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実は、神も全能ではない

斜め上から見た美しい世界2の前日譚。

無事、月の住人として幸せに暮らすようになった元カチカチ山の狸タヌちゃんは、寺子屋の先生として楽しく勉強を教えていた。

ある日、月についてアレコレ予言や透視をする水星人について生徒たちから聞かされる。

それはトンデモナイ者かもしれない!詳しく確認しなければ!あまりにも酷いことが書いてあるのなら、抗議文を送ってやろう。

まずは、ある事ない事書きまくる水星人カサンドラ嬢が管理する《ツキペディア》という百科事典サイトにアクセスするのだった。

月の神殿に向かう道には、柱がたくさん建てられています。

地球の日本でいうなら、これらは鳥居にあたるような神聖なものです。

道の両側にある円柱の太い柱は、天に向かって壮大に伸びています。

しばらく歩いていくと、大きな噴水のある広場があります。

丸い枠の真ん中に、天使の像が置かれていて足元に向かって、外側から内側へ勢いよく水が吹き付けられています。

天使は弓矢を引いていてるポーズをしていて、

ハートの形をした矢の先端から水がピューとかビューー!!とか、勢いを変えて流れ続けています。

キラキラ輝く噴水を見ても、満腹になるわけではありません。

狸はお腹を鳴らしながら、フラフラと噴水を通り過ぎました。


「さぁ、行こう!」

うさぎは颯爽と神殿の出入り口へ向かって走り出しました。


…神様になんと言えばいいのやら。

カサンドラの予言は本物かどうか、予言は100%そうなるのか?

まぁ神様なら知っているはずだ!


月について書かれていることも、どう思っているのか神様の気持ちを聞くチャンスだ。


チラッとかぐや姫を見ると、桃太郎のことがショックだったのだろう…ずっと下を向いて、眉を下げている。

「大丈夫ですか?かぐや姫…」

着物を軽く引っ張ると、「タヌちゃん、ありがと!大丈夫よ!」と微笑んでいます。


石で出来たツルツル艶々の美しい神殿の出入り口に

辿り着きました。

扉などはありません、住人なら誰でも自由に中へ入ることが出来るのです。

食べ放題の果物が、入口のテーブルの上に置いてあります。


「タヌちゃん、りんご貰えば?お腹空いてるでしょ」

大きなお腹の音が聞こえてしまったのか。

少し顔を赤くしながら、狸はツヤツヤのりんごを手に取りました。

とても美味しそうです!

そして、決して毒入りではありません。

なんと安心なことだろう!!


かぐや姫は珍しく何も食べようとはせず、黙って立ち止まっています。


先日一人でここへ来たとき、かぐや姫は神殿の掃除をしていました。

右手でモップを持って、左手には食べ終わったバナナの皮を持っていました。

口をモゴモゴさせて、小さく手を振ってくれました。

バナナの皮もヒラヒラしていたのです。


大丈夫だろうか…。


元気の無いかぐや姫を眺めながら、りんごを齧っていると「タヌちゃん!そろそろ行こう」うさぎが言いました。

狸はテーブルに戻り、バナナを1つ手に取りました。

秒速で皮を剥いて口の中へ突っ込みました。

噛まなくても、とろけるような柔らかさのバナナ!

顔が、ぽわぁぁんと幸せいっぱいになりました。


ふたりは、先に神様の書斎へ向かって歩き始めます。


狸は、あともう一個だけ!とブドウを口へ放り込みました。

あぁ…美味い美味い!


更に奥へ進むと、扉のない大きな出入り口が見えてきます。

そこが神様の書斎です。


「今はだれも訪問者がいないみたいだね!」


「珍しいわよね………失礼しまーす」

かぐや姫が声を掛けました。


「どうした?我に何か用か?」


「あっ!はい!実は神様にお聞きしたいことがあるのです!」

うさぎの丁寧な声が響きます。


「ね!タヌちゃん!……………あれ??」


「タヌは……果物でも食べておるんじゃないか?」


「すっすみません!!」

遅れてひょこっと顔を出すと、既に神様と友人ふたりは話を始めていました。


お腹が空きすぎて、果物を貪ってしまった。


「タヌちゃんったら〜食べカスすごいわよー」

かぐや姫がゴワゴワのお腹についたりんごの種やブドウの皮などをはらってくれました。

「アハハ〜すみません〜」


神様は、呆れた顔でこちらを見ていましたが

「何かあったのか?」 と聞いてくれました。


「はい!神様!実はお聞きしたいのです。

水星のカサンドラ嬢のことです」


「ほう、カサンドラがどうしたんだ?」


「あいつ、いや、カサンドラ嬢はツキペディアというサイトを管理しています、ご存知ですか?」


「知っているぞ」


「最近、予言や透視を始めたようです。

月のことを色々と書き込んでいまして、抗議文を送ろうとしましたが…」

狸は、寺子屋であったことなど全てを包み隠さず話しました。

水星に行く際、許可を取れなかったことも謝罪したのです。

「というわけでして……。城の中に入ると《桃太郎が死亡する》と書かれたメモ帳を見つけたんです」


「………なるほどな」 


「どう思われますか?カサンドラの予言って本当なのでしょうか!?」


「うむ…」

神様は立ち上がりました。

「我ら神はほんとうに賢い存在だ…

分かることは多い」

後ろで手を組んでゆっくりと歩く姿は、まさに神様のそれなのです。


「そして…これから言う事も事実のひとつだ」


狸はゴクリと唾を飲み込みました。


「神は全能ではない」


「………は?………というと?」


「だから……我にも分からん、全能ではないのだ」


「はぁぁぁ?!!!」

ビックリして顎が外れそうでした。

「かっ神様なのに、あいつの予言が嘘か真か分からないと!?」


「そうだ」


「えぇーーー!!!!?」


「タッタヌちゃん…」

うさぎが、狸の横にやってきて肩をトントンしています。「落ち着いて」


狸は白目を剥いてしまいました。

「そっかー狸の授業聞いてるくらいですもんねぇ」


神様はポンコツらしい…心の中で呟きました。


「我がポンコツだと!!!?」


「わっ!ぼっ僕じゃありません!!」


「わっ私でも無いわよ!!」


「ふっ………狸ですよ」


「我をポンコツとは!いい度胸だな!タヌ!」


「はぁ…無駄足でした、帰りましょう」

くるりと背を向けて、書斎を出ていこうとする


「失礼だぞ!タヌ!

まぁ…大丈夫だ、皆のもの。

起こったほうがいいことは起こるものだ

しかし、予言など気に病む必要は無い」


「神様!私、地球へ行きたいんです!」


突然、かぐや姫は大きな声で言いました。


「かっかぐや?」


「お前ひとりでか?」


「いえ!うさぎと一緒です!」

いま勝手に決めたことなのだろう、うさぎはアタフタしている。


「みんなが幸せに暮らしているか確認したいんです!大丈夫だと思うけど、確認したらすぐに戻りますから!」


神様は少しの間黙りましたが、うさぎの目を見て

「申請書を出せば出発してよいぞ」と言いました。


机に座り直し、再び仕事に戻っている。


「失礼しました!」

三人は一旦書斎を後にします。


「みんなこっちだよ」

早足のうさぎのあとについて行くと、誰も近寄らないような奥の暗い廊下に大きい棚がズラッと並んでいました。

申請書が収められているらしく、透明の引き出しが付いている棚は天井と同じ高さでした。


「うわぁ……」


「これ全部申請書……ですか?」


「そーだよ!この棚の上から13段目に入っているのが、地球旅行の申請書だよ!あと証明書を貼る書類は左から5番目の棚で上から6段目に入っているんだ!」

うさぎはジャンプしながら、引き出しを開けて器用に紙を一枚取り出しています。


「難しいことはないさ!」

書類を持って、テーブルへ向かっています。


流石だよ…うさぎ。本当に颯爽としている。


「そういえば、かぐや姫!凄かったですね!」

狸は、かぐや姫の二度目(?)の地球旅行があっさり許可されたことに感心しました。

「まぁね!今は嘘ついていないしね!」

かぐや姫は小さい子みたいに可愛くウインクしました。

「桃太郎が元気かどうか確認するだけよ、ね?うさぎ!岩田さんも桃ちゃんも元気かな」


「でも……かぐや、ルール違反は無しにしてよ?

今回は人間に関わらないほうがいいよ。直接話し掛けたりするのはやめよう」


「え!!!なんでよー!!!」


「だって、君が確認したらすぐ戻るって言ったんじゃん!しかも、かぐやは全然見た目が変わっていないし、地球の人間から見たらオカシイって思うよ!」


「え!どーせ、岩田さんには月の住人ってバレてるのよ!?」


「馬鹿!!声が大きいって!!」

うさぎは大慌てで手を振り回しました。


かぐや姫は手で口を押さえています。

神様に聞こえたら大変です!


「とにかく!あんまり怪しまれることをしちゃダメだよ。神様にも迷惑かけることはしたくないからさ」


「うぅ〜ん、みんなと話したかったのに…」


「仕方ないって!」


「分かったわよ…

みんなの安全を確認したら月へ戻るわ!」


かぐや姫は納得したようです。

ずっと話もしていない地球の友達を気にかけている、かぐや姫とうさぎのことを本当に素敵な人だなぁと思いました。

狸にはそんな感覚は無いのだ。

狸に…そんな風に思える心はあるのだろうか、それってどんな心だろう?


離れていても幸せでいてほしい

一緒にいなくても元気で生きていてほしい


様子を見に行くだけ…か…。


狸には分からないな。


「タヌちゃん!申請書を出したら地球へ行ってくるわね!」


「はい、くれぐれもお気をつけて」

狸はここからふたりの無事を祈って過ごすしかない、

地球へ戻れば毒が回り死んでしまうからだ。


仕方なく、もっちもちイチゴ大福を食べて待つしかないだろう……

退屈な日々が始まる。


そーだ、もっちもちイチゴを持ち帰りにして、冷蔵庫に保管しておこう!

ふたりが帰ってきたら一緒に食べるのだ。


それは、狸からしたらとても素敵なことだ

毒入りか心配しなくていいことも

帰ってくるひとがいるのを待っていることも。


…素敵な心って、もしかしてこんな感じだろうか?


タヌちゃん主役の前日譚は完結です。

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