#264 早く証拠を隠滅せねば!
「がふっ!? ば、馬鹿な……今まで背後に人の気配など」
「何言ってるのさ。そんなのは消してたに決まってるじゃないか。何となくだけど、そう言うのを感知して攻撃が通じない身体にしてるんじゃないかって仮定してたからね。その姿を見る限り、間違ってなかったみたいだね」
思った通りに事が運んだ。奴の無敵のタネは、俺の予想通り意識する事だった。
人の気配を認識する事で、どうなってんのか知らんがそのボディが自然とあらゆる攻撃を遮断するって仕組みになっていて、こうして面と向かってやりあうにはとてもいい相性の特性だ。
と言っても、それはあくまでも1対1のタイマンであればこそ。多対一となると意識を向けるのは難しいって事で出て来るのが、超長距離から俺に魔法を撃ち込んだみたいな広範囲にわたる索敵魔法的な何か。
どのくらいのペースで展開できるのか知らんけど、これのおかげで背後からという意識しづらい場所からの攻撃にも過敏の反応し、即座に反撃に移れるんだろうと俺は判断したんで〈気配断絶〉って付与を施した剣をジジイ団長にコッソリ渡して、信の置ける部下に決死の作戦の犠牲者になってもらった。
結果は上々。胸を貫かれた事によって似非魔族の気配がぐんぐん小さくなっていくので、遠からず死体となって俺の女性からの好感度に対する極上の餌になってくれることだろう。
「ククク……どうやってあの魔法から抜け出したかは知らんが愚かな奴だ。あの中で死んでいれば、貴様だけだが余計な苦しみを味わう事などなかったと言うのに」
「これから死ぬ君に何が出来るって言うのさ」
心臓を貫かれ、自己回復すら追いつかない死がひたひたと近づいてくるこの状況でまだ余裕の笑みを崩さないか。はてさてどんな隠し玉を用意しているのかね。
「出来るとも。この身に宿る全ての魔力と命を犠牲に、この街もろとも殺してくれる!!」
血を吐きながら取り出したのは、実際には見た事はないが大抵の奴がその形と用途を知っている藁人形。この世界でまさかそれを目にする事が出来るとはね。逆にビックリだよ。
それを自分に都合のいいように取ったんだろう。似非魔族が狂気じみた歪んだ笑みを浮かべ、その手にあるものを見たジジイ団長から恐怖のような感情の波が吹き出す。
「っ!? そいつを殺すぞ小娘! あれを使われたらどうにもならん!」
「そうなの? 分かった」
〈万能感知〉が反応しないからいまいちヤバさが実感できないな。そもそも〈万能耐性〉があるんだから、ちゃちな呪い程度で俺がどうにかなるは思えないが、とりあえず止めるか。
「遅い!」
こっちが動き出すよりも先に、似非魔族は藁人形の首を引きちぎった。
「なんだ?」
「遅かった……終わりだ。この街は明日には無人の廃墟と化す」
「はぁ?」
何を言ってるのか全く理解できないまま、何が起こるのか待ってみると、質量を無視した巨大な牛の頭が藁人形の首から飛び出して、使用者である似非魔族の全身を一瞬の内に飲み込み、それを糧にしたかのように徐々に全体像があらわになっていく。
俺の身体と同格くらいにデカい頭から何となく予想はしていたけど、全身真っ赤で逆三角形の筋骨隆々の肉体に、可視化されるくらいに濃密な闇のオーラはただそこに存在しているだけで並の人間は死に、騎士連中ですら這う這うの体で逃げ出すのが精一杯。ジジイ団長ですら〈物質消去〉の武器を支えに立っているのもやっとと言った感じ。
そんな似非魔族の犠牲によって呼び出されたであろう牛頭は、ぐるりと周囲を見渡した後。視線を俺にロックオン。
『停滞した時の流れに飽き、戯れに応じてみればとんだ強者に出会えるものだ』
『こっちはそっちの事をそこまで強いと感じないぞ?』
確かに強さのレベルは似非魔族なんかとは比べ物にならないほど強大ではあるけれど、気圧される程の物ではない。いいところあの自称・龍王の息子よりちょい強いくらいか?
そんな無駄にデカい牛頭は、突然に歯をむき出しにて地響きがするような唸り声を上げ、ジジイ団長すら意識を失うほどの精神異常をきたす波動を撒き散らした。
『……ククク。まさかこちらの領域に吾輩等の言語を操る者が存在するとはな』
『まぁそんなのは別にどうでもいいんだよ。それよりもそんなデカい図体でここに居られると邪魔だからさっさと元居た場所に帰れよ』
似非魔族も元・ナイフ男も脅威ではなくなった。つまりは事件解決で女性からの好感度爆上がりってところだし、ここで戦後処理として建材の提供までしておけばより上位の崇拝までしてくれるかも。妄想は膨らむばかりだってのに、その中心地にこんな馬鹿デカい邪魔者が居たんじゃいつまでたっても復興が始めらんない。そもそも居るだけで人を殺したり気絶させたりするオーラを放つんだからどうにもならんか。
『それは出来ぬ相談だな。この世に顕現したからには、たとえわずかな時しかなかろうと、破壊の限りを尽くすまでだ』
『なるほど……つまり、どうあっても俺の邪魔するってんだな?』
『それが気まぐれで顕現した吾輩の役割なれば』
『だったら殺すしかないな』
これ以上破壊されるのは勘弁だ。ただでさえ見方を変えれば、この牛頭は俺がちんたらしてたから出現したんだろうがって攻め立てられる可能性すらあるからな。これ以上何か不利になるような動きをされては美人さん達からの好感度がマイナスになってしまい、そうなればお店に行っても十分なサービスが受けられなくなってしまう。これは是が非でも被害ゼロで切り抜けねばならん!
「〈微風〉」
『ぬぐ……っ!?』
先制攻撃として魔法を放ってみたが、やはり体格も違ければ質量も大違い。大抵の魔物なら切り刻んで吹っ飛ばすくらいの威力を誇る俺の魔法でも、牛頭を浮かび上がらせるには至らなかった。
『重っ。何食ったらそんなになるんだよ』
『若かりし頃に人や天使を。今では打ち倒した同胞を糧としておる』
俺の質問にさも当然のようにそう答えながら、サイズ差を感じさせない速度で巨腕が迫るので受け止める。たったそれだけで突風が巻き起こって瓦礫と化していた建物があっさりと宙を舞う。こんなのを避けて被害を拡大させる訳にはいかんのだよ!
『食いすぎだろ。人の世には腹八分って言葉があるんだ。覚えておけ』
『それで言うのであれば、吾輩は常に空腹である』
『無駄にデカいからだよ!』
また〈微風〉を打ち上げるように連発で撃ち込む。皮膚が高い魔法耐性を持っているのか傷一つはいらない。やはりLv1程度の魔法じゃこの辺りが限界か。
『無駄な事だ!』
『ばっ!?』
意に介さないと言わんばかりに蹴りが飛んでくる。さっきは腕だったからまだ何とかなったが、足となるとより瓦礫に近いからその被害拡大の度合いが馬鹿なんじゃないかってくらいに跳ね上がる。なにしろ、台風なんか比じゃない暴風に乗って俺とそう変わらんサイズの瓦礫が弾丸並みの速度で撃ち出されるんだ。それも大津波のようなスケールでだ。1人じゃ限界ってもんですよ。
『……なんだと?』
『ふーい。危ない危ない』
今の俺の手札でこの状況を何とか出来るのはたった1つ。神壁を後方に展開する事だけだ。そのおかげで何とか被害らしい被害は抑えられた。騎士は数人犠牲になったけど、これも職務故の殉職って奴なんだろうけど、運が良ければ助けてやるつもりではある。
『その力……貴様は神の使いか?』
『まぁ当たらずとも遠からずって感じかね。何だよ急に』
自由気ままに生きてはいるが、六神ぎゃふん(笑)を標榜に掲げている事を考えればそう言えなくもないけど、なんだってこんなタイミングで? しかも何の脈略もないのにいきなりそんな事を聞くか普通。
『これは僥倖。貴様を討ち滅ぼす事で、神に対する憎悪を癒させてもらおうではないか!!』
『はぁ?』
いきなり何を言ってんのかよく分からんけど、今まで以上に本腰を入れて殺しに来たってのだけは理解できるわけだけど、そう来るならこっちもこっちでより力を入れて対処すればいいだけだ――ってんで落ちて来るように振り抜かれた牛頭の拳にヒヒイロ剣を振り上げる。
『ぐ……っ!?』
『ぬ……おお!?』
激突した途端。地面はあっさりと砕けるだけにとどまらず、どんどん地中へと埋まっていき、指数本を斬り落としながら弾き返した時には、胸辺りまで沈んでいた。




