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#130 脅迫とは……こういう事を言うのだよ

 さすがに爺さん相手にこれを見せる訳にも行かないんで、とりあえずコテージを取り出して適当な部屋に入ってもらい、外側から鍵をかける。勿論サムターン回しや合鍵を作るのが難しいディンプルキーだし、扉は魔法や物理的な衝撃に耐えられるようにアダマンタイトとミスリルの合金。なので、誰に憚られる事なく拷問を開始する事が出来る。


「さて最後通告だ。爺さんを狙った目的とその依頼主と居場所を吐いてもらおうか」

「「……」」

「考えは変わらないか。まぁそれでもいいや。俺は女性には優しいんでな。とりあえず今から何をするのかだけ見せておく。同じことをするつもりだから、気を失ったり目を背けたりすることはオススメしないな。いざいという時に覚悟できなくなるぞ」


 という訳で、ようやく出番となった銀色の男忍者の死体にエリクサーを一滴。するとどうだろう。この世の物とは思えない滅茶苦茶なグロ逆回しで吹き飛んだ頭部があっという間に復活したではないか。もちろん両手足は縛ってある。


「う……ここ、ばっ!?」


 意識を取り戻すと同時に、寝転がってる男に鳩尾から突き上げるように拳をめり込ませて、有無を言わさずに心臓を握り潰して絶命させ、そして血だらけになった腕を2人に見せつけながら、もう一度エリクサーを一滴かけて男を生き返らせると、同じ作業を数回行った。


「……さて。こいつは一呼吸の間もなく殺したわけだけど、当然ゆっくりといたぶるように殺す事が出来るのは言うまでもないな? それも何度も何度も繰り返されると心が折れて会話が出来なくなるだろうから、どっちか1人だけに今のを何度も繰り返す。今話すのであればやらないが、返答はいかに? 時間がないんで5秒で答えがなければ適当にやらせてもらう」


 言うと同時に指を折る。そして2人は死体と俺を交互に睨み付けるも、顔面蒼白だし恐怖のあまり歯をカチカチ鳴らしているのに、それでも口を開こうとしない。見上げた根性だと称賛を送りはするが、それで手心を加えるほど俺は甘くはない。


「……じゃあ君に決めた」


 結局5秒で口を割る事が無かったので、俺は震えている青い目の少女の首根っこを掴むと同時に――


「待てっ!」

「ん?」

「やるならボクをやれ。姉さんに手を出すな!」

「大したモンだ。妹が姉を庇うとは思いもしなかったな」

「ぼ、ボクは男だ!」

「なん……だと!?」


 嘘だろう? こんなに肌がきめ細やかで、サラサラの銀髪にイエローのくりっとした目。ほっそりとした身体つきはどこからどう見ても少女にしか見えない。

 いや待てよ……これは逆にチャンスなんじゃないか? 仮にも自分で男だと口にした。それが事実であり嘘であったとしても、確認作業というのは必要だろう。つまり――裸を拝んで確認する必要があるではないか。

 だが問題がある。本当にこいつが男だった場合。俺の精神にはとんでもないダメージが打ち込まれてしまう。何が悲しくて野郎の裸など拝まなければいけないのだとしばらく立ち直れそうになくなってしまうこと請け合いだ。

 しかし女性だったら……それはそれは目くるめく桃源郷(ハッピータイム)の始まりだ。何しろ俺は女性か男性かの真偽を確かめる為に調査するんだからな。


「うぅむ……そうだ!」


 分かりやすいほどに手が止まってしまった俺は、第三者に確認を取るという選択を選んだ。

 これであれば、男だとの言質が取れれば一切触れずに済むし、女だとの言質が取れればそれを嘘だと突っぱねて思うがままに確認作業が出来る。これぞまさにアカシックレコードから齎されし啓示也。

 という訳で、野郎忍者にエリクサー。


「ッがは!? ごはっ!」

「お目覚めか?」

「っ!? 貴様は一体――」

「質問に答えろ。あの黄色い目は男か? それとも女か?」

「ぐはあっ!? お、男だ――っ!?」


 OH……マジかよ。あの酒場に居たそっくりさんといいこいつといい。この世界にはゲームや漫画みたいに天然物の男の娘がいようとは……最悪だ。


「……まぁいいか。事前に知れただけでも良しとしよう」


 これで野郎の裸を拝むなんて気色の悪い事をせずに済むんだからな。気持ちを切り替えてさっさと本題を聞き出すとしますかね。


「さて小僧。姉を酷い姿にされたくなければ、俺が問うたさっきの質問にすべて答えろ」


 当然。解答いかんによっては女性であろうと容赦はしないし躊躇うつもりはない。こっちの都合で決して多くはない人生の時間を奪いたくはないし奪われたくない。この1秒で女性との語らいが出来なくなるというのであれば、俺はこいつを許せない。

 その邪魔をするというのであれば、かなりレベルが高いと言えど排除する。多くの女性と一夜を共にするためには、少数の美人を切り捨てる鬼の心を持たねばならぬ時があるのだ――と俺は宣言する。


「……y――」

「キュエルっ!」

「んぅ?」


 キュエルとやらが何か喋ろうと口を開き切る前に、胸部から突然無数の刃が吐き出されたせいで、当然ながら絶命。部屋の中はその刃が突き刺さりまくったおかげでボロボロ。まぁ? これがいつも使ってる部屋だったら何度も殺したりしない。

 ちなみにこれは、ついさっき作ったいつも使ってるのの遥か格下だから、部屋もこの一室だけだし、なによりコンクリ打ちっぱなしの8畳間くらいの広さなんで、いくら汚れようが壊れようが心配は無用って訳だ。


「何が起こったのか。それをいえるなら話せ。無理なら首を触れ。それでも駄目なら睨み付けろ」


 結果はどれにも当てはまらない。

 そう言った情報すら他人に明かせないと判断し、残りは勝手に考えるしかないな。

 何か手がかりを発見できないかと、ぼっかりと穴のあいた胸部に目を向けたり手を突っ込んだりしてみると、中から妙な石が出てきた。

 紫の煙を上げる金平糖みたいにトゲトゲしたピンポン玉くらいの何か。俺の知識に当てはめるなら、こんな物が人の体内から出て来る訳がない。なので、あのマシンガンみたいに刃を吐き出したのはこれで間違いがないだろう。

 という事はだ。これさえなくなれば、キュエルは素直に口を割るかも知れないんでさっさと〈収納宮殿〉に消去。破壊しても復活と同時に体内に戻るようになっていたら2度手間だからな。


「さて……と」


 さすがに人の知恵で、クソだけど神の力の中から出て来るのは無理だろう。念のために壁・天井・床に突き刺さったままのやつもすべて回収しておいたので、何の憂いもなくエリクサー注・入っ!


「う……っ!?」

「起きたか。じゃあまた質問だ。誰に言われてこんな事をしたのか言え」

「……ユーゴ伯爵――えっ!?」

「なるほどなるほど。しかし伯爵がなんだっておいぼれエロジジイを気に留めるのか知ってるか?」

「し、知ってるが……というかどうしてボクはその事を喋れるんだ!? 確か〈呪いの死印(ギルティ・カーズ)〉で――」

「ああ。それなら預かってるぞ」


 試しに飛び出した刃の1つを取り出してみると、かなりの速度でキュエルの心臓めがけて発射されたのですぐさま〈収納宮殿〉にお帰り頂いた。どうやら俺の仮説は合っていたみたいだ。


「なん……で」

「そこら辺は企業秘密だ。とにかく。これで、有益な情報が聞ける体制が整ったという訳だな」


 こっちとしてはさっさと用件を済ませて、待っているであろう桃源郷(ハッピータイム)にさっさと飛び込みたいのだ。

 とりあえず黒幕がユーゴ伯爵なのはハッキリとした。あの爺さんがいったい何をやらかしたのかどうかはこれから分かるとして、まず一番最初に聞かなきゃいけない事があったのをすっかり忘れていた。これがあるのとないのとでは俺的に大分違う。

 という訳でまずは質問その1――と言うより先にキュエルが割って入って来た。


「待ってくれ。その前に姉さんの呪いも解いてくれないか?」

「別にいいけど……一度死なないと無理だぞ?」


 今やっているのは、本来の解呪法じゃない。エリクサーというまさにチートの代表格みたいな力を使って無理矢理取り除いているだけに、解放されるにはとんでもない苦痛が伴う。出来ればキュエルが死んだという報告をユーゴ伯爵にし、解呪できるめどが立つまでもてなしていたい。


「構……いわ。殺……て」

「ん?」


 おかしいな。さっき弟の名を呼んだ時はもっとはっきりと言葉を喋れていたはずなのに、今はなんかたどたどしい。どうしたんだろうと近づいて確認してみると、喉の辺りに焼け焦げたような黒い跡を見つけた。


「呪いの死印の効果だと思う。何か任務に支障をきたす事をしたから、喉を潰されたんだ」

「なるほど。色々と聞きたい事はあるけど、まずはそれを取り除こう。最後にもう一度聞くが、相当痛いと思うがいいんだな?」


 俺の問いに、姉は覚悟が出来てると言わんばかりの笑みを浮かべる。

 という訳で、姉・リューリューにも同じような質問をして呪いを発動させて死んでもらった。

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