#240 もぐもぐタイム
「さて……ガキ共に仕事をくれてやろうではないか。感謝の証として我を崇め奉るがいい~」
「そう言うのいいから仕事くれよ」
「ったくノリの悪ぃガキ共だな。じゃあさっさと始めろ」
とりあえず俺と言う最高の存在をアピールする場の基礎が出来上がった。
次は……この汚ねぇ店を今日1日で可能な限り綺麗にするのが、ガキ共の仕事だ。報酬は銀貨1枚。飯付きだと言えばその場にいた全員が速攻で人〇ゲームを止めて俺が用意した掃除用具を手にちゃっちゃか掃除を始めたんで、邪魔にならないように指導係としておばちゃんを残し、俺達は外観に目を向ける。
「ボロだな」
「直す金なんかないからな」
築何年か知らんが、建物は全体的に歪んでるし、柱もボロボロ。可及的速やかな建て替えが必要だがそんな時間はないんでとりあえずイスとテーブルを大体50人程度が座れるように並べていき、素材の品質をどの程度に抑えるかの判断をする敵情視察のため、シュエイで一番高い料理を出す店の場所をおばちゃんから聞き出して突撃する事にした。ちなみにへぼコックは強制参加だ。
「おら。さっさと行くぞ」
「何でこっちまでついてかなきゃなんねぇんだよ」
「俺は最高級の素材しか知らん。程度の低い材料についてはへぼだがお前の方が詳しいだろ。だから連れて行って材料の単価とかを口答しろ」
「……おい。その言い方だとこの町一番の高級店の素材がお前の持つ食材より劣ってるって聞こえるぞ」
「何を当たり前の事を言ってんだお前。つーか時間がないんだからさっさと行くぞ」
ごちゃごちゃと文句を垂れるへぼコックの首根っこを掴んで引きずるように大通りを闊歩。時折道を間違えると即座に指摘が入るので気ままに歩く事30分。貴族区の中のこれまた一等地にドンとどでかい建物が鎮座していた。
「うわ……本当に来やがったよ。正気かテメェ」
「モチのロン。さて、行くぞ」
さすがに男の首を持って引きずるような格好じゃ、入り口で石像みたいに立つ門番共に入れてもらえないかもしれないので、首に伸びていた手を背中に変えて、逃げたら骨を折ると脅しながら背中を押しつつ悠然と近づいて行く。
「止まれ」
「なんだよ。こっちは客だぞ」
「そのみすぼらしい格好で店内を歩かれると迷惑だ」
「一度服装を正して出直すんだな。そもそもよくここまでたどり着けたな」
「見張りが顔見知りだったんでな。しかし服装か……」
つまりはドレスコードが存在するって訳だ。
確かに。言われてみれば俺はシャツにジーンズ姿。へぼコックに至ってはヨレヨレの紺のシャツにつぎはぎだらけのズボンに汚れたエプロン。これじゃあきらびやかな高級レストランは入れはせんわな。
ちなみにここまで入ってこれたのは、貴族区入り口を見張ってたのが顔見知りの赤の髪の野郎だったんでちょいとメリーの名前を出して脅すとあら不思議。心底嫌そうな顔をしながらも道を開けたんで、そこを通って来たに過ぎない。
「別に着替えてもいいんだが、後から後からごちゃごちゃ言われるのは面倒だ。必要な物を言え」
「……貴族の紹介状と店に相応しいドレスに最低でも1人金貨1枚」
「それだけか。なら紹介状はこれでいいだろ」
ぽいっと金爵から貰った闘技場のフリーパスを門番に放り投げ、精査させている間に〈万物創造〉で適当にドレスっぽい物を2着分取り出し、1着はへぼコックに。もう1着は当然俺。どっちも魔道具としてピッタリフィットするサイズ自動調節機能がついてるんで、腹が破れそうなほど食いまくってもベルトを緩めると言う手間がなくて済む一品だ。
そんなドレスに天下の往来でパパッと着替えを済ませ、鞄の中からゴッソリと金貨を取り出す。この間おおよそ10分。
「問題ないな? 入れろ」
注文通りに貴族との伝手。超一流のドレス。潤沢な資金。門番が提示する条件はすべて用意したんだ。これ以上邪魔をするというのなら白金貨の山を築いて、乗っ取りと言う名のパスポートで強制的に乗り込む所存だ。
「……どうぞ」
「うむ。苦しゅうないぞ。これはチップじゃ」
扉を開けただけで金貨をタイトなポッケにねじ込み、両者の横を悠々と抜けて中に入るとすぐにウェイターが現れてそつなく席へと案内してくれる。超絶美少女とうだつの上がらないへぼコックと言う人柄など無視をしたようにさらりとしてるのは門番が通した相手ならだれでも問題はないという事なのだろう。
ふかふかのクッションが相当高いんだろうと思わせる椅子に腰を下ろし、光沢のあるつるりとした布を惜しげもなく使用したテーブルクロスには当然ながらシミや汚れなんて1つもないし、人の手にしては随分と縫いが細かい。
「そこのウェイター。これは手縫いか?」
「いえ。そちらの品はダンジョン都市のダンジョンより発見された物でございます」
「ふーん。ダンジョンってなぁこんなモンまで手に入るのか」
ダンジョン攻略に対して何の必要性があるのか皆目見当がつかないが、それであるならこの細やかな織りは納得できる。ミシンもないだろうこの世界ではまず再現不可能なくらいだからな。何の使い道があるのか全く知らんけど。
さらに問いただしてみると、座ってる椅子もテーブルも食材に至るまで全てダンジョンから出てきた物でとても高価な品を使っているとの事で、どんなダンジョンだよ! とツッコミを入れかけたが、俺にはそれがどんだけの価値なのかが正直全く分からんので、金貨5枚分の料理と簡潔でアバウトな注文をしてウェイターを一端下がらせてへぼコックに目を向ける。
「おいへぼコック。ダンジョン産の食材やこういった家具ってのは高いのか?」
「当たり前だろうが。ダンジョンってのは魔素が濃ければ濃いほど強い魔物が生まれるようになってて、その魔物から取れる肉・野菜・穀物・調味料。あらゆる食材は強ければ強いほど美味い。それと同時に目ン玉が飛び出るほど高い。家具や食器もその意匠が人の手で作られたとは思えないほど美しく頑丈であるため、物によっては白金貨の出番が出て来るほどだ」
「あっそう。あんなとこに住んでるくせに随分と詳しいな」
「店に来る冒険者がそんな事を言ってたのを覚えてただけだ」
「そんな奇特な奴がいたなんて驚きだ」
とりあえずダンジョン深部の物がこの世界じゃ最高級って事だから、さすがにそれを銅貨1枚で食わせるといろいろ問題がありそうだから、中層くらいのをへぼコックの知識とすり合わせて使う食材を吟味して行こう。
BGMとしてうっすらと流れている音楽に耳を傾けながらうつらうつらとしているとへぼコックが脛を蹴って来たんで目を開けると、いつの間にか前菜らしきサラダが目の前に置かれていた。
「こちらはヒルック草と〈香草虫〉のサラダでございます。こちらのソースをかけてお召し上がりください」
簡単な説明だけをして去っていく。うむ。邪魔にならないようにすぐ距離を取りつつ声を掛けられたらすぐに駆けつけられるであろう位置に立つとは中々出来る奴のようだ。
感心しながらサラダを一口。うん……どれがヒルック草でどれが〈香草虫〉なのか知らんけど、青い葉がシャクシャクとした歯触りを。緑の細長い野菜がコリコリとした食感。虹色の丸いのがくにくにとした食べごたえがあって面白いし、このドレッシング代わりのソースも塩と酢と胡椒の他にスダチっぽい柑橘系の風味が入ってるからさっぱりする。前菜としては悪くない。42点。
ちなみにヒルック草と〈香草虫〉はダンジョン上層で取れる比較的レア度の低い食材だが、その味と強い回復効果が貴族や金持ち連中に需要があるので高級店によく卸されるとの事。
さすがこの町一番のレストランだなと満足していると次のスープが運ばれてきた。
「こちらは〈出汁鳥〉の血と十種の野菜のスープでございます」
血と言う割には赤くなく、どっちかってーとコーンポタージュっぽい感じのドロッとしたスープを一口。ふむ……血って言うからどんなもんかと思ったけど臭みはなく鳥と野菜の地味深い味わいがするし、表面に散らされたクルトンのカリッとしたアクセントが飽きさせずに最後まで食べ進める事が出来る。50点。
〈出汁鳥〉はそう頻繁じゃないが上層・中層で確認出来るそこそこ強い魔物らしい。
次は魚料理。ただ焼いたっぽい感じで食材は鮭っぽい。
「こちらは〈熊殺し〉と呼ばれる大変に貴重な海の魔物の肉をシンプルに調理。素材を味をご堪能ください」
どれどれと一口サイズに切って食べる。ほぉ……これはいい魚だし、鮮度も悪くない。それをさらっとした少量の油で揚げ焼きっぽくしている。焼き加減もパサつきのない見事な腕前。これは67点。
なんでもこの街の近くのダンジョン内には海の階層が下層に近い中層にあるらしく、そこの魔物であるとへぼコックが教えてくれた。ダンジョン限定だがこいつはいい知恵袋だ。
ここていったん、魔法で凍らせたヒラモンなるレモンっぽいシャーベットを食べて口直し。
「本日のメインでございます〈炎鎧猪〉のステーキでございます」
運ばれてきたのはマグマみたいな色のした肉が150グラムほど。さすが異世界。今まで食ってきた肉とは一線を画す肉だが、問題は味だろう。
うっすらと光って見える肉を一口。なるほど。わざわざメインだと言うだけあって悪くない。
まずナイフが必要ないんじゃないかってくらいに柔らかい肉質に、ひと噛みするたびにじゅわっとあふれ出る肉汁の多さと言ったら……。なのに全然しつこくないし、塩胡椒の単純な味付けがまた肉の味を引き上げてるって感じる。70点。
毎度おなじみへぼコック説明。この〈炎鎧猪〉は下層の魔物の中でも強さ的には弱い部類に入るそうだが、名前の通り炎の鎧を纏った猪で、接近戦など挑めば速攻で炭に。魔法も生半可な水・氷属性はその熱波で無効化。話を聞くだけなら大層な魔物だが、こうして食卓に並んでるって事は対応策があるって事だ。
最後にダンジョンで収穫されたと言うメップルなるリンゴの形をしたメロンの味がする果物を食べてフィニッシュ。
総評。一流店と言うだけあって料理の味品・質は共に高評価。☆4.03。
「うし。それじゃあ帰るか」
敵情視察は済んだ。後はあの店で出す料理をどの程度の素材で出すかを考えるだけなのでちんたらしてらんないので、テーブルの上にチップも含めて金貨を20枚置いてさっさと店を出た。




