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伯爵夫人

 伯爵夫人はエントランスの大広間を右へ左へうろうろしていた。

 門の前には、マンズーキ教の聖騎士たちが集合していた。

 聖騎士長は王の勅書を携えていた。

「勅命 伯爵領は没収しバイン大司祭に与えることとする」

 聖騎士長は勅命を読み上げた!

 その内容は、故シェイバース伯爵は、忌むべき存在である吸血鬼を匿い、吸血鬼を成敗するための聖なるバイン大司祭の討伐軍に敵対し、人類の敵に与する大罪を犯した。よって領地を没収し、その領地は見事吸血鬼を成敗したバイン大司祭に与えるというものであった」

 さらに伯爵夫人は平民に落とされ、バイン大司祭に逆らうようなら大逆罪に処すというものであった。


「遅い、何なのだ! 兄上は何をしておるのだ」

 伯爵夫人は爪を噛んでひたすら歩き回っている。


 聖騎士長からは、2時間以内に屋敷から出て行けと通達された。あと1時間しかない!

 伯爵夫人は聖騎士長が屋敷を出て行ったあとすぐに子爵である兄に使いを出していた。

 領地をそのまま伯爵家が養子を迎えて、維持できるように動いてもらうために、領内の高級宿泊施設に兄は滞在していた。

 宿泊施設からここまでは、早馬で10分ほどの距離である。本来ならとうの昔に到着していてもおかしくない。こんな異例の事態を収めることができるのは子爵である兄しかいない。


 どれだけ待っても、兄である子爵は来るはずはなかった!

 兄のいる宿泊施設にも勅命を持った聖騎士が現れ、今回の処置に逆らうようなら子爵領も、逆賊とみなされ没収すると通達を受けていた。

 兄は妹を心配しながらも、配下の者を連れ、すでに伯爵領を離れていた。


 バイン大司祭は吸血鬼討伐の報告を受けてすぐに王都に向かった。王都では大教皇の威厳を最大限利用し王をはじめ有力貴族たちに伯爵領の没収とバインへの譲渡を迫った。

 王や貴族たちは、異例の事態に当初は渋っていたが、絶大な大教皇の威厳と、この国自体を神への逆賊とみなすという脅しに屈し、勅命を出さざるを得なかった。

 争うことなく伯爵領を去った兄である子爵であったが、例えどうあがいても事態は覆らなかったのである。

 魔王軍のいない今、弱小国にとって大教皇に逆らうことは人類の敵とみなされ滅亡の危機に陥ることになる。


 いよいよ聖騎士長の通達を受けてから2時間がたとうとしていた。

 屋敷の使用人たちも、どうしていいかわからず、ただ下を向いてじっと立っているのが精いっぱいであった。


 その時扉が開いた!

「時間です! あなたはもうこの家の主でも貴族でもありません! 今すぐ退去しなさい!」

 聖騎士の一人が固まってしまって動けない拍車夫人の腕をつかみ、無理やり敷地の外まで引きずっていった。

「いやー、やめて」

 さらに伯爵夫人の髪をつかみ、押し倒した。

「罪人め! さっさと立ち去れい! さもなくば成敗するぞ!」


「ひえーっ」

 伯爵夫人は靴が脱げ、はだしのまま走り去った。

 使用人たちの目には涙があふれていたが、何もすることができず、皆唇をかみしめ拳を握り締めていた。


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