#131 人間爆弾1号2号
「気分はどうだ?」
「……あれだけの目に合っていい訳がないでしょ。でも、これであの男の命に従わなくて済むんだと考えると胸がすっとするわ」
あれからすぐに、呪いの死印の効果で、リューリューの心臓からも無数の刃が飛び出したのでどんな感じなのか避けずにいると、まぁ〈万能耐性〉のあるこの身体に呪いなんて物が通じるはずもなく、視界を覆い尽くさんばかりに叩き付けられるそれの痛みもまぁ薄い。
その光景にキュエルはガン引きしてたけど、とりあえず何の障害にもならないとの確認が取れたので、直接〈収納宮殿〉に収納した後にしっかりと本体も回収。
こうする事によって、ユーゴ伯爵側に居る呪いをかけた魔法使いに2人が死んだ事が伝わり、本人にも伝わるのだとの事。
ちなみに何度も殺してやったおっさんには呪いの死印がなかったのだが、こいつは2人の監視員的な奴だったらしく、完全にユーゴ伯爵の犬で実力的にも2人の足元にも及ばないのだが、呪いによって反逆する事を封じられていたために酷い扱いを受けていたらしい。エロい事をされたのかが非っ常に気になったが、聞くのは止めておいた。
「なるほどなぁ。とりあえず呪いはなくなったと考えていいんだな?」
「ええ。貴女のおかげでね」
「それじゃあまずは自己紹介から。俺はアスカ。旅人をやっている」
「私はリューリュー。一応アサシンを生業としているわ」
「ボクはキュエル。姉さんと同じでアサシンをしています」
アサシンねぇ……俺の常識に当てはめると完全に忍者なんだが、そのあたりは口を挟まないでおこう。
さて。一番大事な名前を聞くという質問が済んだので次だ。
「では聞く。なんでお前達はあの爺さんをつけてたんだ?」
「それはあの御仁が伯爵にとって厄介な存在であるかに他ならない」
「厄介? 見たところただのエロジジイにしか見えないんだが」
一応ロリは守備範囲外みたいだから直接的にも間接的にもセクハラまがいな事になってはいないが、実をいうとあの爺さんがアサシンにストーカーをされるほどの相手とは全く思えない。この辺りが〈身体強化〉や〈魔導〉なんかによる強化による弊害と言っていいかもしれないな。
今まで出会った連中のなかでヤバイと感じたのは、マリアくらいなモンだ。正直こっちもあっちも本気じゃないのは分かり切ってるが、あれが本気で暴れたらと思うと……正直楽勝としか思えないな。
確かにマリアは強いと思う。しかし相手はただの子供であって、なによりも完全に菓子の虜だ。そうである限りは、よほどのことがなければ俺との敵対は何が何でも避けてくるはずだ。
っとと。話が逸れたか。
とにかく。俺的にあの爺さんは強そうに見えない。その純然たる事実を淡々と口にしただけなのに、2人はなぜか半眼ジト目を向けてきた。
「貴女それ……本気で言ってる訳?」
「あの御仁は、かつてこのシュエイの騎士団全てを束ねていた総団長なんだけど」
「でも今は違うし、俺にはこの街の住人じゃないから、やっぱりただのエロジジイだな」
この決定に異論は認めない。とにかく、情報を集められる環境は整ったんだ。さすがに元・総団長である爺さんも交えての話にしないと、いつまでもあんな場所に閉じ込めとくのも悪い気がするからな。
「ってな訳で爺さん呼んでくるから、知ってる事全部吐いてもらうぞ」
「分かってるわ。命を助けられただけじゃなく自由まで与えてもらったんだから」
「義理堅い事で」
まぁ逃げるような真似はしないだろうけど、一応念のために鍵をかけてから爺さんのいる部屋に入って事の顛末を説明すると、自分の事だから話し合いに参加してくれる了承は得たが、呪いを解いたとかの説明の辺りはかなり驚いていたな。心臓が持たないぞと言ってやったら、誰のせいじゃ! と怒られた。
そんな訳で、爺さんを連れてさっきの部屋に戻ってみると、まず爺さんが壁や床がボロボロなのに気付いてその呪いの強さを把握したのか一瞬だけ眉間にしわが寄ったものの。すぐにリューリューを見つけると好色全開のいやらしい笑みを浮かべながら一瞬で背後に回り、さも当然のように尻を撫でた。堂々とあんなことができるなんて……う、羨ましいなんて思いまくって――あ。思いっきりぶん殴られてる。やっぱまだいいっス。
「で? 早速だけど、なんでユーゴ伯爵がこの爺さんをつけるように指示してきたんだ」
「よくこの状況でそんな事が言えるね」
キュエルがちらりと横を見ると、既に瞬〇殺が終わった瞬間でリューリューの背中に滅の幻影が見える気がする。
その足元に転がっている爺さんは相当ボコボコにされたようだが、骨とかに異常があるようにはみえない。とりあえず加減はしたんだろうけど、あの愉悦ん満ちた笑みが何とも気持ち悪い。どうやらMでもかなりハードな領域に足を踏み入れているようだからな。あれはあれで立派なご褒美なのだろう。
「ほっときゃいいんだよ。さっさと話せ」
「まぁいいけど。正確には殺すように指示されたんだ」
「それは随分と物騒だな。一体全体何をしたんだ? 嫁でも寝取られたか?」
「フン。あんなクソ男に嫁いでくる馬鹿な女。いる訳ないじゃない。危険だからよ」
お尻を触られた怒りがようやく収まったようで、リューリューが会話に混ざって来た。
「危険? お前に負ける程度の爺さんがか?」
「……まぁそう言われるとぐうの音も出ないんだけどね。これでも私もキュエルもレベル50を超える実力者なのよ? 今は……油断してたんでしょうけど、元・総団長のレベルは100を超えてるはずよ。戦場だったらあっという間に負ける自信があるわ」
「そんなもんか?」
あれ? 50って確か、元・奴隷商連中のレベルと同じくらいじゃなかったっけ? うぅむ。そう考えると連中のレベルをもうちょい上げておいた方がよかったのかもしれんな。二度と会うような事がないだろうから今更だけどな。
ちなみに俺のレベルも聞かれたので正直に答えてみると、爺さんを含めて愕然とされてしまった。自分でも低いことを自覚しているけど、改めてこういう顔をされると少し気分が悪くなるな。
「なるほどのぉ。近頃喧嘩を吹っ掛けて来る奴等が多いと思っておったが、そう言う理由だったのか。まさか命を狙われておるとはな」
「気付いてなかったのか?」
「わしほどの人間にもなるとそう言った連中が多くてのぉ。面倒だから殺気を振り撒いておったんじゃが、お嬢ちゃんが闘技場で平然と隣に来た時はかなり驚いたもんじゃ」
「殺気ねぇ。あったのかなかったのか分からん」
そもそも闘技場は、殺気や闘気が渦巻く場所だ。そこでたった1人の殺気を感じ取れってのは達人であれば可能なんだろうけど、俺は完全に〈万能感知〉頼りだし、そもそも〈万能耐性〉があるんだから隣の爺さんがそんな事をしてるなんて微塵も気づく努力をするわけがない。
「不思議なお嬢ちゃんじゃな」
「本来はそれで済む問題じゃないんだけど……」
「まぁいいじゃん。で? 何だって2人は爺さんの命を狙ったんだ」
「そこまでは知らされていないわ」
「右に同じ」
本人に心当たりがないのなら、当事者に聞くしかないと思ったんだが、どうやら失敗して元々――いや、どちらかというとそうやってあの呪いの力でもって始末しようとしていたのかも知れない。かなりの範囲攻撃だったからなぁ。理由を告げる必要がなかったんだろう。
「多分だが、お前等が負けることを前提で送り込まれたんだと思うぞ」
「そうじゃのぉ。この有り様を見る限りじゃと、さすがのわしでも無事では済まん一撃じゃ」
「そうね。こうやって対峙してみて、何となくそうなんじゃないかと思っていたわ」
どうやら。、リューリューはアッサリと自分が弱いと認めてお手上げのポーズをすると、弟も同じように両手を軽く上げた。これで裏切るといった心配はほぼなくなったとみていいだろうな。
「さて。とりあえず犯人が特定できた訳だけど、伯爵ってどこに住んでんだ?」
「それを知って貴女はどうするつもりよ」
「え?」
本来の目的は〈狂乱種〉の麻薬密売の罪を白日の下に晒した上で殺す事だが、さすがにそこまで素直にベラベラ喋ってやるほど俺は馬鹿じゃない。
かと言って、何かそれっぽい理由は急には考え付かないんだなぁこれが。
「うーんと。文句を言うってのはどうだ?」
「何で疑問形なのよ」
「ですよねー」




