ジャバズキッチン
世界最大のクエストと自身のメインクエストを、
同時にクリアしてしまう5歳のアブー。
順調だ......順調すぎる。
「 ここは一つ、私の平凡だか素敵な家族の
夕食シーンでも説明するぜ、ホトトギス 」
今晩から、また古文書の作成があるからね......
アハルの夕飯は早い。
夏の焼かれた肌が、
じりじりと熱を帯びて火照っている。
ようやく黄金色の光が和らぎ、
影が長く伸び始める頃。
風に乗って台所から、
薪を燃やす香ばしい匂いが漂ってくる。
前世の体感では、まだおやつの三時。
さっき食べたばかりの串焼きの、
脂の甘みとガツンとした肉の感触が、
まだ胃の底に重たく居座っている。
「 腹重し......されど別腹......乙女かなw」
普段なら、鼻先をくすぐる夕飯の香りは食欲をそそるけれど、
今日は、お腹はまだ膨れている。
相方の弟みたいに、
底なしの胃袋を持っていたら良かったのに。
空を仰ぎ、お腹をさすりながら、
串焼き肉を思い出す五歳の夏。
しばらく古文書作成の構想を整理していると......
赤獅子が吠える!
「 アブー!ご飯の時間だそ!」ビリビリビリ
( ぬ?今日はジャバズキッチンか......
うるさいので、
氣を声に乗せないでほしいw)
遠征や出張以外は割と父が食事を、
作ってくれる。
リズミカルに鍋をかき混ぜる音と、
陽気な鼻歌。
( まぁ、父は母が笑顔ならいつも機嫌がいい)
ガチャン、と威勢よくテーブルに置かれた大皿には、私の顔より大きなパン。
そして丼のような器に盛られた、
野菜たっぷり具沢山スープ。
( こ、これは食べれるか?...... )
そんな時の父はいつもうるさい。
「 アブーは、パンもこの大きいやつだからな!大きくなれよ!」
( もう食べれない......w
パンは私の必殺技、洋服包みの術で、
おやつにする。)
桑の実を持ち帰る用にミル姉のおばあちゃんに、
作ってもらったネコ型ロボットみたいな
半月型の大きい内ポケットに、
隙を見てしまい込む。
それにしても父と母は仲が良い......
アットホームな雰囲気。
楽しそうに話している2人を見ているのが、とても好き。
( あまり、この温かいハートフルな環境を、
壊したくないが、
古文書作成の件があるんだな...... )
父にランタンの貸し出しをお願いする。
「 まだ、日がある時に書きなさい!」
父が業務的な対応。
まぁ、オリーブオイルはとても高価なので、
ごもっともなご意見。
私は下唇を突き出し、
母の方を必殺うるうる美少女ポーズで見る。
母はそんな私を見て、
右手こぶしで口を隠し、
少女の様なニコニコの顔で、
クスクスと笑う。
私の好きな母の笑顔だ。
そして、大きな瞳をうるうるとさせ、
父に顔を近づけて、
子供には子供なりの過密なスケジュールがあって、
それをこなしているのだと説得を開始。
この母には父は100%折れるwww
そんなこんなで、
私は父からランタンを貸してもらう事に。
こうなると父は一転して、
世界で一番の協力者になってくれる。
ランタンの使い方を一から自慢気に、
しかし熱意を持って丁寧に教えてくれるのであった。
こんな時の父はズバリかわいいwww
母も同じ事を言っていたw
普段なら、この後、
外は真紅の太陽が西に沈む美しい景色や、
東の入江に水鳥たちが次々に、
降り立つ幻想的な景色を観てから寝るのだが、今日はお預け。
「 さてと......帯しめよ、いっぱい描くぜ、戦乙女!」
5、8、5で、自身の燃え上がるような、
やる気を表現。
ランタンを机に置くと、
自室の椅子に毛布を丸め正座で座る。
これが一番良い角度で執筆に専念出来る高さ。
ランタンから香る、
オリーブオイルの芳醇な良い匂い。
黄金色の暖かいゆらゆら揺れる、
落ち着く明かりをしばらく見入っていた。
ひとまず疫病が鎮まったら、
着工出来る事柄、準備が必要な事を書いていこうと思う。
おそらく、今回の疫病の感染源は入江に流れ込んでいる汚物と、
そこに生息している魚介類の摂取だと睨んでいる。
対策は、大まかに2つ。
一つは井戸水に連結させた[ ろ過装置 ]。
壺の底に穴を開け、
殺菌した砂をたくさん入れ、
それでろ過させる。
もう一つが公衆トイレ、浄化槽、下水川( 溝)までの配管を通したい。
トイレは、町のブロックごとに分け、
適度な間隔で設置。
入江は水の対流が少なく自浄効果が薄いので、
治水工事で海への下水溝を掘る。
浄化槽は、絵に描いたものの、
なんともわかりにくい図になってしまった......
「 ぐぬぬwまぁ仕方がない......
五歳児だもの......アブを。」
代わりに構造図と、文字でうまい表現をするしかない。
[ 浄化槽の作り方 ]
浄化槽は3層に大壺を並べ分けて作る。
管理蓋はすべて封水式。
一段目は密閉して悪魔の邪気と呪禁を封じ、
封魔と弱体効果がある陶器の破片を
麻袋に入れ、沈殿させる。( 嫌気性分解 )
二段目は溶岩と麻袋で清浄の精霊を宿らせ、
分解ろ過。( 好気性分解 )
ただし、ここに空気を送り込むアイデアを
何か考えなければいけない。
三段目は炭で不純物を吸着、
最後に砂の濾過小壺に通してから、
下水川(溝)へ流す。
炭は高価だが、
破魔の力があるから必須だ!
( 吸着ろ過 ・消毒 )
と、こんな感じに書いた。
( 一番の悩みどころは、配管の素材と、
これらをどの様に職人達に作らせて、
設置させるかだな...... )
出来れば、目立ちたくはない。
またも立ちはだかる、五歳児の壁......
一方で、水汲みの負担を減らすため、
鋳造技術に期待しつつガチャポンプの構造図作成にも着手。
砦には深い井戸があるが、
ここはガチャポンプは機能しないだろう。
別の方法を考えないといけない。
これらがクリアできたとして、
メンテナンスも重要だ。
( 井戸メンテは町内会で管理......
トイレは......やはり衛生専門部隊じゃないと……ダメかな?
いずれにせよ、今回は外部との連携が鍵か...... )
そんなことを書いたり、考えながら、
アハルの夜が過ぎていくのであった......
「 出来上がり、書庫に仕込むぜ、もう眠い、ゆえに字余り」




