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#265 改めて知るスキルの恩恵

『ふぅむ。さすが神の使いか。吾輩の肉体に傷をつけるとはな』

『そっちこそ。地面に埋められるなんて経験させられたのは初めてだよ』


 とりあえず自由のために穴から脱出。

 こっちにダメージらしいダメージはないが、牛頭の方は指を斬り落とした分だけ血っぽい何かが滴ってる。色が真っ黒なんで魔物とは違うのか?


『そう口にしながら平然としていられる同種以外の生物を見るのは何千年ぶりであろうな』

『羨ましい限りだ。俺もそのくらい長生きならどれだけいいと思う事か』

『フフフ……吾輩からすれば瞬きのような時しか生きられぬ貴様の方が羨ましいがな』

『無い物ねだりはお互い様か。そう言えば――』

『ぬうんっ!』


 チッ。やっぱそう簡単に時間稼ぎに乗って来ちゃあくれないか。〈万能感知〉で見ても、こいつがいつまで顕現できるのかってのが正確に把握できないから、一秒でも長く世間話でもしときたかったんだがな。別に何も悪い事をしてないのにいきなり命を狙われる理由についても問いただしたかったが、相手がそれをしたくなっていうなら仕方ない。


『そお……れっとぉ!!』


 今までの5割と違い、この一撃は〈身体強化〉7割のステータスで振り抜いた。であれば当然、振り落とされる腕なんかあっさり斬ってしまう訳で。


『むぅ!?』


 おや? 俺としてはもうちょい驚いてもいいんでないかいと思わなくもないし、肩まで真っ二つになるかと期待していた結果も半分の肘辺りが限界だった。ふぅむ……どうやら自称・龍王の息子よりはやるようだな。


『もう一発っ!』

『〈鉄壁(ハイウォール)〉っ!!』


 もう一発。今度は心臓の辺りを狙っての剣の投擲を放つと、牛頭もそれがヤバいと判断したんだろう。切り札なのかどうか知らんけど魔法Lvが1じゃないはずの物を無詠唱で撃ちやがったおかげで、こっちの攻撃は貫ける自信があるほどの威力を込めたつもりの物が、弾かれるまではいかんかったけど刃が半分ほどまでしか刺さらんかった。


『おいおい。随分とおかしなことをやってくれるなぁ。魔法ってのは詠唱が必要なんじゃないのか?』

『それがどうしたと言うのだ。吾輩と貴様では存在している次元が違うのだから詠唱など必要ないのは当たり前ではないか』

『何でこっちがさも分かってて当然みたいな言い方すんだ……よ!』


 会話をしながら足に向かって振り抜いて斬り飛ばし、吹っ飛んだそれを速攻で〈収納宮殿〉にぶち込む。成功すれば勝ちへの道筋が出来あるが、失敗すれば〈流体金属(アクアンタイト)〉に次いでまた新たな脅威が現れた事になる。


『チッ! どういう原理だよ』


 腕の傷の再生は魔族より遅いからまぁいいとして、斬り飛ばした足を〈収納宮殿〉にぶち込んだ瞬間に黒い粒子が集まってあっという間に再生。一体どうなってんのか分からんけど、それを見た牛頭が勝ち誇ったような顔をするのが非常にムカつく。


『何をしたか知らんが、吾輩の肉体を下層領域の理で縛るなど無駄な事よ』

『確かに無駄だな。とはいえ、死なない訳じゃないさそうだぞ』


 時間稼ぎとは言え、情報収集は怠らない。似非魔族程度が召喚出来たという事は、これから先もまたこいつに出会わないとも限らないからな。何か対処法の1つでも発見する事が出来れば圧倒的なステータスを駆使して有利に事を進められる。

 今のところ分かってるのは、あちら側からこっちに来ることはできない事と魔族に劣るが回復能力を持っている事に、〈収納宮殿〉みたいな異空間収納に身体の一部をぶち込むと再生する。

 この辺りを考えると、ダメージで倒し切る事が出来なくもないけど、普通の奴にはまず無理だろうな。俺のステータスがあって初めて深手を与える事が出来るし、そもそもけろっとしたままこうして立っていられるもの〈万能耐性〉のおかげだからな。殺せるうちに殺しとくか。


『〈微風(ローウィンド)〉』

『何だと!?』


 まぁビックリするよな。さっきまで微動だにしてなかったはずの魔法でわずかながら宙に浮き、追撃のすくい上げるような斬撃がつま先から肩まで深い傷を負わせる事が出来た。これが〈身体強化〉を7割まで解放した人外のステータス。まさに神の力って感じがするぜ。


『そらそらそらそらぁ!』

『ぐ……っ! 馬鹿な』


 一発一発が牛頭を持ち上げるには十分な威力で、尚且つ消えるような移動で相手の攻撃が来る前にそれを潰す形でカウンターを叩き込み続ければ、そう長くない時間で相手の全身は傷だらけで血だらけだし回復は追いつかないが、再生するまでには至らない。


『ふぅ……。結構斬ったつもりだけど、全然帰らないなお前。反撃もしてこないし飽きてきたんですけど~?』

『あ、あり得ぬ。いくら神の使いとは言え、これほど矮小で下層領域の生物如きが吾輩をこうも一方的になぶるなど……貴様――』

『普通の人間だからな。そのセリフはそこら中で散々聞き飽きたっての。ってかどうしたよ。このまんま何も出来ずに死ぬなら、その前に魔法を使えばいいだろ。こっちを下層とか言ってるお前はさっき無詠唱で使ってたんだからよぉ』


 攻撃の最中にようやく見つけた。〈鉄壁〉はLv3の魔法だから絶対に詠唱は必要になるはずにも関わらず、ノータイムで放ったそれを牛頭は頑なに使おうとしない。普通、一方的にこんだけやられたら反撃の機会をうかがうために変化の1つや2つ仕掛けて来てもいいはず。

 まぁ、物理的な反撃にはすべてカウンターを合わせて打たせないようにしてたから、奴には自然と魔法での反撃しか残ってないってのに一切撃たなかった。何かあるとしか思えない。


『フン。その様な手段を用いずとも、貴様ごとき下層世界の生物などいくらでも葬る事が出来る』

『なるほど。魔法を使うと制限時間が短くなるのか。こいつはいいことを聞けた』

『っ!?』


 〈万能感知〉で嘘を言っているのはすぐに分かる。なので、このまま肉弾戦を続けたところでステータスが同等であれば、〈剣技〉で剣を扱っている限りは俺の勝ちは揺るがない。これはきっと牛頭も十分に理解できるはず。

 回復するせいで死ぬには相当な時間がかかるだろうけど、その未来は恐らく変化しない。それこそ魔法でもなんでもがむしゃらにならないといけないはずなのに、亀のようにガードを硬くしたまま動かない。

 これが動かないんじゃなくて動けないんだと捉えると、カマかけも含めて現状で一番可能性が高そうな解答を口に出してみたんだが、どうやら正解だったようだ。牛頭がそれに気づいたのもきっと〈鉄壁〉を使った時だろうな。


『駄・目・だ・よ~。そういう時はおくびにも出さないで平然としてないと。おかげで確信を得れたよ。って言うか、戯れに願いを叶えに来たんだろ? だったら本気出して下層領域の生物を殺さないと~願いを叶えた事になんねぇだろ。まぁ、この俺相手にそれすらできないザコだったんだから、しゃーないっちゃしゃーないか』

『……貴様のように吾輩を虚仮にして来る存在はいつぶりであろうな。マサカ以来か』

『マサカ? 誰だそれ』

『フン。ここで死ぬ関係ない事であろう』


 ようやく覚悟を決めたみたいだな。そしてやっぱり無詠唱か。

 いつの間にか牛頭の右手には、今が昼間と勘違いするほどの圧倒的な光を放つ小さい球が浮いている。まぁ小さいつっても、俺からすれば大玉ころがしのサイズなんで決して小さいとは言えないそれは一体何の魔法なのか知りたかったけど、正直。そんな事をする時間がない。


『暑……っ』


 えげつない熱量だ。正直、このまま時間切れになるまで出し続けられると〈万能耐性〉があっても脱水症状でこっちが先に参っちまうし、それすら持ってない他の連中は焼け死ぬくらいの熱量だ。


『死ね。〈極炎(アルカナフレア)〉』

『この世界にゃまだまだ俺を待ってる美人が沢山居るからな。そうはいかんざき』


 投げ込まれた魔法に封魔剣を投げ込んでみたが、本体に触れる前に融解した。まぁそこら中で焼死体が出来上がるほどの熱量だ。そうならない訳がないか。また一つ勉強になったなって余裕ぶっこいてる場合じゃない。ヒヒイロで作ったバットに〈熱耐性〉を〈付与〉。後は己の耐久力を信じて何とかするしかねぇっての!


『ぐ……おおおおおおお!!』


 落下点に入った途端。服は一瞬で灰になり皮膚は火傷で爛れ始め、目玉なんてあまりの光量と熱量に一瞬で駄目になってるし、一呼吸しただけで肺は完全に機能不全に陥った。

 何とか〈万能耐性〉で痛みなどはかなりカットされてるんだろうけど滅茶苦茶痛く、〈再生〉は微塵も追いつかないが、〈熱耐性〉の〈付与〉が効いてるヒヒイロバットは何とか形を保ってるので、恐らく何とかなるはずだ。

 そうして目前に迫った魔法を相手に、全力解放させた〈身体強化〉の全てを乗せて空高くまで打ち上げる。


『何だと!?』

『っぐは! マジ痛えええええええええ!!』


 予想したよりは遅かったがちゃんと軌道が変わり、20秒ほどで大爆発。その風圧に中世時代の建設技術で建てられた物が耐えられるはずもなく、次から次へと崩壊が広がって死傷者が増えていく事態になってしまった。

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