#274 呑まれた者の哀れな末路
「ふあ……っ。良く寝たなぁ」
昨日は色々と料理を作りまくったおかげで結構疲労したからな。ゆっくり風呂に入ってビールを楽しみ、フッカフカのベッドでぐっすり12時間は寝たおかげで心身共にそこそこスッキリしている。おかげで気分が非常に良い。
結局、昨日のユニとリエナの一戦は時間が来たんで喧嘩両成敗って事で大人しくさせたが、時間さえかければ多分だがリエナに軍配があるような気がした。
まぁ、どっちも本気じゃなかったんだろうけど十分にボロボロになったので、両者共に日頃の運動不足を少しは解消できただろう。その代償として闘技場内をかなりボロボロにしちまったが、事前に修繕に十分だろう額の金は握らせてあるから、それで何とかできんだろ。
「ちょおおおおおっとおおおおおっ!! シュエイから居なくなるなんてアタシ聞いてないんだけど!?」
起き抜けに何とも耳障りな……折角のいい気分がちょっと台無しになった。
「言ってないんだから当たり前だろ。それにお前のためにここに居る訳じゃねぇんだよ馬鹿」
「だったらお金出すから漫画とコーラとポテチと料理を大量に寄越しなさいよ」
「金を出すってんなら構わんぞ。まぁ、あと1時間もせずに王都に行くし、今から飯を食うからそれが終わるまでの間に何が欲しいかメモしておけ」
「ちょっと待ちなさいよ。そんな事をしてたらアタシがご飯を食べらんないじゃないの」
「んなお前の都合なんて知るか。別に一食を優先するってんなら食わせてやるけど、俺だったら後で楽しめる量が減るだろうから間違いなく朝飯は抜くぞ」
1人の美人と深く関係を持つより、100人の美人と知り合いになる方がのちの有利に働くと判断できれば、血涙位流すかもしんないけど我慢できる……はずだ。
「ぐむむ……」
「どっちを選ぼうがお前の自由だが、高確率で王都での用事が住んだらここに来るのはだいぶ先になるからな。どうしても欲しいとなったら世界中駆けずり回って探し出せ」
ここではたくさんの女性とお近づきになれた。もちろん全員とってのは不可能なんで、〈万能感知〉で探り当てた中の2割くらいの女性とは声を掛ければにこやかな笑顔を返してくれるくらいの関係にはなれたからな。そろそろ別種族の綺麗で可愛い女性とお知り合いになっておくのも悪くはないだろう。
「……分かったわよ。料理は白金貨10枚分くらいポテチ多めで置いておいて。コーラは1.5を1000本。漫画は出発するまでに可能な限り。完結済みのやつを。お金は前払いで白金貨20枚」
「へいへい。それじゃあ飯を食うから荷物が置ける場所を確保しておけ」
料理は〈魔法鞄〉に入ってる奴をくれてやれば問題はないし、漫画も既に万を超える数をコッソリ創造してあるから大丈夫として、問題はコーラだな。
俺もアニー達も炭酸があまり得意ではないので、サイダーを1つ創造しただけで完全に手付かずになっているので、1000って数を1時間で創造するのはさすがに難しい。〈品質改竄〉で何とかならなかったらゴメンちゃいと言おう。
ん? どうやら品質を上げていくと、魔力を注ぐだけで無限に湧き出る物へと変化するらしいが、果たしてこんな危険な物をアンズにくれてやって良いのだろうか……悩むな。
「主。食事がしたいのですが?」
「おぉ。スマンスマン」
とりあえずこれを作ってやるかどうかはアンズの態度次第とするか。注文本数に達しなくて激おこプンプンになるようだったらそう言う物が作れるって情報だけを晒して意地でも渡さずに悔しがる姿を見てゲラゲラ笑ってやるが、その逆であれば餞別としてくれてやるのも悪くはない。
「そう言えば……アンリエットはどうした?」
「ああ。しばらく肉を口にしていないので、今は死んだように静かに馬車の中に居ますよ」
入れて馬車をのぞき込んでみると、ソファの上でピクリとも動かないアンリエットを発見。ゆっくりと近づいて顔を見て少しだけやりすぎたかなぁって思えるほど能面過ぎて、〈恐怖無効〉があるはずなのに少しだけ怖っ! と思ってしまった。
「ふぅ……そろそろいいか」
これだけ反省させればしばらくは馬鹿な真似をするような事はないだろう。と言う訳でチーズインハンバーグを取り出し、顔の横で軽く息を吹きかけて匂いを鼻先に送り届けた瞬間――アンリエットの目がギラリと光り、あっという間にハンバーグを平らげてしまった……鉄板ごと。
「ふみゃあ~。お主人様のお肉はいつも美味しすぎるのなの~」
「……食ったな」
「へうっ!? で、でもそれはご主人様が持って来たのなの」
「だからって俺の手まで食おうとするなバカタレ」
「ご、ごめんなさいなの」
〈身体強化〉の反応力があったから良かったものの、一歩間違えば手首から先が無くなっていたかもしれん。そう考えるとちょいとゾッとするな。きっと〈回復〉やエリクサーが必死に働いてくれるだろうとは思っているが、自分で自分を傷つけたり出来ないので自分に関する部位欠損の修復考察が出来ない以上は、出来る限りそう言うのは避けていこう。
「まぁいい。これに懲りたら2度と悪い事をするなよ」
「分かったのなの!」
「じゃあ肉を食え」
赦しを得たアンリエットは、〈魔法鞄〉から大量の肉料理を取りだして一心不乱にがっつきながらボロボロと涙を流している。後はしばらく放っておけば置けば勝手に満足するだろうから、俺は俺でおかか・昆布・甘辛く炊いた生姜のおにぎりで朝食を済ませ、アンズの注文をこなしながら出発のための準備を整える。
「アスカ。部屋の掃除が終わったから始めてもらえる?」
「おうよ」
請われてアンズの部屋に入ってみると、大量にあったはずの漫画類は部屋の隅に数冊程度にまで無くなっているんで、次々に創造した漫画を押し込んでいく。大した広さじゃないが、四畳半もあれば3000はいけるはず。
「この量が入るって……アスカの収納スキルは凄い容量ね。一体どんだけ入るのよ」
「東京ド〇ムの方が大きいぞ」
「基準になんないわよ。あーあ。漫画とかポテチとかがずっと楽しめると思ってたのに……」
「別になくなったら買いにくりゃいいだろうが。どうせこんな場所で暇そうにしてんだし、元魔王なんだろ? その辺の魔物くらいパパッと殺せんだろ」
どのくらい強かったのか知らんが、アンズは自称前・魔王らしいからな。きっとユニよりは強いと思うし、そのくらいの実力があれば魔族領だろうが余裕で購入に訪れる事は出来るはず。と言うか、喉から手が出るほど欲しいならそうするのが購入者の使命だろ。
「そうもいかないのよ。詳しくは言えないけど、わたしはここから離れる事が出来ないの」
「ふーん。それが過去の魔王であるお前が生きていられる理由でもあるのか?」
「それとは別件よ。生きてるのは単純に寿命が長いだけ」
「あっそ。まあ……そう言う事なら部下でも使うしかねぇな。今のところ獣人の国に行く予定だから、そっち方面に網を張れば捕まえられるかもしれんぞ?」
「そんな事しなくたって、世界中にわたしの部下が根を張ってるから大丈夫よ」
どうやら余計な心配だったようだ。さすが裏家業を生業とする集団の1つを束ねているだけはあるな。キッチリ世界中に根を張っているらしい。後は適当に合い言葉でも決めれば完了だろう。
残る問題は運搬にかかる時間と量だが、そこは俺のあずかり知ることろではないので無視。
「さて、そろそろ王都から来た騎士連中を起こそうと思ってるんだが、ここでやっても大丈夫か?」
「別に問題ないわよ。わたしが魔王なんて知ってるのはもう誰もいないでしょうしね」
「否。騎士共に我々の規模や実力を知られるのは不利益と返答。外での解放を望む」
「うし。じゃあそうするわ。また会えたら君と握手」
「どこのヒーローよ」
アンズのツッコミにニヤリとしながら、ビビッドの忠告に従ってスラム街区でも王都側出口に近い場所で〈収納宮殿〉から取り出してエリクサーで復活させた。
「う、うぅ……ここは一体」
「全く。だからあれほど飲みすぎるなって言っただろうが」
「き、貴様は!? 我等に一体何をした!」
「え? 覚えてないのかよ。まぁ、あれだけ酒を飲んで羽目を外せば記憶もぶっ飛ぶってモンだな」
「な、何を言って……」
まぁ、死んだ記憶もないような速度で首を刈り取ったからな。空白の1日をこちらに都合のいい物――シュエイで酒と女に溺れて1日中爆睡してたと言うモノに勝手に書き換えてしまおうって魂胆だ。
「やはり弱者は愚かとしか言いようがないな。主の奢りと知り、低賃金の身分では口に運べないような高級酒ばかりをガバガバ飲んだ挙句、記憶を失い1日以上目を覚まさぬとは……噛み殺してやりたい気分だ」
「本当に何も覚えてないのか? あんだけ高い酒を飲まし、この街の高級娼館なんかにも行かせてやったってのに、何一つ覚えてねぇってか?」
全部、俺達のでっち上げなんだから覚えてないのは当然だが、こうもつらつらと情報を植え付けられると、次第にその気になって来たらしくやっちまったなんて顔をし始めるから不思議だ。
「すまない。そんなもてなしを受けたというのにまるで何も覚えていない」
「しくじったぁ……っ。そんな高い酒を飲んでたなら記憶を飛ばすんじゃなかった。どんな味だったのかすら覚えてないなんて……」
「オラ……男になっただか」
反応はそれぞれだが、全員俺の言葉を疑いもせず受け入れて各々後悔しているが、いつまでもそんなコントに付き合っている暇はない。さっさと王都で魔神に関する話を終えてオレゴン村に帰って混浴がしたい。
「ほら。ボケっとしてないで馬車に乗れ。騎士団長のジジイも拾ってかなきゃなんないんだから、ちんたらすんな」
ケツを蹴っ飛ばしながら馬車に乗り込ませ、ちゃんと王都へと向かう旨を新・伯爵に知らせたであろう妙に暴れるジジイを簀巻きにして、アリバイ工作もかねてキッチリ1日かけ王都へと到着した。




