#211 たたかうためになくちゃいけないたいせつなこと
「ではまず初めに確認する。産業廃棄物って意味が分かるか?」
怒声の言葉に紛れ込んでいた現代用語? の意味を問いかけてみると、やはり2人は首をかしげたがユニだけは当然じゃないですかと言った感じの得意げな笑みを浮かべるが、それを知れているのはどうしてだと問いかけると納得がいったようで、素晴らしい洞察力ですと珍しく褒めてくれた。
「なるほど。この世界にまだ存在しないであろう異世界の言語をあの女が出したから、主は奴がエルフではないと判断したのですね」
「さすがご主人様なの。凄いのなの」
「はっはっは。もっと褒めてもいいんだぞ」
「……で? なんでアンタがそんな事を知ってるのよ。その異世界の言葉であるさんぎょうナントカを知っているって事は、アンタも勇者なの? それとも魔王なの?」
「もっともな質問だがどちらも不正解だ。知り合いに地球ってところから来たと宣う異世界人がいてな。そいつに面白いからって色々と話を聞いてんだよ。ユニが」
まぁ嘘は言っていない。知り合いじゃないが馬鹿勇者やゴミ勇者なんか出会ってるし、ユニが俺から色々と知識を仕入れたりしている。本の概容説明という名の知識をな。混じりっ気ナシのすべて真実だ。ただし、捻じ曲げてないとは言っていない。
「確か……事業活動に伴って生じた廃棄物――つまりは素材にならない魔物の死骸や魔道具を作る際に出る売り物にもならない魔石の欠片とかと考えればよいでしょう」
「だったら、そのさんナントカを知ってるアイツは何者な訳?」
「単純に考えれば勇者か魔王ってのがもっともな線だが、普通に考えるなら魔族って線が濃厚だな」
この世界のシステムとして、勇者と魔王は常に同時に異世界から現れている。まぁ六神達がそうやってこの世の行く末を楽しんでいるから当たり前なんだろうけど、そんな事情を知らない他の面々は魔王と聞いて大きく目を開く。
「ま、魔王ですって!?」
「いくらなんでも……いやしかし、それであれば先の発言も納得できるという物……」
「ご主人様。あのムカつくの魔王なの?」
「さぁな。そうかも知れないが、俺の考えではまず間違いなく違う」
「どうしてそう言い切れるのよ」
「あいつ等はどっちもエルフじゃねぇんだよって言えばわかるか?」
理由は単純。勇者であれば複数居るから考えられんこともないが、魔王は一匹しかいないが何より一番考えられる理由は、どっちもンな事をしてる暇があるはずがねぇって事だ。
魔王であれば、他の5種族根絶に向けて色々と準備があるらしいし、何より部下の魔族連中があんな事を許さないっての。随分と融通の利かない世話役が居るらしいからな。
勇者も勇者で、この世界の知識と各種族の常識――まぁ、より魔王討伐をするように一方的な思い込みを叩き込まれていたりするだろう。
そして何より一番大切なのがレベル上げだ。これを怠るとゴブリンにすら負けてしまう可能性があるので、何においても最優先事項だ。
実際に2人の勇者の実力を見ているが、ハッキリ言って滅茶苦茶弱い。まぁこっちが強すぎるって事も理由にあるだろうけど、たかだか青蜥蜴にてこずり。最精鋭と呼べるのか不安になるシュエイの騎士団長連中相手に互角以下の戦いを繰り広げたと聞いている。勇者がこの世界の人間相手にそれじゃあ魔王は倒せない。ってかアレクセイにも負けんだろ。
魔王も魔王で魔族の頂点に立つからには実力が伴わないといけない。マリアなんかはお菓子の1つでも差し出せばすぐに尻尾を振るだろうけど、他の連中はそうもいかないだろう。何せ今まで出会って来た魔族のほとんどが脳筋だ。強いが正義。魔族はこれに限る……一部の例外は目をつむろうじゃないかそこの君ぃ。
とにかく。この世界で生きるにはレベル上げが必定。それも魔王だ勇者だなんておだてられれば必要性がさらに増す。であれば両者共にこんな街なんかで豚同士で抱き合ってる暇は存在しない。
だから俺は、あの豚の正体を別の何かと断定する。あくまで魔族だと言うのは仮説の中の一つに過ぎない。
「どどど……どうするのよ。魔王なんか勝てる訳ないじゃないの」
「理解力の低い奴だな。魔王が2匹も3匹もいてたまるかってんだ馬鹿たれ。余計な手出しをしてあいtつらと戦闘になったら非常に面倒くさいから放っておく。あっちも攻めてこないんだから、こっちが何か手出ししたりしなきゃ何もしてこないだろう」
どのみちここでは戦闘はする予定なんだ。そこにわざわざもう一戦。それも滅茶苦茶に面倒くさそうな奴を相手にするなんてマジで嫌だ。
俺の決定に何か言いたそうにしていたが、そろそろ兵士もここに来るみたいなんで、くれぐれもそう言った類の話はするなよと釘を刺しておく。
「……何となく嫌な予感はしてたけど、やっぱアンタ達か」
「ん? さっきの見張りエルフじゃないか。こんなとこで何してんだ?」
「ここに魔物の死体を見たいという奴がいると聞いてきた。いまさら誰がと思ったが、まさかアンタ等だったとはね――って言うか、本気で奴を見るつもりなのか?」
「なに? ハイエルフたるこのアタシに見せられないとでもいうつもりなのかしら?」
「そういう訳ではないんだが……先に言っておく。相当にエグイから覚悟しておけよ」
何とも及び腰になる物言いをするが、こっちは〈恐怖無効〉があるんでそう言った類の事には全く動じないようになっているし、某フェイタリティを100以上目の当たりにしているから問題ないのでさっさと案内しろと急かす。
そうして向かった先は街の外。それも不可視の魔法と侵入防止の結界が幾重にも張り巡らせてある場所だった。
「なんだってこんな厳重にしてんだよ。処分したんだろ」
「正確には死体じゃない。レナーリナ様でもとどめを刺し切れなかった故に、こうして強固な結界で自然死するまで待つ事にしている」
「随分と消極的じゃない。エルフらしからぬ選択だと思うのだけど?」
「我々も努力はしました。しかし奴はとんでもないことをしていたのですよ」
その辺りで不可視結界がパリンと音を立てて崩れた途端。こっちに向かって近づく黒い塊が突然現れた。
サディナはヒッ! と短い悲鳴を上げて大きく飛び退き。
ユニとアンリエットは俺を守るかのように素早く立ちはだかり。
俺は『まだ結界が残っているのが分かっている』ので、見張りエルフ同様に顔色一つ変えずに相手を観察した。
「なるほど。こりゃ確かにとどめを刺し切れんねぇ」
見上げる程のデカい魔物は、高さ10メートルくらい。幅5メートル位のイソギンチャクみたいな身体に8本の足を持ち、全身のいたるところにエルフの死体であったりそうでなかったりと言った肉盾をくっつけていた。
「う……っ」
「美味しくなさそうなの」
肉盾は死体成分多めであり、中には顔が半分溶けていたり。半分骸骨の者だったり。内臓がむき出しの吐き気を誘発させるような物が多分に含まれていて、俺を除いた全員が嫌そうに顔をしかめている。ちなみに生きている連中も既に壊れているようで、俺達を見ても何の反応も示さない。
「随分と元気そうだな」
「これでも弱っている。でなければ最初の突進で結界にヒビが入っていた」
「ふーん」
とりあえず剣を出して殺気を叩きつけてみると、相手から無数の触手が一斉に襲い掛かって来たが、結界に阻まれて俺どころかユニにすら届いていない。
その後も何度かぐるりと結界周りを歩きつつ、一定間隔で殺気を出したり声を出してみたりとの確認作業を行った結果、十中八九親玉だろうと思う事にした。
威力は高く反応も早い。おまけにサイズもふっ飛ばした奴の十数倍。これはもう間違いないだろう。
「それで? いつまでそうしているつもりなんだ。結界も強固だが限界はある。そろそろ止めてもらいたいんだが」
「なぁ、中に入る事ってできるか?」
一応十分なくらいに情報を得る事が出来た。次はサディナ自由権を獲得するためにこいつを抹殺しなくちゃなんない。
てっとり早く済ますならぶっ壊すのが一番だけど、いちいち見張りエルフに食って掛かられるのがウザいだろうなぁと思う。だから脳筋プレイは最後の手段。
「死にたいのか? 奴を相手に塵芥でしかない人種如きに何が出来る」
「出来なくはないんだな?」
「難しくはない。要はこの結界を覆う結界を新たに展開し、中の結界を解除すればいいんだからな」
「ならさっさとやれ。知勇に優れた至高の存在(笑)のエルフなんだろ?」
出来るのなら早くしてほしい。これが終わればサディナを自由にできるし、ユニの忠誠値は限界突破をして上限が上がるかもしれない。ついでにまだ見ぬ素材が入手できるかもしれないまさに一石三鳥の仕事だ。そのうちの1つはそこまで重要じゃないけどね~。
「主。我々はどうしましょう」
「さっきの攻撃に反応出来るようなら戦列に加わってもいいぞ」
「あちしは止めとくのなの。美味しくなさそうだしご主人様の邪魔になるのなの」
「ではワタシも見学に回ります」
「アタシもパス。対峙してよく分かるわ。これは手に負える相手じゃないってね」
「って訳だ。さっさとやれ」
全員がゆっくりと距離を取り、見張りエルフが俺の後ろに結界を展開。それに遅れる事数秒後、目の前の結界が砕けると同時に、肉盾を張り付けた黒い塊が突っ込んで来た。




