アハル
そんなこんなで、私は転生した。
そこは……
秋の風が街路の落葉樹を優しく撫でる。
赤や黄色に染まった葉が、舞い落ちる。
少し切ない、美しい光景だ。
黄金色の小麦畑が刈り取られ、
町全体が豊かな実りの色に包まれる。
この時期、
冬への支度が始まる。
鹿や山羊の肉を塩漬けにする作業。
露店から漂う、
ヨダレが出そうな香ばしい匂い。
通行人の足が、自然と止まる。
広場では祭りの喧騒が沸き立つ。
太鼓の響きと笑い声が混じり合う。
灯火が夜空を染め始める――
川辺の一際大きな建物の石畳の中庭。
祝宴が繰り広げられる。
そこに立つ、二人の男。
まずはジャバロン《ジャバロン》
この地域を治める若き族長だ。
赤髪の強靭な体に、喜びで歪んだ顔。
目尻が下がりっぱなしのだらしない笑み。
周囲もつられて笑うw
次にバーン《バーン》
めっぽう強いが、少しおっちょこちょいの族長を支える――
冷静沈着な千手のバーンと言われる天才軍師。
青みがかった濡れ羽色の長い黒髪。
穏やかな微笑みを浮かべ、手元の赤子を愛おしげに見つめる。
二人の腕には、
自身と同じ髪色の赤子が抱かれていた。
私と、相方である。
ちなみに、私たちの母親は双子だった。
父と母は結婚直後に色々あったらしいが、
そんなことを知る由もなく、
私は無事生まれた。
二人の前には、収穫祭と赤ちゃんの誕生を祝う料理が並ぶ。
大勢の男女が嬉しそうに囲む。
青年たちは肩を組み、楽しげに歌う。
子どもたちはキャッキャと駆け回る。
花を摘んで赤子に近づけたり、
互いに追いかけっこしたり。
祝いの場を、ますます盛り上げる。
赤ん坊の頃はわからなかった――
だが、歩けるようになると気づく。
前世の世界とは、年代も場所も違う。
もちろん、わからない振りをしているが、
大人たちの会話からわかる。
人口約一万人の、中規模の町。
サロス《サロス》、という名らしい。
生活する敷地内には、かなり大きな練兵場がある。
大人だけでなく、十歳くらいの子供たちも、
様々な武器で激しく稽古する。
中庭もあり、弓の練習もできる。
飛び道具は矢だけ。
相当に古い時代なのだろう。
見つかるといつも怒られるので、
いつもそっと入り口から覗く。
その中で、一人。
すごい動きをする、淡い栗色の髪の少年。
いつも、とても気になっていた。
少しカッコいいイケメンなのもあるwww
ここは父たちが元々住んでいた場所ではないらしい。
異国などの書物がたくさん保管された大きな書庫もある。
天才軍師のバーンおじさんは、
それらを使い、十代の子供たちに教育を施す。
そう……私は普通の赤ん坊では無い。
私には前世の記憶がある。
日本のサラリーマンで、
建設業の監督をしていた。
家族や人生のことも覚えている。
だが、少し違和感を感じていた。
どのように死んだのか?
他にも大切な事がたくさんあったはずなのに、
頭に靄がかかっていて、どうにも思い出せない。
ただ、決して忘れてはいけない物だと、
強く感じていた。
そしてその年の私が三歳の時。
サロスの町から北西にある、
アハル《アハル》という、
人口千人しかいない田舎の港町に引っ越すことになる。
なんでもかなり昔、
東方の諸国連合が大遠征でこの地を占領したときに築かれた軍港だったらしい。
だが、度重なる反乱や戦乱で荒れ果て、
戦略的意味を失い、
放置された遺物のような場所。
港は泥で埋没化( シルティング )が進み、
大型船が入りにくくなったために廃港となっている。
そこから階段をかなり上がった、半壊した砦が、
私の新しい家となった。
私と同じ日に生まれた、青みがかった濡れ羽色の美しい髪の相方は、
「お化け屋敷」だとひどく嫌がるw
次の年に生まれた相方の弟は、
夜な夜なギャン泣きしていた www
おそらくだが、
ピリリとスパイスの効いた意地悪を言う相方が、
怖い話をしていたのだろう w
私たちに仲良くしてくれる大人の兵士たちも、
毎日の改修作業に陰口を叩く。
だが、なんとなく私は、
このおんぼろの砦が好きだった。
それは、半壊した砦の防壁の上に立つと、よくわかる。
東に広がる入江を、
朝日が淡い金色に染めた......
潮風が運ぶ塩の香りとともに、
無数の鳥たちが岸辺から飛び立つ。
いつも、心を躍らせる......
振り返れば、西に穏やかな海が広がる。
そこに太陽がゆっくり沈み、
水面を深紅に染める、
幻想的な美しさ......
深い感動......
そして夜には、
前世ではほとんど見る機会のなかった、
満天の星々と銀盤のような月が織りなす壮大な夜空......
心を、たびたび奪われる......
そして、この海や夜空を見る度に、
何故か涙が溢れて止まらない……
―――
まるでこの廃墟だった港が、
何かと繋がっているような。
そんな感覚を覚える、
私の大好きな場所だった……
五歳になると、
私と相方には家庭教師がつく。
あの、すごい動きの淡い栗色の髪の少年だ。
この世界では十五歳で成人になるため、
正確には少年ではなく、大人。
先生でもあり、
お師匠でもある。
本当に純粋に、凄いと思わざるを得ない。
お師匠は、あの氣を自在に使いこなすのだ!




