表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/357

#210 交渉とは……脅す事と見つけたりっ!

「貴様がうちの主人を殺したとのたまう人種か。流石世界の害悪の集合体と揶揄される存在だ。エルフを手にかける事が世界にとってどれだけの損失をもたらすのかをまるで分っていない」


 突然現れた豚Bが突然そんな事をぬかし、俺の対面にソファが壊れるんじゃないかって勢いでどっかりと腰を下ろすも、よほど強靭に作っているのか耳障りなほどギシギシという音が鳴り響いたけど破壊するには至らなかった。

 そんな豚Bの着席に間を置かず、執事エルフが紅茶と小瓶を目の前に置き、その中に入っていた恐らく砂糖であろう物を何のためらいもなくすべて投入。ユニは顔をしかめたけどアンリエットは常々似た様な事をしてるんで平然としている。

 俺も、目の前に座るのが美女であれば身体に悪いと止めるなりの声をかけていたが、豚であればある程度脂肪をつけなければ食肉として成り立たないからな。ここは黙っておく。

 そんな豚を相手に、俺は報告書の一枚を突き出す。


「アンタがこの報告書を書いたで間違いないんだな」

「醜い害虫である人種如きがアタクシの美麗極まる報告書に触れるなぁ!!」


 突然。烈火のごとく怒り狂ったかと思うと、その短い手を伸ばして報告書を奪い取る。豚だと思って油断したな。まさか動けるタイプの豚だったなんて。


「で? その報告書に書かれている魔物はどんな行動を取った」

「フン。何故このアタクシが、貴様みたいな糞尿以下の人種に説明しなければいけないのかしら。こちらは創造神に愛された至高の存在であるエルフの中のエルフであるハイエルフ。それに引き換え貴様等は、汚物より産まれしこの世の産業廃棄物。本来であれば同席する事すら吐き気がするが、主人を返却してもらわなくてはならぬから仕方なしにその悪臭撒き散らす口の開閉の許可を与えているに過ぎない。調子に乗るな」


 ふぅ……。サディナも大概だと思ったけど、目の前の豚はそのさらに2回りくらい口が悪いねぇ。

 本来であればぶん殴ってるところだが、豚と言えども女性は女性。警告も宣戦布告もなしにってのは心証は……アニーもリリィさんもいないからいっか。


「っせい」

「ぶぎゃ!?」


 豚だけど周辺の警戒に出るくらいには強いって事で、そこそこ強めにテーブルを押し込んで突き飛ばすと、ゴム毬みたいにぼよんぼよんと数回跳ねた後に体勢を立て直した豚が顔を真っ赤にして怒りをあらわにしていた。


「この下等生物がぁ! 世の至宝たるアタクシの美しい肉体に傷を――」

「そう言うのいいから用件にだけ答えろ。旦那がどうなってもいいのか?」


 ここで暴れられても面倒なんで、怒りの表情で絶命している豚町長の首だけを〈収納宮殿〉から取り出してテーブルの上に置き、つぶれない程度にペチぺチと叩くだけで前後不覚になる程の怒りにあった精神状態があっという間に絶望に染まっていく。


「あ……アンディ!! 何て姿に……ッ」

「ふーん。豚のくせにいい名前だな。で? どうすんだ。問いに答えてまた抱いてもらえるようにするか、生きる価値ナシの人種如きがと黙秘して家畜の餌にするか。決めるのはそっちの自由だが取り消しは聞き入れない。さぁてどうする?」


 こっちが見下すような笑みを浮かべながら問いかければ、相手は口から血を流さんばかりに歯を食いしばって睨み付けて来るがどこ吹く風だ。俺相手ではその力はそよ風にも満たない。うん。紅茶が美味い。


「奥様」

「…………何が聞きたい」

「さっきも聞いただろうが。そんな事も覚えてないのか? やれやれ……もう一度言ってやる。討伐した魔物はどんな攻撃をして来た。どれほど早く動いた。大きさは。数は――」

「フン! そのような面倒事は全て部下に処理させた。聞くならそいつらから聞け」

「……相手はどうだった。強かったか?」

「あの程度の魔物がこのアタクシに敵う訳ないでしょう。楽勝だったに決まっているではないか」

「そうかそうか」


 ふぅむ。やっぱり俺が自爆同然に消してやった奴とは別物の可能性が高くて仕方がない。だって、俺の一撃を避けられもしないザコが、上位種かも知れない奴を相手に楽勝だなんて言える訳がないからな。たとえ同じ奴だったとしても、勝てるとは到底思えない。


「じゃあその同行したって部下を呼んで来い」

「……用意してやれ」

「かしこまりました」


 とりあえずは部下が来るまでのんびりティータイム。豚Bの罵詈雑言のせいでユニとアンリエットの怒りがかなり溜まっているので、ガス抜きもかねて本を読ませたりお菓子や料理を食わせたりしている。当たり前だけど奴とは別の部屋だし、見つけ次第この部屋に連れて来いとも言ってある。


「アイツムカつくのなの! もぐもぐ……おかわりなの!」

「あの程度でイライラしてたら俺の武器は務まらんぞ。世の中にはあれ以上の暴言を吐く存在なんてごまんといるんだからな」

「それは……主は違った意味で厄介ですね」


 ま、そんな連中にはもはや会えない。俺が思い浮かべているのはネトゲの世界の話であって、そう言った連中には合法非合法問わずに泣きを見てもらう事にしてたので、数十人のうち何人がこの世に残ってるんだろうなぁ……しみじみ。


「で? なんでってお前はそんなところでぶすくれてんだ?」


 部屋の隅に目を向けると、こっちに背を向けてじっとしてるサディナの姿があった。別に気にしなくてもいいのかもしんないけど、時々聞こえてくるため息にアンリエットが顔をしかめたりするから安全のために声をかけたまでだよ。


「アタシ……交渉役で来たはずなのに全然役に立ってないじゃない? ハイエルフとしてどうなんだろうなぁって思っちゃって。あのハイエルフ達も全然気づいてなかったみたいだし」

「そりゃそうだろう。あれはハイエルフ――いや、エルフですらないからな」

「「「え?」」」


 さらっとした説明に、全員の時が数秒ほど止まる。まだ同行した部下ルフがくる様子がないんで、こっちもクッキーをつまみながらのんびりと再起動するのを待った。


「ど、どどど……」

「落ち着け。そんなに詰め寄って来られると平たい胸でも尖端が見えそうになるぞ」

「どこ見てんのよこの馬鹿!」


 慌てて胸を隠すしぐさをするが、どうせいつかは見せてもらう予定だからと無視をしてアンリエット達に目を向ける。


「お前等は何か違和感を感じてなかったか?」

「すみません。あの豚があまりにも憎らしかったので」

「うみゅう……あちしもムカムカしてなにもしてなかったのなの」

「はっはっは。駄目だぞぉ。ここは敵地かも――いや、既に敵地と認識していいな。その中にいるんだからな。少しの油断が命取りだ」


 しゅんとする一匹と――ああもうメンドイ。2人に対して俺は得意げにそう告げてみると、顔を真っ赤にしていたサディナがキラリと目を光らせた。


「そう言うアンタだってそんな大事な事を敵地のど真ん中で言うなんて間抜けね!! 探知魔法とか盗聴魔法があったらどうするつもりよ!」

「んなのは事前に調べて無い言って分かってるから堂々としゃべってんだよ。もうちょい頭を働かせて口を開いた方がいいぞ。馬鹿みたいに見えるから」

「むぐぅ……っ」


 ここは敵地なんだ。魔法的な物から物理的な物まで余す事無く〈万能感知〉で調査済みなのは言うまでもないっての。じゃなければサディナをのけ者にして〈パーティーチャット〉で2人にだけしか説明しないって。


「それで、何故主はあの夫婦がエルフではないと言い切れるのですか?」

「そうよそうよ。見た目も普通のエルフと変わらないし、体内からあふれ出るあの魔力量……どう考えたってハイエルフでもかなり上位よ」

「耳もとんがってたのなの」

「まぁお前達じゃ無理かもな。俺はお前等と違って優秀だからな」


 答えは〈万能感知〉で発見済みだ。どうやら相当に用心深い奴のようで、何重にも偽装や変装の魔法が重ね掛けされているようだが、こちとらこの世界の運営を担っている六神の上に立っている(笑)駄神の力だからな。

 ちょちょいと魔法の反応を切れば一発で分かった結果。奴等は魔族だった。

 両者とも元はエルフなんだろうが、体形は完全に豚だ。他の連中には普通のエルフ体形に見えてるようだが、こっちにはマジで肉の塊って感じに肥え太った醜い物体にしか見えねぇ。知らないって……幸せだね。


「そんな理由で納得できないんだけど。詳しく話しなさいよ」

「まぁ……サディナになら別に構わんか。実は……俺は相手の嘘を見抜くスキルがあり、それで奴にいくつか質問をした結果に嘘の判定が出たんだよ」

「……本当なんでしょうね」

「ご主人様を疑うのなの?」

「ヒッ!? そ、そんな訳ないでございますですハイ」


 やっぱりアンリエットにビビりまくってるなぁ……俺の方が偉いのに、解せぬ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ