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災厄の救世主が紡ぐ異世界黙示変生  作者: ポルゼ
双層都市・王都アークツルスの表と裏
48/48

囚われの王子と希望の少女

「何を、言っている……」


 フェンシェント王国の第二王子、マリコムは襲撃事件後に王城の自室へ戻り、安全のためにしばらく出ることを禁じられた。そして一夜を過ごし、朝になった頃、お付きの年老いた執事から衝撃の事実を告げられた。


「申し訳ございません、私も未だ信じられないのですが、ついに国は本格的に地下を制圧する道を選んだようです」


 マリコムは思わず顔を抑える。

 地下の扱いについては地上の王族でさえも表立って触れることは滅多にない。国民には地下に関する情報をほとんど与えず、一般人の立ち入りを厳格に管理している。

 そんな地下を制圧しに行くといい、更には国民に関する説明をトラリス教が行う。ここまで聞いてマリコムは最悪な状況を理解する。


「まさか、一気にそこまで踏み込むとは……この機会を狙っていたのか?」


 マリコムは自分の机の鍵がかけられている引き出しを開ける。その中から紙を取り出し、内容を確認する。

 そこには地下の裏社会組織である灰鴉団(アッシュクロウ)からの暗号、連絡が書かれていた。


「恐らく、私が地下勢力と繋がっていることもトラリス教や一部貴族の強硬派には勘づかれている。今回の事件も、邪魔な私を排除するためで、仮にうまく行かずともこれを口実に地下を制圧する理由が作れる」

「マリコム様……」

「エルドリクはどうしている?」

「王城内に滞在しています。どうやら制圧にはコスモプレトル騎士団副団長のドレイヴン・カルドール様が行かれるようです」

「そうだろうな。カルドールは強硬派だ。きっとエルドリクは様々な理由をつけられて実質的に拘束されているのだろう。カルドールら騎士団の地上勢力とトラリス教、一部貴族……この辺りが結束してとうとう動き出したということか」

 

 地下制圧が正式の行われ、本当に制圧されてしまったらもうマリコムの目標である地上と地下の健全な関係の構築、共生が不可能になる。

 このことは王城内でもほんの一部の人間しか知らない。


「その上、私の周辺状況は最悪。昨日の事件のせいでまともに外には出してもらえないだろうし、私が会議に参加できないよう何も知らせずに夜に行い、地下の制圧が決定された……。最早、私の王族としての権限を持ってしても、作戦を止めることはできないだろう」


 今更マリコムが動いたところでどうしようもできない状況になっている。そしてそれは仕組まれたことだと簡単に予想できる。

 四面楚歌とまではいかずとも、進路も退路も封じ込まれた今のマリコムに協力してくれるような有力な人間は滅多にいないだろう。


「結局、私ではこの国を変えることはできなかったか……」


 マリコムは顔を伏せ、自分の無力さを噛み締める。

 王族は皆、地下へ行ったことがある。マリコムも例外でなく、正式に地下へ行ったことも秘密裏に行ったこともあった。最初こそ、マリコムにも多少の偏見はあったが、それでも地下の住民は自分達と変わらない普通の人間であることを知っているのだ。

 マリコムの失意を前に、執事は悲しそうな顔をするが、他の可能性はないのかを尋ねる。


「マリコム様、灰影主(はいえいしゅ)からの連絡は?」

「いや、ない。だからこそ今回の事件には本当に驚いた。仮にこれから連絡があったとしても、この状況を打破できるとはとても思えないがな」

「そうでしたか。それと……更に悪い予想、いえ、これはまだ確定ではありませんが……」

「なんだ。もう今更もったいぶる必要はない。教えてくれ」

  

 執事は少し躊躇った後、話し始めた。


「恐らく、地下制圧作戦が上手くいってもいかなくても、マリコム様は調査もとい尋問を受けることになります」


 マリコムはそれを聞いてすぐに察する。というより、予期していたことだった。


「ああ、最悪私は罪人になるだろうな。秘密裏に地下と繋がり、国家転覆を企んだ……なんて見出しの記事を書かれることになるかもしれん。いや、むしろ強硬派が私を完全に排除する機会を逃すはずがない。この部屋も私も散々調べられ、仮に何も見つからずとも証拠は捏造されるだろう。つまり、私の命運は既に決まったも同然だ」

「マリコム様、最終手段として、国を脱出することも……」

「……フェンシェント王国の王族として生まれておきながら、国を捨てることを選択肢に入れなければならないとはな。もしも平民に生まれていれば、私は地上も地下もそこまで深く考えず、普通に日々を生きていたのだろう」

「脱出については私の方で手配をしておきます。勿論、使わずに済むことが理想ですが……」


 二人の顔色は悪い。自分達の置かれている状況を鑑みれば当然だ。今回の事件とこれから起きることは確実に歴史に刻まれるだろう。

 しかし、正しく刻まれるかは甚だ疑問の残るところではある。

 

「大国であれ小国であれ、結局権力と金と見栄……そして恐れ、か……」

「人間の本質でもあると言えますね」

「そうだな。高度な知性を持っていても、そういうところはきっとこの先も変わらないのだろう。そして、国を動かすような人間の勝手で一番皺寄せを喰らうのは民だ」


 マリコムはそのまま少し黙っていた。これからのこと、この先の国のこと、諦めがついたようでつかない。

 何かしたいが、現状のマリコムを取り巻く環境では何もできない。しかし、何もしないでこのまま待つというのはマリコムの性分では無かった。

 現実的には何もできず、下手に動くことが逆に状況を悪くすることすらあり得る。


「クソっ……!」


 マリコムはこの短い間に何度も経験した自身の無力さを再び味わっていた。

 豪華で広い自室の中、暗い顔で俯くことしかできなかった。



 **



「冒険者協会に行ってみよう……!」


 騎士団の拘束から逃げ出し、情報収集のためにも冒険者協会へ向かうハーリアは、状況の深刻さを噛み締めていた。

 こうしている間にも国民には地下についての話が広まっている。ハーリアがいた大教会前の人々は多少なりともハーリアの質問によって疑問を抱いたりしてくれたかもしれないが、それ以外のところではそうはいかない。

 しかし、だからといってハーリアにできることは非常に限られている。

 冒険者協会に近づくにつれ、ハーリアには少しの懸念が生まれていた。


(待って、本当に冒険者協会は安全なの? 流石にさっき拘束されたばかりだからまだ伝わってないと思うけど、後に私という拘束対象が逃げ出したことが報告されて、指名手配みたいになるかもしれない。そうなったら、私がこの時間に冒険者協会へ訪れたことも情報提供されるはず。それは……いやでも……どうしよう)


 冒険者協会を目前にしてハーリアは二の足を踏んでしまう。しかし、このまま他に行けるところが特に思いつかないため、単純に端の方から目立たないように入り、目立たないように情報収集して出ようという結論を出した。

 そろりと冒険者協会に入るハーリアだが、意外と中の雰囲気は落ち着いており、冒険者達が依頼をこなす上でイレギュラーの発生という状況に慣れている故かと感心した。

 まずは近くの冒険者達の話に耳を傾ける。現在の大変な事態について色々と話してはいるが、比較的中立的な立場を取っていると思われる冒険者が多いというのがハーリアの印象だった。


(やっぱり、冒険者は自分の拠点とする国や街はあっても、自由に世界を移動することも多い。国の内政や政策には極力関わらない人も少なくない。彼らなら、自分の思想をあまり入れずに現状を冷静に分析しているかも)

 

 そこで聞こえたきた話の中で、一つ気になる話があった。

 それは、第二王子であるマリコムについての話であり、彼は他の王族や貴族と違い、地下に対しての姿勢が柔らかく感じるとのことだった。

 更に、地下について色々と前向きな検討をしているのを言葉の節々から感じ取れるとのことである。

 そう考えると、地下との関係を良くしようとするマリコムを邪魔だと思う勢力が排除しようとして例の事件を起こしたと繋げることはできる。

 だが、ハーリアからすれば、仮にマリコムが地下寄りの人物だとしても、一体全体どうやってコンタクトを取ればいいのかさっぱりである。

 相手は王族であり、真正面から会いに行ったところで会えるはずもない。

 そしてこのまま冒険者協会に滞在するのはリスクがある。ハーリアは仕方がないとため息をつき、ひとまず協会を出ようとした時だった。


「……!」


 冒険者協会の入り口付近にハーリアを騎士団の宿舎から出した女性の騎士団員がいた。

 明らかに走ってきたことが分かる様相で、ハーリアの顔を見るなり近づいてきて、人気のない建物の影に移動した。


「ハーリアさん! ここにいましたか」

「え、どうしたんですか? 出て大丈夫なんですか?」

「いえ、もうそういう話をしている場合ではありません。既に地下勢力側の騎士団は落とされたも同然です。エルドリク団長の解放も叶いそうにありません。このまま私たちは本格的に身動きが取れなくなります。なので、私以外にも何人か、急いで宿舎や騎士団本部から逃げ出しました」


 切羽詰まった表情でそう話され、ハーリアは少し動揺するが落ち着いて状況を聞く。


「分かりました。ですが、実は私……」

「もしかして、目を付けられましたか?」

「はい……すみません。時間稼ぎや民衆に疑念を持たせようと思って色々……」

「そうでしたか。ですが、最早それを責めることなどしません。とにかく、今は共に行ってほしいところがあるのです」

「それは?」


 これからの行動指針に迷っていたハーリアからすれば、共に行動できるのは心強い。


「王城です」

「王城って……まさか」


 つい先ほど冒険者達の話から分かったマリコム王子の態度や思想がここでリンクする。


「既に知っているようですね。そうです。マリコム王子はこちら側についているお方です」

「ついているって、明確に地下勢力と手を組んでいるってことですか?」

「そうです。エルドリク団長はよく暗号などで地下とマリコム王子を繋いでいたりしました。これまで慎重に慎重に水面下で動いてきましたが、その繋がりが今も地上勢力に見つけられていないと断言することはできません。しかし、もう私達の頼れる人は王子くらいです」


 大国の第二王子となればその権力は大きい。しかし、そのような立場にいるからこそ、こういった事態に身動きが取れなくなってしまうことがあるのではないかとハーリアは考えた。

 

「ですが、本当に今頼って助けてくれるのですか?」

「分かりません、今や王城は悪魔の根城のようなものです。もしかしたら既にマリコム王子は地下勢力との繋がりを見つけられてしまい、こちらを助けるどころではなくなっているかもしれません。しかし、それでもやるだけやってみないと……」


 マリコムに頼ることもできないとした場合、いよいよできることがなくなってしまうため、ハーリアはリスクを考慮しながらも頷いた。


「分かりました。ただ、私は騎士団の拘束から逃げ出してきた身です。基本的には隠れながら行くしかないですし、何より王城に潜入するということですよね? その上マリコム王子のいるところまで行かなくてはならないとなると、困難なのでは?」

「その通りですが、今は地上勢力側の騎士団も慌ただしくしており、人員不足な部分も必ずあるでしょう。王城の護衛や見張りが相変わらず沢山いるとは思いますが、いつも以上に増員したりはできないはず。それこそ、地下侵攻に人を割かないといけませんから」

「それであれば行けるんですか?」

「はい、私はマリコム王子の元へ行くためのルートを知っています。念の為、ここでハーリアさんにも伝えておきますので、覚えてください」


 それからルートを教えてもらい、なんとか覚えていく。


「それでは、行きましょう……待ってください!」


 早々に向かおうとしたところで急にストップをかけられた。

 目線の先には、一人の騎士団員がいた。


「まさか、地上勢力の?」

「はい、私かハーリアさんのどちらかを探しに来たのでしょう。見つかったら捕まえられます。迂回して行きましょう」


 フェンシェント王国の王都であるアークツルスの冒険者協会は非常に大きい。迂回すれば流石にその騎士団員には気づかれない。

 しかし、なるべく息を潜め、隠れるように移動する二人が建物の角を曲がった時、別の騎士団員が立っていた。


「っ……!」

「見つけたぞ! お前達、無駄な抵抗はせずに大人しくするんだ」


 探しに来たのは一人ではなかったということである。

 ただでさえ人員不足の中でも捜索に人員を割くのには理由がある。


(私達は地下の真実を知っている。だから、私達が自棄になったように真実を大声で民衆に伝えていったとしたら困るんだ。勿論、すぐに信じる人はほとんどいないだろうけど、それでもその話が民衆の中の噂程度でも広がったら地上勢力にとっては都合が悪い。真実は秘匿しないといけないとしているから……)

 

 噂は恐ろしいもので、根も葉もなくともそれを知っているだけで瞬く間に広がっていく。ただその中で様々な尾ひれがつくものだが、噂を疑わずに信じてしまう人もいる。

 それが地上勢力にどのような影響を及ぼすかは分からないが、それでもリスクにはなり得る。


「……ハーリアさん、行ってください」

「え?」


 その女性騎士団員はハーリアを王城へ向かわせようとしている。


「正直、今の私は貴方よりも身動きが取れません。そして、何かを打破するには今の状況のような、予想していなかったイレギュラーが必要になると思います。私は、それが貴方ではないかと思っています」


 剣を抜き、構える。その目には確かな覚悟が宿っていた。


「い、いやでも、私本当に行ったことないですし、一応ルートは覚えましたけど……」

「それでもです。早く」

「いや、私が行ったところで何もできませんよ!」

「ハーリアさんは騎士団員ではなく、普通のシェンシェント王国民です。彼は国民の言葉をしっかり聞くお方。私よりも、貴方の真摯な言葉の方が刺さる」


 ハーリアはそれでも迷っている。本当に自分がやれるのか、任された役割は非常に重い上にリスクも大きい。


「おい、剣を下ろせ。こんな街中でまさか戦うつもりか? 騎士団員なら国民に被害が及ぶ可能性のある戦闘は避けるべきだ」


 相手の騎士団員も剣を抜き、戦う姿勢を見せる。

 冒険者協会は常に賑わっているため、周囲にも人がおり、段々と視線を集まっていく。


「早く、行ってください」

「……はい!」


 もう何を行ってもこの人は動かないであろうことを察し、ハーリアは覚悟を決めて一人で逃げ始めた。

 相手の騎士団員は逃げて行くハーリアを追おうとするが、それを女性の騎士団員が阻む。


「まさか、本当にここで戦うつもりか?」

「当然。それに、いいの? 私は最早騒ぎにでもなってくれた方がいいけど、貴方は困るのでは?」

「……構わない。今はそれよりも優先すべきことがある。騒ぎに気づいた仲間がすぐに来るだろう。お前は終わりだ」

「それこそ分かりきっている。でも、彼女は追わせない!」


 二人の突然始まった戦闘に周囲の人々は驚きながら距離を取る。逆に、大きい騒ぎになるにつれて人々は距離を取りながらも集まっていく。

 そのおかげで民衆の壁ができ、ハーリアは余裕を持ってその場から逃げ出すことに成功した。


(どうしよう、ちゃんと潜入できるのかな。王城で潜入したことがバレたら、最悪極刑? 誰かが助けてくれる? でも、ここでやめてどこかに逃げる? どうしよう、どうしよう……)


 ハーリアは覚悟を決めたとはいえ、頭はパニック状態だった。

 とにかく今は目的を達成することにだけに頭を使うようにし、余計な思考を捨て去ろうと努力した。


(もし、もし見つかった時のために言い訳は考えておこう。王子に会えたら……何を、何を話そう。真摯に、思っていることを話せばいいの? 本当に? 腹の探り合いなんて私には無理だし、もうまともに話を聞いてくれることに賭けるしか……)


 思考がブレていることを自覚しつつ、ハーリアは自分の身体能力を活かしてほぼ全速力で王城に向かう。

 そして王城に辿り着き、言われた潜入ルートを探す。

 すると案外すんなりと王城の敷地内には潜入でき、その後王城内に入ることができた。


「本当に入れた……」


 想像以上に上手くいったことに驚きつつ、これならいけると自信がついたハーリアは冷静になれていた。

 しかし、当然の如く見張りは多い。時間をかけたくはないが、焦っても見つかるリスクが高まるだけである。

 ハーリアは段々と湧き出る焦りを感じつつ、慎重に進んでいく。

 

「おい! お前、何をしている!」

「きゃっ……!」


 周囲を満遍なく注意していたつもりだったが、近くに来ていた見張りにハーリアは気づけていなかった。

 一瞬、神法で気絶させることも考えるが、王城内で神法の使用は許可が必要であり、より罪を重くするだけである。

 できる限り穏便に済ますため、言い訳を話そうとする。


「あ、えっと、私、騎士団員の方に王城で仕事をしている人に手紙を届けるよう言われていて……」

「手紙? では何故隠れるようにそこにいたんだ。正式な手続きをしていれば、堂々と真正面から入ってこれた」

「いや、その、今は国が緊急事態で、正式な手続きがなされてなくて……」

「であれば正式な手続きが再開されるまで待つべきだろう。というより、それは潜入を認めたということでいいな?」


 その見張りは拘束器具を取り出す。完全に侵入者として決め付けられている。

 ハーリアは言葉選びを間違えたことを悔やみつつ、どうするか必死に考える。


「さぁ、大人しくしろ。下手なことをすると罪が重くなるぞ」

「……ごめんなさい!」


 ハーリアは急に走り出した。

 見張りはまさかここから逃げるとは思わなかったのか、少しの間固まっていたが、すぐに追うために走り出す。


「おい! 止まれ!」


 見張りの忠告を聞かずにハーリアは走る。

 だが、身体能力に差があるため、ハーリアはどんどん距離を離していく。ただ、隠れずに王城内の廊下を走っているため他の見張りや護衛に見つかっていく。


「待て!」

「ごめんなさい、本当に一瞬で帰りますんで! ちょっと話したい人がいるだけです!」

「そういう問題じゃない!」


 とにかく悪意はないことを示しつつハーリアは走る。

 教えてもらったルートを通ればマリコムの自室に着くことになっている。だが、既にルートは外れてしまっており、ハーリアはなんとか軌道修正を図りながら走る。


「侵入者だ! 追え!」

「あ、あの、王子と! マリコム王子と話をする約束をしてるんです!」

「出鱈目を言うな!」

「本当なんです!」


 名前を出すのは危険であることを承知しつつ、マリコムとの約束があるということにしてみたが、当然信じる者など誰もいない。

 そしてなんとか逃げながらマリコム王子の部屋の前にまで辿り着いた。だが、ハーリアを追ってきた見張りや護衛に後ろを塞がれる。


「そこはマリコム王子のお部屋だ。今すぐそこから離れろ。さもなくば王子の命を狙う賊として捕えられ、最悪極刑になるぞ」

「いや、本当に、その……」

「早くこちらへ来い。なるべく罪は軽くしたいだろう」

「……」


 ハーリアは一か八か、本人がいるかも分からないマリコムの部屋に入ってみようとして扉に手をかける。

 その時だった。


「何の騒ぎでしょうか」


 扉が音を立てて開き、執事が出てきた。


「その者が王城に侵入し、マリコム王子との約束があるなどと適当なことを言っていて……」

「何?」


 すると執事の横からマリコム本人が出てきた。


「王子! 危険です、すぐに離れてください!」

「……」


 そう言われてマリコムはハーリアを見る。

 ハーリアは怯えてはいるが、その目にはマリコムの姿を見つけたことによる喜びが感じられた。

 そして、ハーリアは小さく呟いた。


「地下、団長……」

「!」


 その単語を聞き、マリコムは追ってきた見張りと護衛達に言う。


「すまない、彼女は本当に私が約束していた客人だ」

「はっ!? え、いや……」

「本当にすまない。状況が状況だけに、正式な手続きを踏めなかったものでな。彼女には申し訳ないことをした」

「……では、本当に?」

「そうだ。せめて見張りや護衛の君達には彼女の来訪を伝えておくべきだったな。本当にすまない。私もいっぱいいっぱいでな……」


 王子にそう言われては、見張りや護衛は納得する他ない。

 渋々といった感じではあるが、執事が色々と説明を付け足して見張りや護衛は帰っていった。


「さぁ、入ってくれ。そして、話を聞かせてくれ」


 マリコムの真剣な眼差しに緊張しつつ、ハーリアは頷いて部屋に入った。


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