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#237 ☆2.99

「代金置いとくぞ」

「……毎度」


 静かになった代わりに、へぼコックとおばちゃんも非常に機嫌が悪そうな顔をしている。きっと今の内に立ち退いといた方がいいと思うがなぁ的な事でも言われたんだろう。

 どれ。不味い料理を食ったからイマイチ腹のおさまりが悪いから、1つ敵の味というのを食べてみるとしますかね。

 そう思って、店を出て10数秒の所にある店をちらりと見てみると、馬鹿みたいな大行列が。アレを目の当たりにするだけで食おうという意欲は一瞬で消え去る。日本じゃ並ばんくてもそこそこ美味い料理は食えるし、何より宅配ピザはそういった点で最高だった。

 しかしなぁ。そもそも電話なんて物がないこの世界で宅配なんてシステムが存在する訳ない。うし。ここは1つ……潤沢な資金にものを言わせる作戦を実行するとしよう。


「なぁおっさん」

「何だガキ」

「その順番を譲ってくれ。なぁにタダとは言わんさ」


 そう言って金貨を握らせると、おっさんは驚いた顔をしつつもすぐに満面の笑みを浮かべた。


「いいだろう。入りな」


 やはり金の力は偉大だな。大抵の無理はこうして簡単に解決する。日本じゃ難しいが、この世界であれば国ですら購入できるかもしれん。それをしたところで国家経営なんて吐き気がするほど面倒だからやらないけどね。

 そんな感じで、快く順番を譲ってもらった俺は意気揚々と入店。

 中は30畳くらいの広さで4人テーブル席が4つに6人が座れるくらいのカウンターは満員で、皆一様に料理を食べているが、その視線は一様に同じ方向を向いている。


「いらっしゃいませ。こちらのお席にどうぞ」


 そこに居たのは悪くないレベルの少女。それも胸元が大きく開いた服に、下はギリギリを攻めるミニスカート姿と言う何とも男の獣欲を刺激しまくってくれる出で立ちで出迎えてくれたので、務めて平静を装いながらも心の中では盛大に〈写真〉を使いまくっての下着が見えそうで見えないギリギリの絶対領域を撮りまくる。なんでこんなに男の客が多いんだと思っていたのはこれが理由か。

 しかし問題は味と値段だ。たとえ色気で俺を始めとした男連中を魅了で来たと言っても、飯が不味ければ時間経過とともに客足は遠のいていくはずだ。


「こちらメニューとなっております」

「どれどれ」


 目の前で揺れるそれを〈写真〉に収めながら、魔物の革に羊皮紙を縫い付けたようなメニュー表をのぞき込んでみると、そこそこ豊富なメニューと最高でも銅貨5枚という低価格帯の数々に驚きを隠しえない。

 店内の装飾に食器。従業員の上等な制服にその顔触れ。どれをとっても一級品とまではいわんが、さっきの店と比べるとウェイトレスの顔ぶれ以外はとてもじゃないが勝負にならない。誰も彼もリリンには遠く及ばないが、アンジェに関してはいい勝負が出来そうなのが多少いる。

 適当に注文をしてぼーっと待っていると、それなりに早い時間で料理が運ばれてきた。その時の揺れもキッチリ〈写真〉で撮影し、保存する事を忘れない。


「ごゆっくり」


 うむ。接客態度はあの2人と比べて圧倒的にイイ。肌を惜しげもなく露出し、顔をうずめて頬擦りしたくなるほど大きい男の夢をこれでもかと揺らす光景は、キャバクラとはまた別種の楽しみがある。

 試しにおさわりは良いのかと金貨をちらつかせながら頼んでみたが、意外な事に丁重にお断りされてしまったのにはかなりガッカリした。

 気持ちを切り替え、次は味の面だと手始めにサラダ。

 ふむ。味付けは塩と油にほんの少しの胡椒のドレッシング。悪くはないが野菜の質もそこそこ。

 肉料理は少し火が通り過ぎて脂が抜けてパサついた食感。味付けも塩がキツイから少し塩辛くて半生の干し肉を食べてるような違和感を覚える。

 魚は包丁が下手だから切り口はギザギザ。焼く時にそこから旨味が逃げるからこっちもパッサパサ。バターのひとかけでもあれば何とか補えるんだけど、この世界にそれを期待するのは酷ってモンだし、やっぱ〈万物創造〉マジ便利。

 スープは野菜の旨味が十分に感じられて塩の塩梅も合格点。

 スープだけは他の料理と食材だけでは埋められない明らかな差が存在するという事は、料理人が複数いるって考えるのが自然だな。

 俺には遠く及ばないがアニーと比べればわずかにこちらの腕前が上だ。もうコイツにだけ料理を任せりゃもっと繁盛するだろうが、そこが分からない馬鹿が居るのか下っ端なのかは興味がない。

 デザートはこっちも同じ干した果物。リンゴっぽい物とパイナップルっぽい物を食って会計をして店を出る。


「ふぅむ。これは確かに分が悪いな」


 正直言って、店員の見た目以外の全てにおいて明らかに格上だ。このままいけば遠からず周囲の一般的な料理店は軒並み潰されるのは目に見えている。はてさて他の店は一体どのような対抗策を考えているのかな。どうせしばらくはここに居なきゃなんないから、見て回るのもまた一興。


 ――――――――――


 数店舗回ってあぁ……こりゃ駄目だって改めて実感してからスラム街区に戻ってみると、アンリエットと十数人の子供連中が駆け回り、それを辟易とした表情で追い回すユニと言う光景があった。


「何してんだお前」

「主っ! あの阿呆を止めてもらえませんか」

「別に構わんぞ。そろそろ昼だぞ~」

「はーいなの」


 言葉一つで瞬時に俺のそばまで走って来たアンリエットの首根っこを掴み、じっと見つめる。特に感情を表に乗せてたつもりはないんだけど、目に見えて怯え始めた。


「随分と元気だねぇ。一体ユニと何をして遊んでたのかなぁ?」

「な、何もしてないのなの」

「何もしてないって事はないだろう。ついさっきまで楽しそうに子供達と一緒に走り回ってたじゃないか」

「そ、それは……」


 完全にしどろもどろになっているアンリエットに、とどめを刺すようにガキの1人が口を開く。


「何やってんだよユニー。ほらほら。追いかけて来ないと本を汚しちゃうぞ」

「……なるほどねぇ」


 事情を理解した俺がニンマリと笑顔を浮かべるとこの後の状況が理解できたんだろう。アンリエットが今にも泣きそうな顔で許してほしいのなのとつぶやいているが、ユニは我々の大切な足だ。それに疲労を強いるなど言語道断。


「しばらくはヘルシーメニューにするか」


 という事で、本日の昼メニューは肉を一切使わない精進料理と相成った。

 ヘルシーとは言え1日の総カロリー量を考えてボリュームは満点だがいかんせん食べごたえは少ない。俺達がではなくアンリエットはって事だけどな。

 目の前に並ぶ料理にアンリエットはぐずぐず泣いているが、食べなければ力は出ないし運動らしい運動も出来ないので渋々と言った様子ではあるが口に運んでいる。嫌なら食わんでもいいんだぞ?


「これは良い物ですね。薄味ですが素材の旨味がシッカリと感じられますが、これで本当に摂取カロリー内に収まっているのですか?」

「俺の国にゃこういった料理を食う職種の連中がいてな。今日からしばらくはそれを主体に置いた食事が続くと思ってくれ」

「むしろ歓迎すべき事です。主も人が悪い。このような食事を隠していたとは」

「……ご主人様は酷いのなの」

「先にちょっかいかけたのはお前だろうが。自業自得と思って罰を受け入れろ。別に不味く作ったつもりはないぞ」

「ふみゅぅ……美味しいけどお肉が足りないのなの」

「しばらくお預けだ。しっかり反省したと俺が思ったなら、また肉を出してやる」

「あうぅ……」


 目に見えて落ち込んでいるアンリエットをよそに、ユニが追いかけて来なくなったと分かった他のガキ連中は自分達だけで追いかけっこを始めていた。出来れば飯を食ってる最中なんで近くに来ないでほしいが、中には将来有望な可愛い娘もいるのでとりあえずだまっている事に。


「そう言えばちょっと聞きたい事があんだけど」


 飯も食い終わったんで門番2人に話しかける。ちなみにあのマッチョハゲは居なくなっていて、代わりに達人っぽい爺さんと糸目ニヤケの替わりにやって来た豚獣人とで見張りをしている。互いに交代交代で人員を変えてるらしい。


「なんじゃい」

「最近地上げやってたりするか?」

「秘密じゃ」

「こっちは門番が主な仕事なんで、そう言った話は聞かないな」

「あーそーかい」


 なるほどなるほど。どうやらどっちも今回の地上げに関してはノータッチか、もしくはマジで知らんかの2つに1つとはいえ、何となくだが関わってなさそうな気がするんでここはスルー。

 さて……とりあえず腹ごしらえも済んだし、後は夕飯までの時間をどう使おうかね。アニー達の言葉が真実なのだとしたら、そろそろ魔導士が到着してもいい頃合だ。今更ジタバタしたところでどうにかなるようなもんじゃないけど、最後のトドメとして何かしらに顔を売っておきたいな。


「なーねーちゃん。おれ達にも食いもん食わせてくれよ」

「そーだそーだ。アンリエットばっかズルいぞ」


 ブーブー文句を垂れたところで俺の心には一切届かない。だって野郎だからな。これが将来有望な女児だったなら簡単なお仕事をさせての豪勢な食事を用意したところだが、野郎が俺から飯を貰うには生半可な覚悟では難しい。タダだなんて吐き気がするからな。


「お前等は配給とやらで食えてんだろうが」


 スラム街区から出て行くほんの少し前に、ゾロゾロと見覚えのある連中が食材を乗せた馬車を引いてそこに入っていく姿を確認しているからな。大した量じゃなかったけど、飢えて死ぬという最悪の事態にはならないだろう。


「あんなんじゃ足りねぇよ。今日なんてパン1個とスープだけだぜ? 足りないって」

「俺の知ったこっちゃねぇ。腹一杯食いたきゃ働いて金を稼げ」


 働かざるもの食うべからず。子供は遊ぶのが仕事とはよく聞くけど、それはあくまで安全安心な日本などの先進国での話。テレビなんかでも水汲みだけで1日を終えてしまう子供がいると見た事があるから、それに比べれば比べようもないほど恵まれている。


「ぼく達みたいなスラムの子供を雇う店なんて無いよ」


 確かに。いくら恵まれた環境を手に入れたとはいえ、たった数日で変われと言うのも難しいか。丁度暇してる店もあるし、売り上げに一役買ってやるか。クククのク。


「いいだろう。今ここに居るお前ら限定で飯を奢ってやるからついてこい」

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