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#177 もはや別の料理になってしまった

「――って訳だ。信じる信じないは自由だけど、俺は嘘偽りを言ったつもりはない」


 ほぼ裸精霊・ウィンディアとの対峙からシルフとの出会いまでをかいつまんで説明した。もちろん俺に有利になるような話の盛り方はしていない。そんな事をしなくても9・1で相手が悪いのは明白だ。俺にある不利な情報1はデコピンだけだ。


「いいえ信じるわぁ。だってシルフちゃんは悪さをするのはいつもの事だからぁ」


 そうのんびりとした口調で答えながらゆっくりとシルフに目を向けると、明らかに恐怖しているように顔が真っ青でがくがくと小刻みに揺れている。これだけでこの二人の力関係って奴が十二分に理解できるが、それだけひどい目にあって来ておきながらまだ同じ事を繰り返すって……馬鹿なのか?


「どうしたのだ?」

「いんやなんでも。とにかく、今回の争いは互いの誤解から生まれたもんであって、こっちに精霊攫いだったっけか? それをする意思はない。というかそんな奴攫ったところで何の得にもならんだろ。むしろ盗み食いされるから損にしかならん」

「馬鹿にすんじゃないわよ! アタシが全力を出せばアンタなんか一瞬で細切れにしてやるんだから!」


 やれやれ。そう言う沸点の低い態度がいらないと言ってるんだが、やはり学習能力が低いってのは扱いに困るなぁ。


「さっきからなんでわちを見るのだ?」

「ん? 随分ユニと態度が違うなぁって思ってな」


 改めて精霊を目の当たりにしてる訳だけども、俺とアンリエットは精霊とは何ぞや? って感じで知識ゼロだから平然としてっけど、ユニは本の虫だからか精霊の事を多少知っているようで、さっきから距離を取って警戒しっぱなしだ。

 それで言うなれば、マリアもこの世界の魔族として一応精霊の知識があると信じたい。であれば、ユニみたいに警戒したり距離を取ったりするのが普通なんじゃないかと思う訳で。実際に何かしらをされて地面に這いつくばらされたんだから、ウィンディアにはそうさせるだけの力があるはず。俺には効かんかったがね。やってなかったのかもしれんけど……真実は濁す!


「あぁ。その事なのだ。魔族は精霊と仲がいい訳ではないのだ。それに、他の魔族は知らないけどわちの方が強いから、ユニみたいにそう怖がったりする必要はないのだ」

「なるほどね。だったら助けても良かったんじゃないかな?」

「そ、それは……面倒臭かったのだ」

「よし。今日のおやつはナシだな」

「なっ!? そんなの酷すぎるのだ! 横暴なのだ!」


 とりあえずマリアは能天気な奴という判決が下ったところで、まずはウィンディアの拘束を解除。すると少しだけ驚いた顔をした。


「あらぁ。いいのかしらぁ?」

「別に構わんよ。もうどっちが上かって格付けは済んでるし、どっちが悪いかしっかりと把握してくれたっぽいしな」


 少し挑戦的な笑みだったが、あれだけ感情をあらわにした上に本気で殺すつもりで襲い掛かって来たんだと判断すると、俺との差は相当ある。それでなくともマリアも勝てるとなれば疑いようはないだろう。


「ええそうねぇ。シルフちゃんはどうしてお姉ちゃんのいう事を何回言っても聞いてくれないのかしらねぇあーんなにお仕置きしてあげてるはずなのにぃ」

「ひうっ!?」

「お姉ちゃんはいつも言ってるわよねぇ? 精霊が害を与えていいのは悪事を働くビチグソ連中だけだってぇ。今回はぁ、もう少しきつーいお仕置きが必要のようねぇ」


 うふふふと笑いながらも、とんでもなくどす黒いオーラが全身からあふれ出ている。当のシルフも涙ながらにこっちに助けを求めるように目を向けるが、知らぬ存ぜぬを通して無視を決め込む。自業自得だし、助け舟を出すとこっちまで被害を被りそうだったから。

 そして始まったお仕置きは、ここでは割愛しておこう。ただ……すべてが終わった後のシルフは白目をむいて危険な痙攣を繰り返していたとだけ残しておこう。


「さて。それじゃあ自己紹介をするわねぇ。お姉ちゃんはウィンディアっていう風の精霊母よぉ」

「せいれいぼ……それって凄いのか?」


 くるっとユニに目を向けると、ことさら驚いたような表情をしたままコクリと頷いた。


「精霊母とはその属性精霊の母「お姉ちゃんよぉ」親という……」


 説明の途中。その部分に過敏なくらいに反応を示したウィンディアは、ニッコリ笑顔のままユニにすごんでいる。その迫力は有無を言わさぬ力があり、ユニがさしたる抵抗を見せずにお姉ちゃん的存在ですと言い直し、納得したのか再び距離を取った。

 まぁとにかくだ。かいつまんで話せば、ウィンディアは風属性に限って精霊を生み出す力のある本当に母親のような役割をしているらしい。それでなぜ姉と呼ばせる事を強制しているのかは永遠の謎にしておいたようがいいだろう。


「というかそんだけ偉いあんたがこんな所で何してるんだ?」

「それはこっちのセリフよぉ? ここはお姉ちゃんの――というか風の精霊たちのお家だものぉ」

「ふーん。風の精霊っつーから風がもっと吹き荒れるような場所に住んでんのかと思ってたが」

「意外かしらぁ? 風の精霊と言っても好みはあるものぉ。お姉ちゃんはこういう場所が好きだから住んでるだけでぇ、アスカちゃんが言うような場所に住んでる子ど――こほん。妹弟もいるわよぉ」


 うん。今の失言は聞かなかったことにしよう。それが賢い選択という物だ。今ももの凄く刺々しいオーラでもって俺に聞いてませんよねって感じの空気を叩きつけて来る。こういう場合はさっさと話題を変えるに限る。


「所で、さっきの世界のバランスってのはなんだ?」

「秘密よぉ。あんまり人に知られちゃいけない話なのよぉ」

「じゃあ精霊攫いだっけ? そっちはどうだ」

「そっちは構わないわぁ」


 ウィンディアの話によると、近頃下級や中級の精霊の数がおかしいくらい減っており、自分達の所だけかと他の精霊母に尋ねたところ、どこでも同じような異常がみられると聞いて調査をした結果。何とも不思議な存在が精霊を次々捕獲しているという事を突き止めたらしい。

 その者曰く。魔法も物理的な攻撃も通じず。挙句の果てに普通は触れない精霊を事もなげに捉えては煙のように消え去るという。妙な既視感を覚える特徴だ。


「そいつって変な仮面してなかったか?」

「そうねぇ……そう言えばしてたかしらぁ。お知り合い?」

「まぁ知り合いっちゃ知り合いだけど、仲間って訳じゃないからそうピリピリしないでくんないか」

「あらぁ……ごめんなさいねぇ。とにかくぅ。そのドグソ共が精霊を攫い続けているせいでぇ、世界のバランスが崩れそうなのよぉ」

「なるほどなぁ。崩れるとどうなるかは?」

「こぉんな事初めてだからわからないのよねぇ」


 困ったように頬に手を当てて語るウィンディア。まぁバランスが崩れるという単語を鑑みるに、そこそこよくない事が起きるのは想像に難くない。これも六神達の企みか何かなのか?


「まぁいいや。とにかくそいつをよく見張っといてくれよ。人の食事を勝手に食いやがって……」

「あらぁ。それは珍しいわねぇ。お姉ちゃんにも少し貰えないかしらぁ」

「まぁほしいって言うなら。食べられるもの食べられないものを言ってくれれば可能な限り応えるが」

「そうねぇ。それじゃあシルフちゃんが食べたものと同じ物をお願いするわぁ」

「同じ物ね」


 と言ってもただのサラダなんだがな。取りあえず出して気に入らなければ別のモンにするかとウィンディアに出してみると、何故か一瞬驚いたような顔をしたのち、嬉しそうにこっちに目を向ける。


「ふぅん。アスカちゃんは異世界の人間なのねぇ」


 この口ぶりだと、どうやらごまかしや嘘ではぐらかすなんて事は無駄みたいだな。


「よく分かったな。なんか種があるのか?」

「この料理から神の力を感じるのよぉ。そぉんな事が出来るのは異世界からやって来た人だけなのよぉ」

「ふーん。だから精霊が食い付いたって訳なのか」

「そんなところかしらねぇ。それでぇ? 食べてもいいのかしらぁ」

「そっちのために用意したから構わんよ。味付けとかはどうする?」


 一応この世界基準での塩。そのほかは当然ながら地球の各企業頑張って発売しているドレッシングの数々を並べまくる。


「そうねぇ。せっかくだから使わせてもらうわねぇ」


 そう告げると同時にエメラルドの触手みたいなものがドレッシングを持ち上げ、サラダにぶっかけた。しかも全種類を全部だ。しまった。まさかそんな事をするなんて思ってもいなかったから注意するのを忘れてた。


「ちょ――」

「じゃあいただくわねぇ」


 俺の制止も間に合わず、ウィンディアは十数種類のドレッシングがだっぷりとかかったサラダを躊躇いなく口に運び続けた。

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