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#241 ああいった手合いにはベテランが出るのが最も安全なのですよ(とあるギルド員談)

「さて。それじゃあまずは素材の品質を決めるか。どのくらいが妥当だろうな」


 高級レストランから帰って来てすぐさまテーブルに肉を置く。左から10刻みで10個並べたが、こうしてみてみると品質が上がるたびに肉の発色が綺麗になっていくな。品質1の肉なんてほぼ真っ黒だ。

 それでも肉は肉なんで、薄切り肉にして焼いてへぼコックとおばちゃんの3人で試食。ユニやアンリエットはぐーすか昼寝。ガキどもはアンジェの指導と言う名のしごきを受けてる真っ最中だ。明日から再開する店はアンジェ1人では絶対に手が足りなくなるからな。ちょうどいい働き手がわんさといるのに使わない手はないって事で、1日銀貨1枚で従業員として10人。後はもう一仕事してもらう人間をざっと100人ほど。こっちは労働時間が短いんで銅貨5枚でとの伝言をガキの1人に頼んだんで、明日には集まんだろ。

 そんな中で試食を終えた2人は言葉を失っていた。


「ほら。ボケっとしてないでさっさと肉を選べ。俺としちゃあこの辺りなら客が呼べると思う」


 俺が選んだのは品質50の肉。この辺りだと多少〈回復〉の速度より減る方が多いが、キロ単位で創造できる事を考えれば採算は十分に取れるし、この肉であれば味・質共にあの高級店の少し下くらいのはずだから競合はしないと思う。完成品の出来に関してはどっちが上かなんて分かり切ってるから説明は不要だ。


「いやいやいや。こんな店でそんな質の肉を出してたらおかしいだろ。せいぜいがこの辺りだよ」

「ふざけんな。そんな肉で客が寄ってくるとでも思ってんのか? どうせ3日限定なんだからパーッとやるぞ。異論は認めん」


 おばちゃんが指さすは20の肉。一般的なスーパーに売ってる普通の肉程度の物だが、そんなんじゃあ☆2.99のあの店と大して変わらないし、3日なんて短時間で客を根こそぎ奪うなんて出来やしないだろうが。


「だったらなんで同席させたんだよ。もうテメェが勝手に決めりゃいいだろうが」

「言っておくが、俺に常識は存在しない。全部決めていいと言うのなら、この最高の肉を躊躇いなく出すがそれでもいいな?」


 最高の肉を銅貨1枚で食う。まさにどうかしてるぜ! って言いたくなる価格破壊の極みだが、元々タダで手に入れてるようなもんなんで馬鹿みたいに低価格でもやっていけない訳がないんだよなぁ。むしろその方が目を引くしインパクトしかないからな。繁盛間違いなしだぜ。


「さすがにそれ以上の肉は勘弁してもらいたいね。どう考えても怪しまれる」

「警邏に目ぇつけられるのゴメンだ」

「なら常識枠としてしっかり食材を吟味しろ」


 俺としては真っ当な意見のつもりだけど、2人はなんか脅されたっぽい雰囲気を醸しながら次々に食材をこの店では高級すぎるが出てきてもおかしくないギリギリのラインを一時間ほどかけて全て決定されたので次はメニューだが、この辺りは全て俺任せという事にして、おばちゃんには冒険者ギルドで護衛を最低でもCランク。それを60名雇う依頼を出すように指示し、俺は1人で商人ギルドに。


「はいはいはいはい。ごめんくださいよって」


 シュエイの広々としたギルド内を闊歩するのは、LEDライトを巻き付けたシルクハットに全身ラメピカスーツを纏った鼻眼鏡男ウサン・クセーノでもって訪れ、空いているカウンターに腰を下ろすと目の前の受付嬢(可愛い)の顔が明らかにひきつっている。

 まぁ、それが狙いだから心中でゴメンねと謝っておく。


「い、いらっしゃいませ。商人ギルドにどのような御用でしょうか」

「そらあんさん。決まってまんがな。金もうけをするための許可取り以外に何があるんでっかなまんがなしかし。ちみっと露店開こうと思ってるんで急ぎで頼むでごわすだっちゃ」

「か、かしこまりました。それではギルドカードはお持ちでしょうか」

「これでんがなまんがな」


 もちろん。ギルドを利用するにあたってそんなモンが必要になるだろうと言うのは、ラノベを見ていればもはや常識。なので適当に作った板切れに商人とかいて〈万物創造〉と〈品質改竄〉のコンボで偽造カード制作済みだぜ。ちなみにランクはC。これはアニーが決めた事なんで文句はない――ってか言えるかよ。

 そんなカードを受付嬢に渡して精査される事数分。現れたのはなぜか眼鏡をかけたロマンスグレーなダンディ。さっきのお嬢ちゃんはどうしたと怒鳴り散らしたいところだけど我慢我慢。


「失礼。ウサン殿は商売のための許可が欲しいとの事でしたので担当を変わらせていただきました。セールスと申します。この度は如何様な営業許可を?」

「おお。それやったら露店で飯屋やろう思ってるんだす。しゃーから許可を貰いに来たんでごわすがな。場所はざっと20ほど」

「……いきなり20でございますか」

「んだ。おいどんが露店出す目的は宣伝でんがなまんがな。だっちゃからそれだけの数営業できる許可が欲しいっちゃよ。金ならあるでぜよ」


 そう言えばギルドカードに関する知識はもらったけど、許可に関するみかじめ料に関しては聞いてなかったっけ。

 とはいえ、ネット調べでは確か5万くらいって書いてあったから、それが20となると約100万。うーん。大した額じゃないんだが、一体どの硬貨で支払えばいいんだろうな。

 銅貨銀貨は速攻除外。となると残ってるのは金貨と白金貨だが、白金貨に手を伸ばしたら背筋がヒヤッとしたんで金貨にしよう。ウン。金貨は某フレンドなパークと同じサイズだから約10万って考えると10枚……いや、ここは太っ腹なところを見せる為に15枚だ。


「……」


 あれ? なんか反応が薄い。どうやら20の露店の場所を借りるにはまだ足りなかったって訳か。それなら倍の30――いや、1ヶ所2枚と計算して40枚じゃああああ!


「お、お待ちください!」

「あ? どないしたんでおま?」

「いったいどれほどの土地を借りるおつもりですか。さすがに金貨15枚でも2・3ヶ所で厳しいと言うのに40枚となるとさすがに……」

「そだね~。料理を並べるスペースと作るスペースを考えると、一ヶ所につきここの受付2つ分あれば満足でんがなまんがな。それを20今すぐやでどすえ~」

「い、今すぐにですか。一体何をなさるおつもりで?」

「なぁに場所だけ教えてもろたらおいどんが勝手に準備するさかいに心配おまへんばい。料理作ろう思うてばってんばいだべさ」


 長テーブルとガスコンロと蒸し器に皿。これさえ準備出来れば何の問題もない。

 俺がやろうとしているのは所謂試食を兼ねたビラ配りみたいなモンだ。

 今から借りるシュエイ各地で、ひと口サイズの肉まんを無料で配り、もっと食いたきゃ閑古鳥食堂に来いと宣伝する。これも立派な戦略だ。

 そうすれば知名度や立地の悪さなど関係ない。そしてそれを狙う馬鹿共を、おばちゃんに頼んである冒険者ギルドで雇った連中に守ってもらう予定だ。大量にありすぎてどれがどれだか覚えてないが、多分金貨を渡したはずなんで大丈夫だろ。


「料理ですか」


 ん? なんか反応が悪いな。何か困ってる感じだ。


「何か不都合があるでおまか?」

「いえ……まぁ……あまり大きな声では言えないのですが」


 そう前置きしてから始まったのは、やっぱり例の地上げ屋に関する事だった。

 何でも、ナツリーっつー商爵なる野郎が伯爵が入れ替わったゴタゴタを狙って自分の商売域を拡大させるためにあの店一帯を買い取ろうと画策しているらしいと、おばちゃんから聞いた説明をもう一回聞かされたわけだが、どうやらギルドにもその話が届いているが法に触れるような事もしていないので止める訳にもいかず、少し困っていたとの事。


「ならええがなまんがな。あんさん等が邪魔しなかっぺったらおいどんはおいどんでやるがなまんがなっちゃよ」

「申し訳ありません。罪を犯さなければ可能な限り便宜は図りますので」


 言質はもらった。後はいったん殺して〈収納宮殿〉に押し込んで、よきところで罪人としてしょっ引いたところで、生きてるんだから罪ではない。まさに完・全・犯・罪っ!

 そんな黒い感情でニヤニヤしながら相手の情報を入手していると、さっきの受付嬢が丸められた羊皮紙の束を抱えて戻って来たが、どう見ても20以上あるな。


「こちらで全部です」

「ご苦労様です。それではウサン様。説明をさせていただきますね」

「ああ。いらへんいらへん。こう言うのは直感で決めろってぇのがおいどんの家系で言われてまんがなでんがなっと」


 いちいち説明を聞いたところで理解できないしするつもりもない。それに無駄に時間がかかるんで、山となった束の中から適当に20本抜き取って決定とした。ちなみに使用料は狭いという事もあって一ヶ所銀貨1枚だった。

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