#133 聞いてないよぉ~
「ううむ……素晴らしい出来栄えじゃな。10は若くなった気分じゃ」
そう呟きながらずっと鏡を眺めている爺さんは無視して、さっさと話を進めるとしますかね。
「さて。ここから先の事を話すにあたって注意点だ。1つは俺に関しての情報を誰にも漏らさない事。これは別に後ろ指をさされるような事をしていた訳じゃなくて、単純に貴族とかの偉い連中に目をつけられてすり寄って来られるのが面倒だからだ」
「どうしてです? そういう連中に目をかけてもらえれば、色々とできる事が増えるんじゃ」
「答えは単純。そんな連中に頼らんでも大抵の事が出来るからだ」
これが証拠だと無造作に白金貨の入った袋を地面に放り投げる。何枚入りだったかは忘れたけど、少なくとも1000枚以上のはずだ。ちなみに同じ物が〈収納宮殿〉にあと5000くらい入っている。これは経験値のためとこういう時のためにまだまだ増える予定だ。
「な……っ!?」
「これ……本物!?」
「全部本物だぞ。そしてお前達を軽々とあしらえる実力を持っているって考えると、必要ないだろ?」
金が潤沢にあって、それを奪おうとする連中を簡単に撃退できる実力。それを兼ね備えていれば、大抵の事はなんとでもなる。ここまでくると貴族やギルドと言った連中との関係は邪魔にしかならない。ギブアンドテイクでの付き合いは時々するかも知れんが、あんま大きく踏み込まれるのは好きじゃないんでね。
「これだけの白金貨……いったいどうやって」
「そこまで教えられない。でも真っ当な手段で手に入れているのは事実だ。さてリューリュー。君の依頼は伯爵を1000回殺せる環境を整えてほしい。これでいいのか?」
「……ええ。あいつを殺せるのであれば悪魔に魂を売っても構わないわ」
憎しみは憎しみしか生まない。まぁそれはある種の真理ではある。
どこかで負の連鎖を断ち切らないとなんて言うのが漫画とかではテンプレなんだろうけど、そういった説得は面倒だから俺はその努力をするつもりは毛頭ない。
それに。ああいう事が言えてそれを実行できる人間は心の底から恨んでいないんだと俺は思う。
何故できないか。理由は簡単だ。倫理観が邪魔をするからだ。
人を殺すのはいけない事。別に誰かに教えられた訳じゃないけど、自然とそれを理解して成長していくから、殺したほど憎いと口に出したところで、結局はやらないしやらせてもらえないしやろうとも思わないだろう。
しかしここは異世界だ。法があっても現代程法の整備されていないんだから、日本より人を殺す事にためらいはないし、余程の事がない限り恨みつらみを抱くとも思えない。大抵が自己責任なのだから。目的を果たした後にどうなろうとも、それもまた自己責任。
「なら報酬を提示して見せろ。これだけの金を持ち、貴族位をその辺に転がってる石以下程度にしか思ってない俺に対して、一体どんな対価を支払ってくれるのか。それが出来たらそれだけの環境を全力で整えてやるよ」
依頼を受けるのはいい。問題は報酬だ。こればっかりはキッチリさせてもらう。さて……2人はどんな対価を支払うのか少し楽しみではある。
「報酬って言われても……」
「さすがに僕達だけで決められないよ」
「すぐに決めらんないんであれば、ここに泊まるなり仲間の所に帰って相談するなりすればいい。見た目ヘボいけど、かなり頑丈だぞ」
ミスリルやアダマンタイトと言った希少金属を惜しげもなく使い、鍵はこの世界だと俺以外じゃドワーフでも複製できないであろうティンプルキー――は少し心配だったんで、よりレベルの高いリューリューに試しに開けられるかどうか挑戦してもらったら、1分も経たずにこんな見た事もないカギを開けるなんて無理よと返された。もし〈鍵開け〉なんてスキルでも持って奴がやったら違う結果が得られたのかなぁと一瞬考えたけど、そん時はそん時だろ。
おまけに、俺が2割の力で殴ってもひしゃげない頑丈さを持っている。この中に入ってれば、少なくともアレクセイの魔法程度ならビクともしないだろう。それ以上のが居たら――以下略っ!
そんな訳で、2人にはしばらく――いや、かなりの間時間を潰してくると説明し、さっさと店に飛び込んだ。
ちなみにいつも使ってるコテージは借りた宿屋の部屋に置きっぱなしにしてある。ベッドとか硬いし狭いし風呂もなけりゃエアコンもない。まさに持ち運べる高級宿。盗めるものなら盗めばいい。重量500キロだから人の手では難しいだろうし、魔法鞄に入れようにも、人が中に居る限りはどうにもできない。
壊そうにも、物理にも魔法にもドえらい耐性を持っているし鍵も壊せないとあっては、どうにも手出しできる訳がなく、万が一そんな猛者が現れても、〈万能感知〉で位置はバッチリ。隙なんて存在しないのだよ。HAHAHA。
――――――――――
「キャーッ♪ 可愛い~。お名前はなんていうの?」
「アスカって言います」
いいねぇいいねぇ。やはり女性との触れ合いというのは最高以外の何物でもないですとも。それが綺麗な夜の蝶であればなおさら。さすが王都に近いだけあって、そのレベルの高さも頷けるという物だ。
店内も薄暗く、一席一席それなりに離れているし、うすーく音楽が流れているので、あまり大声を出さなければ話が聞こえてくることもない。なんかゲームとかで見たキャバクラそのものって雰囲気が凄いな。きっと先達がこういった娯楽に力を入れたんだろうな。
ちなみに爺さんは他の席に行ってしまった。正直。それなりに慣れてきた自信はあるけど、さすがに一対一でってなると童貞心臓にはかなりの苦戦を強いられる。
「可愛いわねぇ。ウチで働かない?」
「すみません。気ままな旅人が好きなので」
「残念ね。だけどここに居る間は可愛がらせてもらうわね」
そう言って豊満な胸に抱き寄せてくれた。
この人――エルナさんはエルフなのに肉感的でかなりエロイお方だ。それにあまりこっちを見下すと言った感じがないのもポイントが高い。なによりきれいだしボディタッチが激しい。お酒もこの世界の物にしてはかなりイケる。
今飲んでるのはウィスキーっぽい物みたいで、まだ寝かせが甘いのか。高品質の樽が見つからなかったのか。はたまた管理が甘かったのか。まぁ改善点を上げるならいくつかあるけど、文明の進んでいない世界に文句を言うのもお門違いだからな。
「アスカちゃん結構飲めるのね」
「エルナさんみたいに綺麗な人に注いでもらえると何倍も美味しく感じるから。お代わり」
「それは構わないのだけど、それはドワーフ謹製で酒精が強いからあまりオススメ出来ないわ」
確かウィスキーって40度くらいだったっけか。俺としては飲み慣れているからそこまで強いとは思わないんだけど――って、そう言えばこの世界の酒って言えば大抵がエールやミード。他にワインやピケットなんだから、ウィスキーは飛び抜けて強く感じられるんだろう。
「このくらいなら大丈夫だけど、すきっ腹にって言うのも胃に悪いか。ここは食事の持ち込みって大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。料理は他のお店から取る形で提供しているからそれで頼んでくれないかしら」
そう言えば国技か――げふんげふん。闘技場で串焼きを食ってから飯を食ってなかったんで腹が減った。一応テーブルにはつまみとしてナッツ類が置かれているけど、まぁ足りる訳ないよね。この辺りも聞いた事のあるキャバクラのシステムと同じだな。
って訳でメニューを見せてもらった訳だけど、正直言って何が美味いのかさっぱりなんで、エルナさんオススメの5品を注文。当然割高なんだけど、俺には関係ねぇ。エルナさんも好きな物を好きなだけ頼んで後は待つだけ。
「ところで話は変わるんですが、ここを治めているユーゴ伯爵ってどんな人ですかね」
運ばれて来るまで大体20分ほどだそうで、それまで他愛ない会話をしているのもいいんだけど、マリュー侯爵の依頼を受けてる俺としては、少しでも殺す相手である伯爵の情報が欲しい所だ。
パッと見た感じ、シュエイは非常に賑やかだ。そして活気もある。いくつかの転生・転移者が手を加えた確固たる証拠もあるおかげで、ギック市よりはるかに富と名声が得られるものの、堕ちた人間に対する扱いはとても顕著だ。
現在の所。俺の中でこの伯爵の評価は底値を割っているものの、これはあくまで伯爵に恨みを持っていたり被害を受けた側の人間の話。それでも、被害を受けた側は真っ当な人間っぽいから覆らない。聞きたいのは表でどんな人間を演じているのかだ。
「そうねぇ。彼はとても良い領主だと思うわ。少し税が高いけど、住人の事を第一に考え、多くの人々に救いの手を差し伸べる。大概の貴族は権力をかさに着ていやらしく体を触ってきたりするけど、ユーゴ伯爵だけは別ね」
おいおいおいおい。この店に伯爵も来るのかよ。ってかあのジジイは人の話を聞いてなかったのかよ。なに命を狙ってくる奴と同じ店に通ってんだよ。これは文句を言ってやらないと収まらん。




