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#273 最後の稼ぎ時ィ

「おぉ……こんな日なのに意外と盛況だな」


 魔神がシュエイの5分の1程度を破壊したってのに、閑古鳥食堂はいつもと変わらない程度に大盛況で、スラムのガキ共もアンジェ達も忙しなく店内を走り回っていると、ちびっこいくせに耳と目が良いアンジェが真っ先に俺に気付く。


「ちょっと! 今までどこに行ってたのよ!」

「騎士団連中に昼食の差し入れだ。しかし随分と賑わってるな。どういう風の吹き回しだ?」

「知らないわよ。こっちだってさすがにあんなことがった翌日はそこまで忙しくないだろうと思ってたのに、時間が経つにつれてどんどんドお客さんが押し寄せてきて全っ然対処できないの。暇そうにしてるなら後ろの貸しなさいよ」

「構わんぞ。それとこうなった経緯も説明する」


 確かに。いつもであればこの倍以上の数をこなしても根を上げるような連中ではなかったが、シュエイの20パーもぶっ壊されておきながらのんべんだらりと飯を食う人間もさしておらんだろうとの判断の結果。いつもの半分くらいしか向かわせなかったので、全員がひーこら言いながら仕事をしている。

 すぐに炊き出しに連れて行ったガキ共を散らし、それと交代するように数人に休憩する指示を出し、俺も厨房の方へと顔を出してすぐに調理に取り掛かる。その横にはアンジェ。


「まず忙しい理由だが、ここの美味過ぎる料理が今日までしか味わえんって触れて回ってるからだ」

「今日までって……なに。どこか行っちゃうの?」

「聞いてくれよ。実は昨日の騒動の真っただ中に居たせいで王宮から状況説明をしろと言われてんだよ」

「だったらすっぽかしちゃえばいいじゃない。貴女ならそうする事が可能なだけの実力があるんだから。素直にそんな指示に従うなんてらしくないじゃない」

「それは、王都に居るツレが王宮に出頭するならエロイ格好をしてくれると約束してくれてな。そんな事言われたら女性好きの俺としては顔を出さない訳にゃいかんだろ」

「……やっぱ最低ね」

「はっはっは。第一、元々3日の予定だったんだから別におかしなことはないだろ。って言うか~、初日だけでも十分すぎるほどへぼコックに俺の財力と料理の実力をまざまざと見せつけた時点で、こんな事をした2割がたの目的は達してるからな。これはただの惰性でやってるだけ。ほれ、料理を持って行け」

「分かってるわよ。で? 残りの8割は何なの?」

「決まってる。リリンと――ついてにお前が安心安全に暮らすためだ」

「なんでアタシがついでなのよ!」

「スタイルが発展途上だし生意気だからだ」


 そんな会話をしながらも、他の連中の10倍近い速度で料理を仕上げつつ、俺にしか出来ないランチメニューも捌いていると、何故か商業ギルドのマスターが俺を出せと言っていると言っているらしいので、手が離せないから話があるならここに来いと伝えると、1分もしない内に病的にまで肌が白く眼の下のクマがえげつないほど濃い着物を着た美魔女がやって来た。


「あんたさんがアスカちゃんかい?」

「そうだけど……なんか用か?」


 商業ギルドに何か用事を頼んだ記憶もないし、特別おかしなことをしたつもりもないからそう訊ねる。


「ナツリー商爵は分かるね?」

「知らん。誰だそれ?」

「貴女がここで裸にした気に食わない変態よ」

「…………おぉ! そう言えばそんな奴がいたなぁ」


 いやぁ……野郎の事なんてすぐ記憶のゴミ箱に放り投げるから、いちいちその中を漁らないといけないから非常に大変だ。そう言えば奴はこの事件の首謀者だったと言う事をジジイ団長に伝えるのを忘れていたような気がする。


「数日前の記憶が薄いって……あんたさんの頭はどうなってんだい」

「女性の事であれば生まれた直後の物まで残ってるんだが、野郎になるとてんで駄目でな。で? その商爵とやらが一体どうしたんだ。取り逃がしたのか?」

「やっぱ知ってるのかい。今回の事件について裏が取れたから、あの男の元を訪れたんだが、奴は椅子の上で皮1枚になって死んだよ」

「なんだ。俺が犯人と疑ってんのか?」

「安心おし。あたしゃがここに来たのは礼を言いにだよ」

「礼?」


 そう言えば、商爵とやらの振る舞いに商業ギルドは辟易としてたんだったな。

 その厄介な存在が理由不明ながらもこの世からいなくなったおかげで、ここら一帯は元の持ち主へと返還され、10日もすればいつものように汚いながらも安い飯が食える場所が戻ってくるそうだ。


「なるほどね。別にいいよ。俺は綺麗で可愛いこの店の店員が安心安全に暮らせる事を念頭に行動してただけだから。別にこの街を救った英雄なんてクソみたいな栄誉は反吐が出るから要らん」

「そうかい。だけどあたしゃの感謝くらいは貰っとくれ」

「へいへい」


 このギルマスがあと20は若かったら色々と要求も出しただろうけど、流石に見た目50を超えていそうな女性を相手に一夜を要求するほど達していないので、感謝の言葉だけで今回は引いておく。

 それだけでギルドマスターは店から出ていき、時間が経つごとに今日で最後の情報を聞きつけた連中が雪崩のように押し寄せ続け、閉店時間までそれが途切れることはなかった。


「ぶはー。疲れた疲れた。さっさと帰って風呂に入り、酒をグイッと飲みたいねぇ」

「では、なぜコテージの置かれている方角とは別の方向に歩を進めているのですか?」

「愚問だな。俺がそんな事をする理由は1つしかねぇだろうが」


 ニヤリとニヒルな笑みを浮かべながらそう告げると、ユニも俺の従魔なだけあってその先に何が待っているのかをすぐに理解した。そう! 我がすすむ覇道の先にはリエナの待つ闘技場アリ。

 店が閉まるのは闘技場より後なので、もちろん入り口は完全に閉鎖されているから、普通なら入場が叶わないだろうが俺には金爵からの問題なく入る事が出来――


「なんだその魔物は!」

「ワタシは従魔だ! 噛み殺すぞ下等生物!」


 とまぁ、そんなやり取りがあったものの、何とか無事にリエナの下へとたどり着き、いつものように大量の肉を食わせながらしばらくこの街を去る旨を告げると――


「なら、次はそっちと勝負」


 と言ってユニを指さす。

 なんでなのか聞いてみると、俺に勝てる気は全くしないらしいのだがユニには勝てそうな気がするから1回勝負したいとの事なので、本人に確認を取ってみるとそれを自分が侮られたと思ったようで、かなりの殺気を振り撒きながら了承したので、ここの責任者に修繕費として白金貨2枚を握り込ませて無観客試合の許可を取る。


「さて。これからお前ら2人の試合が始まる訳だが、勝負の方法はいたって単純。相手を行動不能にすればいい。制限時間は20分。それを過ぎたら俺がお前等を止めるからそれに従うように。いいな?」

「ん」

「フン。このような小娘如きに20分もいりませんよ」


 どうやら。両者共に気合は十分らしい。一応闘技場を壊してもいいと言ってはいるが、過度に壊すような目に余る行為があれば、強制的に止める事を告げ、コインをその場に落とす。


「やっ!」

「舐めるな!」


 甲高い音が響き渡るのと同時にまずはリエナが飛び込みからの正拳突きをユニの鼻っ面に向かって打ち込むが、そんなものはお見通しだと言わんばかりに身を屈めて回避。その勢いを前進する力へと変換し、鼻先でその身体を吹き飛ばすも、リエナもリエナでその下顎をキッチリと蹴り上げていた。


「まずは互角……か」


 体格差のせいでユニ自体はさほど体勢が崩れていないが、リエナは観客席にまで吹き飛んで何人分かの椅子が粉々になっていしまったものの、特に怪我をした様子もなくまた距離を詰め、今度は腕に龍の鱗のような物を生やした腕でのフックが打ち込まれた。

 あれは確か……2回目のバトルの時に使ってた龍の力だったっけか。あの時は怒りに任せて強引に使っていたような感じだったけど、この数日で随分とモノにしたみたいだな。さすが始祖の血が濃く発現したってだけはあるな。成長速度が半端ないって!


「ぐ……あ!」


 お? ユニならその一撃もてっきり避けると思たんだけど、何故かクリーンヒットした。別に避けられないような速度じゃなかったはず……どう言うこっちゃ?


「もう一発」

「許す訳が無かろう!」


 リエナの2の矢はユニの前足によって叩き潰されたが、今の一撃がよっぽど効いてるんだろう。少しふらついてるように見える。


「お前の攻撃効かない。弱い」

「フン。まぐれで一発当てたくらいで調子に乗られては困る。これだから幼子は」

「むか。リエナ子供じゃない」

「その程度で怒りを覚える時点で子供だと言っている。ワタシはこれでも長をしていた経験があるのでね。ロクな戦力のない子供相手にはどうしたって攻め手が緩もうと言うモノだ」


 確かにそれが真実なら加減するのも頷けるかもしれない。しかしユニよ……お前はついさっきまでもの凄い殺意を纏っていたのはどう説明するんだ? 恐らく、これを問うてみたら少しは動揺すっかもしんないので、終わるまでは心の内に留めておこうかね。

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