75話 -愉悦-
「ブボーーーー!!!」
オークの軍勢を中心に現場は大混乱に陥った。
自分たちの将が切り裂かれたのだから当然。残党は怒りで我を忘れ突っ込んでくる。そう思いきや違った。そういうオークもいるにはいたが、ほとんどは死んだ突然変異種を見て、我先にと森の奥へと逃げていく。
無視。
タ、タ、タ、タ、
歩く。もはや危険はない、この場にいるモンスターなど格下だという確信があった。だから歩く。目的の場所へと。
倒れている三頭のオーク。切り裂かれたばかりのオーク。死して尚、その顔には悪意が満ち、体からは暴力の臭いが色濃い。
グシャ!
頭を踏みつぶす。完全に殺す。相手はモンスター。安心できない。
グシャ!
グシャ!
「ふぅ、」
喧噪の中で溜息ひとつ。そして思う。
無能の力。
無能は相手の運を-100にすることで悪運を強制的に引き寄せることが出来る。大司教バレルはそれで崖から転落死した。
もう一つの効果。
ステータスを90%ダウンさせる。
全力で飛び蹴りをくらわそうが、斬りつけようが致命傷を負わせる事が出来なかった強靭な体。さすがはSランク以上と称されたモンスター。そのステータスの高さを身を以て感じた。
だが、それは通常の状態であればの話。
無能であれば別。
防御力が崩れ去る。
優位。
力も弱体化する、反撃を恐れる必要が無い。
優位。
スピードも下がる、躱すことが出来ない。
優位。
すなわち、圧倒的優位を可能とする。
これが無能のもうひとつの力。
偶然を呼び込むことを待つ必要がない。
そして、薺。
勇者。
武の極致に立つ者。
薺がこの能力の力を最大限に引き出す。
薺の剣技。と「無能」の相乗効果。
積み重ね、鍛え上げられた刃。それは弱体化した肉体に対し、さらなる鋭さをもつ。
隷属魔法によって繋がっている圭太と薺。圭太の「無能」が発動され、付与されたことは言わずとも伝わる。
完全なる連携。意思疎通。
強固な肉の鎧が剥がれ落ちる。
強い。
自信がさらに強固になった。
圧倒的な力。
「ハ!ハハ!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
笑いが止まらない。
凄まじい優越感。自信。確信。全身にみなぎる。脳が麻痺したように痺れ、熱い。心臓が高鳴る。汗が滲む。
力を得た。
何物にも負けないだけの力を得た。
震えるほどの幸福感。
貫く。
貫ける。
この世界で誰にも媚びず、諂わない。
自分の思うがままに生きる。
誰の指図も受けない。
我が儘に。
思うがまま。
高みに立つ。
崩れ落ちたもの、肉塊を見やる。
魂を喰らった。




