その13
◇◇◇◇◇ その13
「明日から、特別任務が発令される。これより志願について説明する。」
鬼の教官がそう告げたのはおかゆみたいな汁を腹に流し込み、たくあんをゆっくり噛んで満腹感がわき上がるのを待っているときであった。
「特別任務はいつ終わるか分からない。よって、ここの仲間とは別行動になる。志願する者は手をあげよ。」
教官の問いかけにまっさきに手を挙げたのは駿平であった。
「おまえ、大丈夫かよ。」
実が心配そうに俊介の顔を見た。
「これは今の状態から抜け出すいい機会だと思う。」
自信ありげな駿平の様子に実もおずおずと手を挙げた。このとき、駿平につられるように10名ほどの仲間が挙手した。
「手を挙げたものは直ちに荷物をまとめて、教官室の隣の部屋に集合するように。」
教官は短くそう告げた。
駿平たちは荷物をまとめると意気揚々と部屋を移動した。指定された部屋には机と蓋付きの棚が人数分用意されている。
「貴様等にはこれから特別訓練が施される。ここでの訓練内容は決して他へ漏らすことはできない。」
鬼教官はもったいつけたしゃべり方をする。駿平や実達は神妙に直立不動のまま話を拝聴する。
「わかったか?。」
「はい。」
「それでは、各自の棚から服を取り出せ。」
駿平達は自分の名前が書き込まれたプレートの棚から白い服を取り出した。ついさっき、募集したはずなのに、もうすでに名前がつけられているのに少し驚く。白い服はごわごわしたつなぎ状の服である。足からはき、肩にかつぐように体を入れる。サイズはぴったりであらかじめあつらえたようである。
「手首、足首の固定をしっかりやれ。」
次に配られたのはブーツ状の靴である。膝下まで差し込み、ひもできっちり縛りあげる。続けて手袋が配布される。これはひじの少し下まである長い手袋である。次に、兜が配られる。頭全体を覆う形になっており、かぶると頭がとても重い。口の部分には綿が張り込まれており、息苦しく感じる。
「よし、それが貴様等の軍服だ。すぐに脱げ。」
もたもたしながら駿平は一式を脱いだ。
「収納は棚へ手順通りに片づけろ。そのとき、少しでも傷がついた服はこの部屋の隅にある箱へ捨てること。新しいものを支給する。」
初日は何度か、服・兜・長靴を装着、脱いでしまうという訓練が行われ、夜も更けてから駿平達は解放された。翌朝、集合すると、さっそく新しい軍服を装着することを命令された。だいぶなじんできた白い服を着て、椅子に座る。教官は隣の部屋に通じるドアを開けて移動するようにうながす。
隣の部屋はがらんどうの空き家のような部屋になっていた。窓もなく、一つだけの電球に照らされた部屋の内部はどことなく寒々しい。教官が壁の一部を軽く叩くと、蓋だったらしく、内部にスイッチが入っているのが見える。教官はためらうことなくスイッチを押す。すると、部屋が床ごと、地下に潜り始めた。10mほど、地下に移動し、床は動きを止めた。俊介達は目の前に銀色の大きな装置らしきものがあることを認識した。
「中へ入れ。」
扉が開かれ、一同、中に入る。銀色の装置はういん、ういんとかすかにうなりを発生している。
「各自、自分の番号が書かれた位置の横に移動せよ。」
駿平達の右腕には番号が書かれている。駿平は4番、実は3番である。駿平は装置の真ん中あたりに張り付けれられた紙の横に立つ。
「自分の場所は覚えたか?。」
教官の声が響く。
「一人ずつ、扉から外へ出ろ。」
そろそろと装置から離れると駿平達は外へ出る。全員が外にでると床ごと、上昇を始めた。朝入ったとおりに床が元通りになると、隣の教室に戻り、装備を全て外すことが許された。服を着て、下へ行って戻ってきただけのはずなのに外はもう夕暮れの様相を呈している。俊介達は教室でそのまま用意された夕食を食べた。
「次に呼ぶ者は手を挙げろ。6番と8番・・」
呼ばれた生徒はおそるおそる手を挙げる。
「おまえ等の任務は今日で終わりとする。原隊に復帰してよし!」
呼ばれた生徒は復唱する。ほっとした気分と特別扱いされなくなる残念さが半分ずつであろうか。
残った駿平達は翌日も特殊軍服を装着し、地下に入る。入るだけで特になにもしない。地上に戻ると夕方になっている。そんなことを5回ほど繰り返すうちに訓練兵は駿平と実の二人だけになった。
「そこにある兜と交換せよ。」
翌日、教官にいわれて手にしたのは今までの兜とは違って、電気配線らしいものがたくさんでている兜であった。
「中に入ったら装置から延びている配線に接続せよ。」
駿平と実は地下の装置に到着すると重いほどの配線を装置に接続する。装置はいつものようにういん、ういんとかすかにうなっている。
「そこにある椅子に座れ。」
今まではなかった椅子らしきものに静かに腰を下ろす。ういん、ういん、装置のうなり音が静かに部屋の中に響いている。二人は最初は緊張していたが、だんだん退屈になり、眠気を催す。そのとき、駿平の頭の中に誰かの手が伸びてくるのを感じた。そう、それも内側から、だ。初めての感覚に戸惑った。実は装置の反対側なので、様子はわからない。
続いて、何かが頭の中に接続される感じがした。と同時におびただしい信号が水のように流れ込む。信号の意味はわからない。ただ、駿平の頭の中を通過すると別の意味を持つようになる感じがする。駿平はなにもしていない。ただ、頭を貸しているだけだ。
どの位時間が経過したかはわからなかった。気がつくと教室に戻っていた。暗かったので、夜になったらしい。実も隣にいたが、顔色があまり良くない。




