ける相手さえお互い知らないのだ。
「何故かは知らないが、その顔を見れば分かるよ」
爺さんは己が成すことを成した。
その表情が雄弁と、そう物語っていた。
「ありがとう。そして…何も返せなくて済まない」
爺さんの象徴とも言える愛剣は砕け散っており、遺品など身につけているモノくらいしかない。
俺は爺さんの亡骸から冒険者証を抜き取り、その場に爺さんを埋めた。
「ここには強い魔物が多い。爺さんもここなら飽きないだろう?」
強さを求めていた人だ。
死ぬならば戦場。
そして、死して尚、その夢が止まることはない。
俺は爺さんの眠る墓に別れの挨拶をすると、もう一つの遺体に向けて歩み始めた。
「お前もか…」
ここにも満足そうな顔をしている遺体があった。
もう一人の使徒は見るも無惨な姿だったが、その死顔から悲壮感は感じられなかった。
「俺なんかよりも爺さんと気が合った事だろう。短い間だったが、話も弾んでいたしな」
ガゼットとという名の使徒には命を拾わせて貰った。
その恩には中々報いることは叶わないが、丁重に埋葬することで許してほしいと願う。
そう想い、ガゼットを抱えた瞬間。
「なに?」
ガゼットの身体から白い光が天に昇って行った。
「まさか…今の今、死んだのか?」
ガゼットの身体は確かに温もりを残していた。
「そうか…死に際でも戦っていたんだな」
俺が出会った中で最強の使徒は、『死』というものとすら、最期まで諦めずに戦っていた。
「これからは爺さんと二人、ゆっくり休んでくれ」
前人未踏の荒野に、二つの墓標が並んだ。
あれから一月の時が流れていた。
俺は命辛々近くの町まで辿り着き、死ぬ様に身体を休めていた。
ガゼットから受けた、たった一撃の拳。
その一撃だけで、俺は一月もの間、ベッドの上で過ごすことになっていたのだ。
「爺さんが薬を飲ませてくれなかったら、とっくに死んでいただろうな」
俺は二人の武人に生かされた。
これで益々死ねなくなったな。
「爺さんは薬と最後の隙を」
両方とも熟練冒険者の爺さんだから出来たことだ。
「ガゼットは敗者にトドメを刺すことはなく、神にすらダメージを通した」
戦いの化身…いや、俺たちは使徒だから『戦いの権化』が相応しいな。
「また一人になってしまったが…以前よりも寂しくはない」
相談相手は心の中にいる。
「次はどこに向かおうか」
どうせ大陸中の大国に向かうのだ。ワシなら近いところに向かう。
「そうだな。爺さんならきっとそう言うだろうな」
目的地は決まった。
次にする事と言えば、決まっている。
俺は手鏡に向かい、いつもの言葉を告げる。
「『鑑定』」
※ シャルル・ド・レーガン 18歳 男 人族
体力…2400→2954
魔力…3200→2756
腕力…465→459
脚力…497→475
物理耐性…2400→3182
魔力耐性…3200→3859
思考力…257
装備
※神剣ゴッド・イーター 剣
神殺しの名を冠するが、主神には効かない。
神代に〓〓〓が何訪れるその時に向けて拵えた一振り。
現存するどんな物よりも硬く、それに伴い斬れ味も損なわれる事はない。
物や魔力といったモノを斬ることよりも、概念を斬ることに特化している。
ユーピテルの使徒(鑑定■)プルートーの印
「無茶をしたから魔力が下がり、休んでいたから筋力が落ちたか…仕方ないな。それよりも…」
俺が倒してはいないのに、何故か使徒戦勝利の恩恵だと思われる限界突破が見られた。
「理由はわからないが、貰えるものは貰っておこう」
そして一番の問題は……
「プルートーの印か…これって目をつけられたって事だよな?マジか…マジかぁぁ…はぁ…」
プルートーという名の神は『これは依代』だと言っていた。
「依代ってすぐに用意出来るものなのだろうか?」
もしそうなら最悪だ。
次は一人で立ち向かわなければならなくなる。
「神に勝てたのはどう見ても二人が居たからなんだがな…」
むしろ俺の代わりは誰でも良かったまである。
二人の代わりは存在しないが。
「ユーピテル様は『盾』があると仰られていた。早く見つけないとな…」
考える事が増えたタイミングで、ユリスクが居ないのは俺の運の無さか。
俺は詮無きことを考えて、新たな国へと旅立ったのだった。
これにて、第四使徒編を終わります。
第三使徒編、大陸渡航編、第四使徒編と、戦いが激しさを増していきましたが、次はどうなることやら……
次話は予定通り明日公開になります。
次回予告!!
『第五使徒編』(何の捻りもない…)をお送りしますっ!