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災厄の救世主が紡ぐ異世界黙示変生  作者: ポルゼ
双層都市・王都アークツルスの表と裏
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嘘もまた真実

 第二王子殺害未遂事件の翌日。ハーリアは騎士団本部近くの団員用宿舎の一部屋を借り、朝を迎えていた。

 カーテンを開けて外を見てみると、普通に歩いている人達がいる。

 大きな事件があったとはいえ、それで誰もが仕事を中断してしまえば途端に国は機能を停止してしまい、捜査どころではなくなる。

 そんな忙しない人達を見てハーリアは気合を入れ直す。これから国は更なる混乱へ足を踏み入れる可能性が高い。 ただでさえ圧倒的不利な地下勢力がどう立ち回り、どう戦っていけば地上に出て来れるのか、よく考えなければならない。

 ハーリアは翌日の朝に迎えが行くまでは部屋を出ないでくれと言われていた。それは騎士団内部の地上勢力側の団員に見つかることに伴うリスクを嫌ったことが理由である。

 有名なコスモプレトル騎士団というだけあり、潤沢な資金を注ぎこまれて作られた宿舎はとても質が高く、室内に綺麗なトイレや浴室が全て完備されている。

 そのため宿舎で過ごす分にはただただ快適であり、特に苦はない。

 ただし、それは通常時の場合に限られる。


(メリアスはセリカを見つけられたかな。もし見つけられていなかったらセリカはどこに行ったんだろう……。それに、メリアスもこの国について更に深く探っていくみたいだったけど、本当に大丈夫かな。私はまだ騎士団員が周辺にいるからまだいいけど、二人は何かあった時に助けを求められる先が少ないはず)


 睡眠をとって頭が整理されたハーリアは迎えがくるまでの間、冷静に状況を考えていた。

 しかし、朝とは言えないくらいの時間になっても一向に迎えが来ない。騎士団が例の事件もあって忙しいのは当然だが、地下勢力側の助けとなるハーリアの存在を忘れることは考えにくい。

 何か予期せぬ事態が発生し、ハーリアを迎えに行く余裕もない状況。そんな悪い想像がハーリアの頭をよぎるが、困ったことにそういった想像は実際に起こったりするものだ。


「ハーリアさん!」


 ノックと共に小声で呼びかてくる声が聞こえてきた。

 ハーリアは急いで扉を開ける。


「すみません、迎えが遅くなってしまいました」


 そこには女性の騎士団員がいた。


「いえ、大丈夫です。何かありましたか?」

「大変なことになりました。ここだとあれなので、中でお話ししても?」

「はい、どうぞ」


 ハーリアの部屋に入り、女性騎士団員は状況を単刀直入に話し始めた。


「実は、コスモプレトル騎士団による、地下侵攻が正式に決定しました」

「え!?」


 地上勢力は地下への干渉や深入りを禁止し、厳格に管理している。 

 しかし、正式に地下侵攻を行うとなると、これまで国の上層部が禁忌としてきた地下についての真実、そして地下侵攻に関して皆が納得する説明をしなくてはならない。


「昨日の夜に行われていた会議で決まったのですか?」

「はい。そこで決定し、これから国民に向けてまずトラリス教が説明を行うようです」

「トラリス教が?」

「そうです。まだ騎士団にも話が来たばかりで詳細は確認中ですが、どうやらそういう流れのようです」


 これは地下勢力の騎士団員からすると今後の作戦を大幅に変えざるを得ない状況である。

 それどころか、地下勢力の野望を叩き潰し、これまで長い時間をかけて進めてきたであろう様々な作戦が無に帰す可能性すらある。

 故に、団員は冷静に説明をしているように見えるが、焦りが滲み出ていた。


「それで、これからどうするのですか?」


 今後の行動方針を尋ねると、団員はなんとも言えない顔をする。


「すみません、突然のことだったのでこちらも話がまとまっておらず……」

「エルドリク団長からこういう時にどう動くべきか聞いていたりは?」

「勿論、不測の事態が発生した際の緊急行動については聞いていますし、騎士団の正式なマニュアルもあります。しかし、今は肝心の団長がいないだけでなく、マニュアルに沿って動くのが正解とも思えない大混乱状態ですので……」


 安易に動くことができない状況ではあるが、それでも行動しなければ何もかも手遅れになる。話がまとまらないなどと言って立ち止まっている場合ではない。

 エルドリクが騎士団の団長であり、地下勢力の中でもトップかそこに近い位置にいるであろう人間である故か、エルドリクに依存しすぎているところがあるのかもしれないと、ハーリアは冷静に分析する。


「しかし、地上勢力の騎士団員は特に躊躇いなく地下侵攻の命令に従うでしょう。なのに命令に従うか迷い、躊躇っている団員がいれば地下勢力の人間だと言っているようなものでは? 今は毅然とした態度で命令に従うフリをし、地下へ行くしかないのでは……」

「その通りです。なので一旦命令に従おうとしていますが、全員が行く訳にもいきません。色々と裏で手を回す必要がありますし、エルドリク団長とも話さないといけません。しかし、既に王城は緊急封鎖され、地下勢力の騎士団員はほとんど当たりを付けられているのか、トラリス教や地上勢力の団員がこちらを見張っているようなのです」


 例の事件が発生してから団員内の地下勢力の人間を探し当てたのか、元から当たりを付けられていたのかは不明だが、どちらにせよエルドリク団長を実質的に王城に拘束し、地下勢力の人間に有無を言わさず地下侵攻を実行するシナリオを描いた誰か、もしくは組織がいる。

 地下勢力側からすればその相手を探し出したいところだが、そんなところに手を出せる状況ではない。

 つまり、状況が最悪に近いことは分かりきった厳しい現実なのである。 

 だが、ハーリアは直接状況を目にした訳ではないからか、目の前の団員ほど深刻な表情ではない。


「すみませんが、一度外に出て街を見てもいいですか?」

「外にですか? しかし、今は……」

「混乱の最中かもしれませんが、だからこそ状況をこの目で見たいです。特に私は騎士団員ではありませんし、地上勢力側にバレてはいないはず……。仮にバレていて怪しまれていたとしても、地下勢力の団員さんほど厳しくは見られていないのでは?」

「それは……そうかもしれませんが」

「今こそ、私のような突発的に湧いて出た存在が役に立つかもしれません」


 これまでハーリアは国の真実を知り、地下勢力に協力すると決めただけで、まだ実際には何もしていない。

 側には世莉架もメリアスもいない。それぞれが今必要な何かをしているのだとすれば、自分もリスクは承知で勇気を持って動くべきだと、強く思っているのだ。


「……分かりました。少しお待ちください。宿舎の正門から出す訳にはいかないので、目立たないところから出てもらいます」

「ありがとうございます」


 それからその団員は部屋を出て少し経った頃、話を済ませてきたのか戻ってきた。そしてハーリアを慎重に部屋から連れ出し、外へ向かう。

 宿舎を出て草木の覆われた小さく目立たない庭のようなところの奥に、人が一人出られるくらいの小さい扉があり、ハーリアはそこから出た。

 

「すみません、本当はこちらから誰かを同行させたかったのですが、外で地下勢力の人間としてマークされている団員と一緒にいるところを地上勢力側に見れらたりしたら貴方のアドバンテージが失われてしまいます。なので……」

「大丈夫です。分かっていますから」

「そうですか……。でも、もし本当に危険だと思ったら迷わずこの件からは手を引いてください。戦闘の実力が高かろうと、ついこの前まで真実を知らなかった一般人をこんなことに巻き込むのは、国民を守る騎士団がやってはいけないことですから……」


 その団員は申し訳なさそうな顔で言う。しかし、ハーリアは気にしていない。エルドリクに誘われたからではあるが、その申し出に頷いたのは他でもないハーリア自身である。


「いえ、フェンシェント王国は私の母国ですので、私達は同郷の仲間です。仲間は助けないと」

「……ありがとうございます」


 そうして二人は別れ、ハーリアは小さい道を歩き始めた。

 街の雰囲気が普段と異なることをすぐに察する。人々の焦燥か困惑か不安か、或いは全てか。あまり良くない感情が渦巻いているのを感覚的に察した。


(今回外出を許されたのは二時間程度。その間に状況をより詳しく把握しないと……)


 ハーリアは足早に進んでいく。周囲を歩く人々は色々な話をしているが、その中でトラリス教の大教会へ向かおうとする声が聞こえてきた。

 

(大教会前でトラリス教が国民に説明するのかな。それにしても、なんで王様やそこに近い人ではなく、トラリス教が説明するんだろう。確かに、トラリス教の持つ権力や影響力は大きいし、昨日の事件も大教会前で起きたから説明する人の中にトラリス教の人がいるのは理解できる)


 ハーリアはトラリス教が表立って地下侵攻について話すことに疑問を覚える。事件の規模的にも、国のトップである王が出るべきだと思ったのだ。

 とはいえ、トラリス教も世界一の最大宗教。巨大な力を持っていることもまた確かである。

 やがてハーリアは大教会前に到着する。そこには大量の人がおり、これから行われる先日の事件についてや今後のことに関して話を聞きに来ているのだ。

 

(つい昨日事件があった場所なのにこれだけ多くの人が来るなんて。それにまだまだ集まってくる。やっぱり気になるよね)


 ハーリアが周囲を観察していると、一つ気になる点を見つけた。


(大教会近くの地下への出入り口……いつものように厳重に管理されているのは変わらないけど、なんだか普段の様子と違う気がする。まさか、あそこから地下侵攻を……?)


 地下への出入り口を気にしつつ話が始まるのを待っていると、やがて人混みの前の方がざわつき始めた。


「皆さん、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 すると、声が大教会前全体に響いた。それには声を大きく響かせる汎用神法が使われており、ハーリアの耳にもよく届く。

 そこで話しているのは一人のトラリス教の信者である。


「皆さんご存知いただいているとは思いますが、私はフェンシェント王国におけるトラリス教の大司教、オルデリオン・ヴァルティスです」


 その人物は大司教だった。トラリス教の総本山はフェンシェント王国ではないため、教皇や枢機卿はたまにしか訪れず、今は不在である。

 つまり、現状のフェンシェント王国におけるトラリス教のトップである。

 オルデリオンはところどころに白髪が見えるような壮年の男性であり、真面目な表情だが落ち着いた声で優しく話す。これまで精力的にいち信者として活動してきただけでなく、多くの人々を助けるため積極的に動いたり話を聞いたりしており、物腰の柔らかい人格者として有名である。

 

「昨日、ここで行われた事件について、多くの方が不安に思われていることでしょう。まさか、トラリス教の大教会前であんな凶悪で恐ろしい事件が発生するなど……。皆さんの祈りの場であり、神聖な場であり、憩いの場でもあるこの場所であのような事件が起きてしまったこと、大変申し訳なく思っています」


 オルデリオンの声は非常に厳格で、聞いている民衆も真面目な表情だ。


「更に、今回襲撃にあったのが第二王子というところも大きな問題です。国の王子を白昼堂々襲撃し、しかもそれを大教会前で起こす。これほど国とトラリス教が馬鹿にされる事件など過去にありません」


 語気が少し強まる。

 ハーリアは、このまま犯人を捕まえるために全力を尽くすだとか、民衆の心のケアをするだとか、もう二度とこういったことが起きないよう管理や護衛をしっかりするだとか、そういう話で終わってくれればいいと思っていた。


「そこで、我々はついに決めたのです。今までは慎重に扱ってきたために皆さんに詳細を説明することができませんでした。しかし、それであのような事件が起きてしまうのであれば、もう躊躇っている場合ではありません」


 この時点でハーリアは察しがついた。騎士団員から聞いたのだから当然分かっていたが、それでも実際に自分の耳で聞くまでは完全には信じていなかった。


「そう、皆さんもずっと疑問に思われていたこと……それは、アークツルスの地下についてです」


 周囲は大きくざわめく。実際には地下に関係することなのではと察していた人も多いだろう。しかし、その予想が当たっただけでなく、トラリス教の大司教が言及しようとしているのだ。

 これには大スクープだとでも言わんばかりに記者らしき人物が忙しそうにしている。


「皆さんはアークツルスの地下について、学校で教わってきたことと思います。子供達は大人にもっと詳しく聞いても、その大人が教科書以上のことを知らないため詳しく話すことができない。そんな経験がある方も多いと思います」


 ハーリア自身、幼い頃にこの疑問を両親に伝えたことはあるが、やはり教科書以上の答えは返ってこなかった。


「ああ、ご安心ください。教科書に書いてあることが全て嘘という訳ではありません。しかし、全ての真実が記されている訳でもありませんし、表現を工夫することで誤魔化している部分もあります。今回、世間に公表されていなかった地下の真実と、事件の真犯人についてお話しします」


 ここで地下は悪くない、という話になることはあり得ない。ハーリアはそう思い、もっと近くで見ようと民衆を押しのけて前へ進んでいく。


(このまま地下が全て悪いことにされるとこれまで何も知らなかった民衆すら敵になり、地上に潜む地下勢力は動きづらくなる。ただでさえ、エルドリク団長ら地下勢力の騎士団員が動けない状態だというのに……)


 何か手はないかと必死に思考を巡らせる。民衆が沢山集まっており、騎士団員も多く配置されているこの場でオルデリオンの話を邪魔するために神法を使うのはあまりにリスキーであるし、こんな状況で敵判定されるのは最悪だ。


(民意は強い。国の偉い人達がどれだけ鎮静化を図っても、巨大な民意には勝てない。これからされる話を聞いて地下へ向けられる民衆の感情が悪いものであると、もう地下を押し込める地上の勢力を打倒したところで地上に居場所はない)


 これは実質的な地下勢力の処刑である。地下についての話が民衆へ伝わり、地下侵攻が成功してしまったら、フェンシェント王国にとって色々な意味で歴史的な日になることだろう。

 

「教科書にはこう書いてあります。かつてこの国で起きた二人の王による兄弟戦争後、敗北した弟は遠くの領地に飛ばされた。勝者である兄は今後内紛が起きないように、また他国からの侵略などにも備えて主に軍事的用途のために地下を整備した。そして、そこは一般人には入れないように封じた」


 ここまではフェンシェント王国民であれば誰でも知っている話である。


「しかし、事実は異なります。敗北した弟は自分の側近を連れて地下へ逃げたのです。戦争後でお互いに疲弊したとはいえ、強力な力を抱える弟の勢力に対し、兄は安易には手を出せず、地上に出てこれないよう封じることにしたのです。そして、現代においても、地下には弟の血筋が残っているのです。いつの日か、また地上に出るために社会の闇の部分で密かに活動し、地上と地下の関係をひっくり返そうとしているのです!」


 周囲のざわめきはより大きくなる。ここまででも地下が敵であるように認識し始めている人達がどんどん増えていることだろう。


「ひっくり返す、というのは地上に住む我々に戦争を仕掛け、襲い奪い虐殺し、逆に我々を地下へ追い込むという意味です。そして空いた地上は彼らが占領するという算段なのです。昨日の事件、あれは地下の恐ろしい人間達がついに我々を追い詰めるために動き出したことを示しており、あれでさえ序章に過ぎません。地下に潜む恐ろしい闇、それがついに表に出てきたのです!」


 話を聞いて混乱する民衆にじっくり思考させないためか、オルデリオンは間を置かずに話す。


「故に、我々は決めたのです。もう地下への出入り口を管理するだけでは足りない。こちらから攻め入り、この長い長い因縁に決着をつけ、真の平和をもたらさないといけないと! これからコスモプレトル騎士団が地下へ向かい、地下を制圧します!」

 

 依然として混乱が渦巻く状況だが、ハーリアの周りの人々はオルデリオンを支持するような話をしている。

 やはり、国民のほとんどがトラリス教の信者である上、有名で非常に信頼され尊敬されている大司教の言うことは疑うよりまず信じてしまうのだろう。

 だが、ハーリアは少しでもこの空気を変え、せめて地下侵攻までの時間稼ぎをしないといけないと考え、勇気を振り絞った。


「す、すみません! 質問いいですか!」

「!」


 ハーリアは自らの声を大きく響かせる汎用神法を使い、オルデリオンに質問を投げかけたのだ。

 相変わらずざわめきつつも、周囲の目がハーリアへ向く。


「君は?」

「わ、私はただの冒険者です。あの、昨日の事件ですが、本当に地下に住む人達が起こしたことなのでしょうか」

「当然です。彼らがいよいよ地上に出てこようとしている。本当に危険な状態です」


 オルデリオンはそんなの当たり前だろうと言った態度で言葉を返してくる。


「その証拠はあるのですか?」

「証拠?」

「犯人を断定するには証拠が必要です。証拠がなければただの憶測に過ぎず、事実とは異なる可能性があります。地下の住人がやったという証拠はないのですか?」


 証拠の提示を求められ、オルデリオンの目が少し細められた。


「申し訳ありませんが、証拠や詳細な調査内容は基本的にお話しすることはできません。ですが、地下の住人が犯人であるということは変えることのできない事実であります」

「では何故これまで地下の真実を隠していたのでしょうか。国民に真実を話していればもっと上手く対処ができたかもしれないですし、友好的な関係を築くことも……」


 そこまでハーリアが喋ったところでオルデリオンが言葉を被せてきた。


「友好的な関係? それは不可能です。彼らは普通に生きていれば一生関わることのないような、薄暗く汚い世界で生きる裏の住人です。危険極まりない存在であり、友好的な姿勢を見せて歩み寄れば喉を掻っ切られてしまうでしょう」


 これまでよりも強い語気で言葉を返されるが、ハーリアは怯まず続ける。


「これまでに地上側が友好的な姿勢を見せて歩み寄ろうとしたことがあるのですか? それで裏切られたことがあると?」

「ええ、昔の話ですので私も詳しくは知りませんが……」

「その昔の話について知っている限りのことをお聞きしてもよろしいでしょうか。また、地下のことをほとんど知らなかった私達一般人には、今話を聞いたばかりなのにすぐ悪だと断定することはできません。我々と同じ人間で同じ国の民なのであれば、実際に話をしたり交流をしてみないと……」


 話を色々な方向へ伸ばし、時間を稼ぐという目的以外にもこれらの質問には意味があった。


(皆すごく混乱している。けど、こうやって色々な質問をして追求すれば冷静になって疑問を抱く人が出てくるはず。大司教様の言うことだから信じてしまう心に少しでも疑念を含ませることができれば、皆が同調して地下侵攻を支持する状況は避けられる……かも)


 どれほど効果があるのかなど分からないが、それでも足掻くことを諦めてはならないと、そう信じてハーリアは質問を続けていくことに決めた。

 しかし、それは相手がこちらの話を聞くつもりであればの話である。


「申し訳ありませんが、君一人の質問に長々と時間をかける訳にはいきません。後ほどほんの少しではありますが質疑応答の時間を取るつもりです。その時にまた、質問いただければ私の答えられる範囲でお答えしましょう」

「っ……」


 オルデリオンはこれ以上ハーリアと話すべきではないと判断したのか、強制的に質問を断ち切った。

 これを無視して質問を繰り返そうものなら騎士団員につまみ出されることになるだろう。


「話を戻しますが、コスモプレトル騎士団により地下は確実に制圧できます。ですが、相手の力量がどれほどなのか正確に測れておらず、未知の力や危険な兵器を隠し持っているかもしれません。そのため、地上にいたとしても皆さんに被害が出る可能性がないとも言い切れません。ですから、地下侵攻が始まったら皆さんには建物の外に出ないで欲しいのです」


 地下侵攻時には外を出歩く一般人がいなくなる。つまり、その時間は地下勢力からしても有効な時間になり得ると言える。


(それなら地下侵攻時には今よりずっと動きやすくなってるかも。ただ、騎士団員はやっぱり自由には動けないよね。私がどうにかしてあげたいけど……)


 ハーリアが顎に手を当てて思案している間もオルデリオンの話は進んでいく。


「地下侵攻はおよそ二時間後の予定です。私はアークツルス内の他の教会にも行き、少しでも多くの人に話が伝わるよう急いで説明していくつもりですが、中には事情があって話を聞けない人もいるでしょう。ですのでどうか、この話を皆さんの周りの人や聞いてなかった人にも伝えてあげてください。これは、皆さんの身の安全のためです。どうか、お願いいたします!」


 少しでも多くの人に話を伝える。つまり、これを真実として国民に浸透させる。浸透するということは地下は悪であり、制圧すべきだという巨大な民意を作り上げるということである。

 国の運営において民意をまとめるのはとても大切なことではあるが、使い方や工夫一つで国民を悪い方向へコントロールすることもできてしまう。


(どうしよう、この話が国全体に広がりきってしまったら私なんかが疑問を呈したところで誰も聞いてくれなくなる……)

 

 今はまだハーリアの言葉に耳を貸す人も多いだろうが、浸透してからでは完全に手遅れである。しかし、現実的に考えて今のハーリア一人にできることなどたかが知れている。

 どうするべきか頭を悩ませていると、周囲の人々を押し退けて二人の騎士団員がやってきた。


「君、ちょっといいかな」

「え? 私ですか?」


 突然声をかけられて困惑するハーリアだが、騎士団員の纏う雰囲気からあまりいい展開にならないことを察した。


「さっきの君の質問、なんだか違和感を覚えた。まるで地下の真実を予め知っていたかのように感じた。申し訳ないが、騎士団本部へ行ってもらう」

「え……」

「こちらも神経質になっていることを理解してほしい。どこに地下の住民が潜んでいるか分からないんだ。怪しい人物は拘束させてもらうことにしている。勿論、疑いが晴れればすぐに解放するし謝罪もする」

「ま、待って……」

「さぁ、こちらへ」


 ハーリアの頬に冷や汗が落ちる。恐らく地上勢力の騎士団員に完全に怪しまれてしまった。

 元々二時間以内には騎士団本部に戻るよう言われていたが、地下側の人間かどうかを疑われた人物が地下勢力の騎士団員達と面会して話をすることはできないだろう。

 つまり、このまま連行される訳にはいかないのだ。

 

「今騎士団員の人手が足りないから俺達が連れて行くことはできない。けれど、頼むから変な真似はしないでくれ。そうなると君を本格的に拘束し、尋問を行わなければいけなくなる。最悪は投獄だぞ」

「あ、あの、私はその……」

「すまない、君にばかり時間は割けないんだ。おい、出してくれ」


 ハーリアは空いていた馬車に乗せられ、文句を言う暇もなくすぐに出発してしまった。

 人手が足りていないのは事実なのだろう。とても慌ただしく動いているのが後ろに見えた。


「……」


 ハーリアは考える。このまま騎士団本部へ向かい、拘束されるのは避けなければならない。

 騎士団本部ではなく、別の行く意味のある場所を考えるが、どこが良いのかなど分からない。

 しかし、このままではいけないことも確かだ。


(もう、やるしかない……!)


 ハーリアは動く馬車の扉に近寄り、なるべく周囲に人がいないタイミングを見計らう。

 そして人が減ったタイミングで扉を開けようとする。

 だが当然鍵がかかっているため、土の神法で扉を破壊して外へ飛び出る。


「あ、待て、おい!」

 

 馬車を引いていた騎士団用の御者がすぐに気づくが、ハーリアは御使師ならではの身体能力を発揮してすぐに道を駆け抜けて狭い路地裏に入り、追跡を撒くことに成功した。


「行くべき場所、行ける場所……そうだ、冒険者協会!」


 ハーリアはすっかり頭から抜けていた冒険者協会のことを思い出し、急いで向かった。


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