閑話 あるリモート会議にて
『最後につかまっているものは私が引導を渡すのでこれ以上情報がいかないようにする』
「以上が『忍者』が残したレコーダーに収められていたものとなります」
『研究者』の前には大型のモニターが設置されており、発言中の自分の顔が中央に映し出されていた。その右側には10人程度の顔が分割されて映し出されている。
「発言よろしいかね?」
発言を求めてきた男性を隣に控えている秘書が画面の中央に映し出す。
「それは本当に『忍者』出会ってるのかね?私たちの中でも直接会った者が居ないとの話だ。大体『忍者』は組織の名称ではないのかね?」
「彼に情報収集を任せたことのあるあなた方からすると、確かに1人の仕事では到底集めることのできない情報を集めてくる彼が1人だと思えないのも確かです。ですが、彼はダンジョン外でも身体能力を十全に発揮できるスキルを持っていましたので、あなた方の依頼を1つも断ることなく、失敗もなく完遂させることができたのです」
各政府がお互いに『忍者』に対して情報収集をお願いしていたため、筒抜けになっており、ダンジョンが現れてから国同士の直接的な戦闘が一切起きていない。それぞれに筒抜けなのを知っているのは『忍者』だけとなっており、各政府はこれからの情報戦を有利にするための方法に頭を悩まされていた。
「これから先、『忍者』に頼っていた情報収集が大変なのはわかりますが、今はそこより『忍者』ほどの隠密性に優れた者が見つかったことと、最後に『忍者』が残してくれたレコーダーに残されていた、警告のほうが大事です」
画面を切りかえて世界地図が表示される。
「最初にペルー、次に中華、そして今回のEUの失敗したことにより、残りはアフリカの『5-20オアシスの枯渇』というクエストです。すでにクエストには取り掛かっているため成功を祈るしかありませんが・・」
「そもそも、この『忍者』がレコーダーに残したことは確かなのか?このクエストに参加する1日前に失敗したペルーのダンジョンの情報を私たちより先に手に入れてるなんておかしいじゃないか」
許可も求めず発言した男性を慌てて画面の中央に映し出した時には発言が終わってしまっていた。
そのことに申し訳なさそうな顔を『研究者』に向けてきた秘書に対して手で制しした『研究者』は男の発言に答えた。
「正確といえるでしょう。破壊されたボディーカメラより復元中の映像に断片的ですが、このレコーダーの内容と合う部分を確認しております。また、『忍者』が1日前の情報をなぜ知っているかですが、それが本物の証明でしょう」
『研究者』が秘書に発言してきた男性を消して元の世界地図に戻すように指示を出すと話を戻した。
「過去に、Q型ダンジョンのクエストで行くことのできる世界はこの世界のように連続する世界ではなく、そのクエスト用に作られた世界だと認識されていた。だが、今回の失敗を繰り返している世界には連続性があることが分かったことにより、ほかのクエストでも連続性があるかどうかの確認をし直さなければならないが、今はそんなことよりも、この世界を認識した者たちが、失敗したクエストを布石として何かを起こそうとしているということのほうが重要である。それは、何かまでは判断材料が圧倒的に足りてないが、『神託者』の神託を受けた後の私たちに災いが降りかかることだけは確かとしか言いようがない」
『研究者』という異名がつけられているこの女性が、タダでこの異名を手に入れたわけではないことを十分理解している参加者は、これから『神託者』により宣言されたことが間近に迫る恐怖に言葉を失ってしまった。
ペルーから順番にクエストが失敗してきています。




