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白百合の姫君は、狼の王への献上品となる。〜蛮族に囚われた私と従者たちの、長く屈辱的な夜〜  作者: 猫野 にくきゅう
剥奪された知性:傲慢な教官と獣たちの夜間授業

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第4話 壊れた教育者の末路

 その日の講堂は、静寂を通り越し、死を待つ処刑場のような緊張感に包まれていた。  


 ルクレツィアは教壇に立ち、震える手で羊皮紙を広げていた。

 視線の先、講堂の最上段には、覇王ヴォルグが静かに座している。その隣には、冷徹な監視者である将軍ガンツの姿もあった。


 全生徒が、これまでにないほど規律正しく背筋を伸ばしている。

 だが、ルクレツィアには分かっていた。彼らの軍服の下には、昨夜、彼女の肌に刻み込んだ熱い欲望がまだ燻っていることを。


「……そ、それでは……。本日の講義、周辺諸国との……通商条約の、基礎理論を……」


 声が裏返った。  

 ルクレツィアは必死に黒板を見つめるが、文字が歪んで見える。


 昨夜、彼女を「教育」した男たちが、今日は一番前の席で彼女の足元をじっと見つめていたからだ。    


 カイルと目が合う。  


 彼はわずかに口角を上げた。

 その視線は、昨日までの「生徒」のものではなく、昨夜、彼女を組み敷き、耳元で愛玩動物のように扱った「飼い主」のそれだった。


(やめて……。見ないで……。今は、今は教官として……っ)


「……ルクレツィア先生。声が震えておりますな」


 背後から、ヴォルグの低く重厚な声が響いた。  

 ルクレツィアの背中に氷の刃を突きつけられたような戦慄が走る。


「教官というものは、軍の士気を高める象徴でもある。そんなに怯えていては、我が軍の若き獅子たちに示しがつかん。……少し、近くへ来い」


 逆らうことは許されない。  


 ルクレツィアは泥を歩くような足取りで、ヴォルグの座す壇上へと歩み寄った。

 数百人の生徒たちの視線が、一斉に彼女の「動く身体」へと注がれる。それは知識を求める目ではなく、品定めする獣の目だった。


「顔を上げろ」


 ヴォルグが彼女の顎をクイと持ち上げる。  

 ひび割れた眼鏡越しに、王の黄金の瞳が彼女の深淵を覗き込む。


「……良い目だ。知性が恐怖に負け、己の身に起きた『真実』を懸命に否定しようとしている。……ガンツ、この女の教育は順調か?」


「はっ。生徒たちは、実に熱心に彼女から『学んで』おります。夜を徹しての特別授業のおかげで、彼らの団結力は驚くほど高まりましたな」


 講堂に、押し殺したような笑いが満ちた。  


 ルクレツィアの頭の中で、理性を支えていた最後の柱が、みしりと音を立てて軋んだ。生徒たちが夜な夜な彼女の部屋を訪れていたのは、個人の逸脱ではなかった。


 それはバルバドという国家、そしてヴォルグという王が、彼女のプライドを効率的に破壊し、若き戦士たちを結束させるための「公的な施策」に過ぎなかったのだ。


「……っ、あ……ああ……」


 ルクレツィアは、膝から崩れ落ちそうになるのを必死に耐えた。  


 自分が信じていた「教育の場」は、初めから巨大な「調教場」でしかなかった。  

 彼女が講じる高度な論理や法学は、それを語る彼女が「教材」として扱われるというギャップを楽しむための、嗜好品に過ぎなかった。


「先生、どうしたんですか? さあ、続きを。……『法による正義』について、もっと詳しく教えてくださいよ」


 カイルが立ち上がり、慇懃無礼に頭を下げて促す。  

 その瞳は、今すぐにでもこの場で彼女を組み伏せたいという欲望を隠そうともしていなかった。


 ルクレツィアは唇を震わせ、何かを言おうとした。  


 だが、出てきたのは、外交官としての高潔な反論ではなく、嗚咽を堪える惨めな吐息だけだった。  


 彼女の「知性」は、ついに自らを守ることを放棄した。  


「……ヴォルグ様。私は……私は……」


「続きは、場所を変えて聞こう。……どうやら、この場では語り尽くせぬほど、貴様の中に『成果』が溜まっているようだからな」


 ヴォルグの冷たい手が、ルクレツィアの首筋を撫でる。  


 その感触に、彼女の肉体は、恐怖しながらも卑しく反応してしまった。  

 生徒たちの前で、自分を蹂躙した男たちの前で、その頂点に立つ男に触れられ、熱を帯びる己。


 教育者としての死。  

 ルクレツィアは、ヴォルグに引きずられるように講堂を後にした。  


 背後からは、彼女を「共有」した生徒たちの、勝利を祝うような猛り狂った歓声が、いつまでも止むことはなかった。

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