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#212 久しぶり過ぎて完全に忘れてたわ

「ほいっと」


 先制は俺。相手は結界が砕けるのと同時にかなりの勢いで飛び込んで来たが、至近距離でない限りはこっちはそれよりも早く動けるんで、〈万物創造〉で作りだした石礫を投げつけて肉体? の一部が爆散する姿を見ながら速攻で横に飛んで突進回避。


「ふむ。取りあえずは通じてるかな」


 黒い親玉(仮)の身体にはいくつかの穴が開いているがすぐに再生される訳じゃないのか。それとも最初から再生機能が備わっていないのか? その確認をするためにどんどん石を投げつける。

 しかし。相手もタダでそんな事を許すはずもなく、のっそりと振り返りながらその足はしっかりと大地を踏みしめてるんで、遅れて動く上半身が円を描くようにこっちに突進してくるも、十分に回避できるだけの距離に近づくまでは散弾投石。それが終わると今度は後ろに飛んで鞭のように迫る上半身を回避する。随分と単純な作業になったけど、相手に再生する兆しはない。


「なんか拍子抜けだな」


 てっきりもっと血沸き肉躍るみたいな激戦が繰り広げられるんじゃないかなぁって予想していたのに、蓋を開けてみれば相手はただ突進してくるだけ。殺気を放つと確かに触手を伸ばしてくる動きもするけど、あの時の奴――もう小黒でいいや。それのほうが3割くらい早かったし量も多かった。

 つまりはザコ扱いだ。唯一エルフの肉盾が若干ウザいんだろうけど、エリクサー持ちの俺としては何の意味もないんでためらいなくそれらにも石を投げつける。


「そりゃ」


 投げて。


「ほいっと」


 避けて。


「そりゃっと」


 投げて。


「あらよっと」


 避けて。


「……つまらん」


 こんな事を淡々と繰り返していると飽きて来る。命のやり取りじゃないから仕方ないけど、やっぱもう少しは頑張ってほしい。かと言って接近戦を挑むのは少し分が悪い。

 エルフ連中が肉盾になっている時点で取り込まれる可能性があるのは明白。相手がそれを狙って緩慢な動きをしているんだとすれば、まず踏み込んじゃいけない。どうにかなるかもしんないけどわざわざ試す価値はない。遠距離で何とかなってるんだから利点はゼロに近い。

 あくびが出る程に単純作業だけど、そこそこ早い突進やそこそこ縦横無尽に襲い掛かって来る触手なんかを斬り払っていれば、取り込まれる危険はナニソレ美味しいの? ってな感じで存在しない。

 そんな事を漠然と考えながら単純作業を繰り返していると、ようやく敵側に動きがあった。

 突然足を止めたかと思うと、全身をブルブルと震わせながら紫の靄を吐き出し始める。


「ふぅん」


 色からしても間違いなく毒の類だろうって事で〈万能感知〉で調べてみると、腐食に麻痺に目潰し沈黙といった状態異常を付与する物であると分かったがどうって事はない。なにせ〈万能耐性〉があるんだからすべてが無意味となる。いや――2つだけ効果的な物があるな。


「何も見えねぇし服が溶けた」


 あっという間に結界内に充満した毒霧は思いの外色彩が濃いせいで視覚が完全に遮られてしまった。手を伸ばすだけでも肘から先は全く見えない。おまけに腐食の影響で何の〈付与〉もしてないただの服だったからな。破片すら残さず素っ裸である。

 仕方ないので〈万能感知〉の毒霧の反応だけを解除。すると毒霧の反応に隠れていた黒親玉? がほぼ眼前まで迫っているのを捕らえる事が出来た。やっぱこういう所は〈万能感知〉にマイナス点だよな。


「せぇいっ!」


 大上段からの振り下ろしで真空波を発生させて両断。ここまで来てもまだ再生する素振りはないみたいなんで構わず中央突破で黒親玉の突進を回避し、迫る触手を斬り落としてく。

 それにしても大した奴だな。普通真っ二つにされれば死ぬんじゃないかと思うんだけど、くっつきもせず2つとなってこっちに向かって突っ込んでくるなんてな。

 ここら辺で魔法の一発でもぶち込んでみたいが、それで結界が壊れると毒も拡散するし、こいつもユニ達に触手を伸ばすようになるから、それ等から守りながらの戦闘ってのは面倒臭さが倍増するんで自重する。こうなるんだったら1回くらい結界に向かって魔法の試し打ちをしておくんだったな。


「おおっと」


 半分になったからなのか、少し速度が増してきた気がするな。それと何故か頑丈さも少し増してるような……うーむこの微差に気付きにくいのが強すぎる事に対する弊害と言えるな。


「さて……少し本腰を入れるかね」


 あんま時間をかけすぎるとサディナや見張りエルフがどんな行動をするか分かった物じゃないからな。それで結界が壊されると逃げ出す可能性もある。追いかけるのとか超絶メンドイ。

 そんな訳で、手持ちの武器を身の丈に合ったサイズを利き手に。斬馬刀くらいのデカい物を逆の手に握りしめ、両断した黒親玉の片割れに突っ込む。

 すると、当然ながら殺気に反応して触手を伸ばしてくるので使い慣れた? 剣を振り回して斬り払いつつ間合いを詰めて、斬馬刀をまず横に振って上下に両断。

 それからすぐに剣を捨てて斬馬刀を両手で握りしめ、縦横無尽に振り回して細切れにしてやる。3メートル近い剣を軽々振り回すって……〈剣技〉と〈身体強化〉さまさまだな。


「……反応なし、か」


 てっきり細切れになれば再生するかと期待してみたけど、サイコロ状になった黒親玉の半身は斬り払った触手同様、尺取り虫みたいにまだ這いまわっているので〈微風(ローウィンド)〉で押し潰しておく事も忘れない。地面であれば結界に影響しないから考えなしに撃ててイイね。


「さて……後は残りの半分を――ん?」


 ある程度の処理を終えたところで次を処分しようかと〈万能感知〉に目を向けてみると、あれだけデカかった反応が滅茶苦茶小さくなっていて、人よりはまだデカいがさっきまでと比べると3分の1以下になってる。

 一瞬。ようやく再生を始めたのかと思ったけど、それにしては随分と強さが増してる……気がする。

 毒霧のせいでこっちの視界は最悪なので未だその姿が見えないけど、ボーっと待ってればあっちから近付いて来るんで待つ。


「デギ……ゴロズ」


 チューニングの甘いラジオから出て来るような声を出しながら近づいてきたのは、肉盾として使っていたエルフを液体みたいな己自身でパーツごとに分解して、無理矢理人の形に固めたみたいな出で立ちをしている。普通の奴だったらその異様さに気圧されたり吐き気を感じるんじゃないかな。


「随分とスリムになってまぁ……強くなったのか?」


 とりあえず斬馬刀を収納し、捨てたアダマンタイト剣を拾って振り抜く。〈剣技〉のおかげで狙った軌道を一寸の狂いもなく駆け抜けたけど、相手は思いの外硬かったので胴体の半分も斬り裂けなかった。少なくとも頑丈さはアップしたか。


「オオオオオオオオオオ!!」


 ドロリと赤黒い液体が流れ出し、顔にあたる部分のエルフ連中の喉から断末魔のような叫び声が吐き出されるが、〈万能感知〉的には変化がないので構わず斬撃を叩き込む。

 腕。足。顔。腹。背。ありとあらゆる場所を斬って突く。

 その度に砂嵐交じりの悲鳴や絶叫が赤黒い液体と一緒に出て来るが、反撃も遅ければ再生もしない。こんなのが親玉だとするならまだ最初に戦った奴の方が何倍も強かった。何せ至近距離だと避けきれなかったんだからな。


「ハズレか。さっさと終わらせるか」


 これ以上コイツを相手にしてても時間の無駄だ。今にしてみれば、この毒霧の中じゃユニに俺の勇姿を見せられない。折角敵の猛攻を華麗に躱す主人という姿を披露していたのに計画が狂った。まぁ裸だから締まらないけどな。

 という事で、半身の時と同じように斬馬刀で細切れに――


「うわっと!? なんだぁ?」


 背後からの突然の衝撃に、バランスを崩しながらも迫る触手を躱して一度体勢を立て直しつつ背中に当たったであろう銀の針を拾い上げると、質量を完全に無視した膨張を見せて喰らい付こうとしてきたので返り討ちにしてやった。


「ったく……ん?」


 さくっと細切れにしてやったんだが、まるでそれがスイッチになっていたかのように結界内に次々と敵の反応を示す赤い光点が結界内を埋め尽くすように出現した訳だが、その全てが謎の銀の針か。一体どこから出て来たのか知らんが、こいつは少し厄介だな。


「オォ……ゴロズ。ワレラノニグジミヲジレ」

「別に恨まれる事した覚えはないんだけどな」

「ウラギリモノガ……ボザゲエエエエエエ!!」

「裏切りねぇ……」


 つまりエルフのどいつかが連中をこいつにけしかけて食わせたって事になる。一番怪しいのはあの豚魔族AとBだけど、そんな奴がわざわざここに案内するか? どうせ気付かれても死ぬと思われてるんだとしたらちょっちオコだな。

 ま。それもこれもこの状況を何とかしてから考えればいいか。

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