乳兄弟
大司祭バインは伯爵領を手にいれた。もともとあった自領からは飛び地であったため、自らは赴かず、生まれたばかりのシュバを領主代理として派遣することにした。
数日後、シュバは数人の聖騎士と使用人たちを引き連れ旧伯爵屋敷に到着した。
「ご到着されました!」
旧領主屋敷の中では、もともと伯爵家で雇われていた多くの者たちが、そのまま雇用されていた。
使用人たちは全員一列になって玄関で領主代理一行を出迎えた。
「ご主人様、お帰りなさいませ!」
生まれたばかりの赤ん坊に使用人皆が最敬礼で迎えた。
そのまま、シュバを抱いた使用人は、以前のテオの部屋に向かった。
そこにはダコタがいた!シュバの母親は田舎にはいきたくないということで旧伯爵領に来ることは拒み、乳母としてダコタを雇っていた。
「シュバ様、わたくしが乳母のダコタです。よろしくお願いします」
ダコタはさっそくシュバにおっぱいを与えた。
この部屋には、もう一人赤ん坊がいる。シンである。
くしくも、元マルオであるシンと、元シュバインであるシュバの再会であった。
シンは数日ぶりに旧伯爵屋敷に帰ってきた。
「まさか、ここにまた戻ってくることになるとはな! それにしてもシュバって、まさかシュバちゃん?そんはずはずないよな」
シンは当然ながらシュバがシュバインとは気が付いていない。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇
シンとシュバは3歳になっていた。二人は乳兄弟としてともに旧伯爵領である大司祭領で生活していた。
ダコタはシンがこのままシュバの腹心として仕えることを望んでいた。
「シン、何してる早くこないか!」
いつものように庭での狩りごっこが行われていた。使用人たちが庭にいるリスや鳥などを追い込みシュバとシンが捕まえるというものだ。
「シュバ様、そろそろ休憩にしましょう」
いつも、共に狩りごっこをしていたシンだが、前世も合わせると39歳になるシンは子供の遊びにただ付き合ってるだけの気分である。当然、よくいる大人たちのように頻繁に休憩を求めていた。
「シンよ、そなたは休憩ばかりだな! そんなことでは強い冒険者にはなれないぞ!」
「ん? シュバ様は冒険者になりたいのですか? 大司祭様のように聖職者になられるのでは?」
シンが尋ねると・・・・
「冒険者は魔物を倒して、みんなの英雄だ! かっこいいではないか!」
シュバは絵本の影響で冒険者に憧れているようだ。
「最初、シュバはシュバちゃんではって思ったが、それはないな! あの怠け者のシュバちゃんは冒険者なんかにはならないからな」
シンは心の中で呟いた。しかし3歳の生まれ変わったシュバと年老いた疲れ切っていたシュバインでは、その思考が少し変わっているようでシンはそれには気づかなかった。
「二人とも、おやつの時間よ!」
ダコタがいつものように大きな声で二人を呼びに来た。
「シン、おやつだ! 行くぞ!」
このあたりは、やはり3歳児であった。
シュバはシンを本当の兄弟のように思っていた。当然ながら前世の記憶はない。
この二人が生死をかけた戦いをするのは、まだ先の話である。