26話 ー喰らえー
黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。種族は悪魔。
殺せ!
脳が痛い。
突如、打ちつけるほど強く脳を打つ言葉。何者かの意思は巨大な鐘のように鳴り響いている。
殺せ!
頭を押さえつつ周囲を見渡すも近くには誰もいない。言葉は耳を通さず脳に直接響いている。
当てはまる言葉があるとすればこれは極めて強い思念だ。
殺せ!
かなり小雨なって来た闇の中、雨と共に涙も流れている。黒い髪をした少女は泣いている。表情を崩すこと無く泣いている。雷による痛みなのか、殺されることへの恐怖なのか。
感情移入は止めろ。
目の前の存在は少女ではない、勇者だ。そして俺は悪魔だ。だったら今自分が何をするべきなのかははっきりしている。
脳に鳴り響く言葉の通りだ。
殺すべき。
悪魔と勇者、混じり合う事は無いだろう。向こうだって殺しに来たんだ、俺が殺して何が悪い。安い同情は捨てろ、お前はレベルの差で今回たまたま勝っただけ。ここで逃がせば後悔するぞ。
殺せる。
あの豚を殺した時だって、少しの後悔も懺悔の念も何も無かった。恐れることは何も無い。もうお前はとっくに人を殺しているんだ。いまさら聖人ぶる気か?
他人を殺すか、お前が生きるか、ふたつにひとつだ。
お前に死ぬ勇気は無い。
辛い目に遭うたびに死にたいと何度こぼしたところで、お前に死ぬ勇気は無い。いざ死ぬかもしれないとなれば、どれだけみっともない姿を晒そうとも生にしがみつくのがお前だ。
だったら喰らえ。
勇者を喰らえ。
脳を打ちつける声は殺すだけじゃなく喰えと命じる。
一体これが誰の声なのかは分からないが、分かることもある。それはこの声が俺を洗脳、あるいは支配しようとしているという事だ。
誰なんだお前は。
圭太は知らない。
この声は悪魔の本能。
存在としての高みを目指す。力こそが全て。それは悪魔の体に備わった本能。力を欲すること、それは遺伝子に刻みこまれた宿命。
強烈に抗いがたい欲求が圭太の体を支配する。それは本能が求めるどうしようもないほどの渇望。
身を任せれば幸福が訪れるだろう。餓死寸前でビックマックを腹にぶち込むような途方もない快楽。
喰って力をつけるという当然の選択をしろ。
幾多の祖先たちが残した教訓。
殺すべき時に殺さなかったものは殺されてきた。無残に死んでいった同胞たちから得た教訓。遺伝子は種族を繁栄させることを切に望んでいるのだ。
それは何も悪魔に限ったことではない。生物は常にそうやって進化を遂げてきたのだ。キリンが首を伸ばしたように、象が首を伸ばしたように、そうやって生き残って来たのだ。
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
喰わねば死ぬぞ殺されるぞ。
強者は何をしても許されて弱者はそれに従うしか術は無いのだ。弱者は殺されても文句を言う資格も無いのだ。みすみすこの機会を逃すつもりか。
弱者として生きるつもりか。
人を羨んで生きていくつもりか。
またしても他者に頭を下げて生きていくつもりか。機嫌を伺うために嘘を吐き続けるつもりか。相手を殴りたいのを我慢して嘘くさい笑いで済ませるつもりか。
他者が決めた規則に従い続けるつもりか。他者の言葉を気にして生きていくつもりか。
本当に食いたいものを諦め、安い飯で腹を満たすつもりか。高い車を横目に見ながら中古車を探して回るつもりか。美しい女を目の前にして見るだけで終わらせるつもりか。
それがお前の望みなのか。
そんな生き様なんか糞以下だ。そんな惨めったらしい人生を長く生きたところで何の意味がある。
生きたいように生きる、他者を顧みず自分のやりたいように生きる、それがお前が真に望んでいることではないか。
強大な力さえあれば望は叶う。
勇者を喰らえば力が手に入る。
迷うな。
やれ。
「やめろ」
勇者という最高の食材を目の前にして、本能がもたらす餌と脅しと挑発は確実に圭太の心を揺さぶる。
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
圭太の願望を揺さぶり刺激する。
力が欲しい。誰にも屈したくない。我が思うままに生きたい。力が欲しい。負けたくない。殺されたくない。力が欲しい。気に入らないやつをぶっ殺したい。力が欲しい。誰よりも強くなりたい。全ての人間から尊敬されたい。
力さえあれば。
喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ喰らえ
圭太は一歩踏み出す。
勇者が酷く美味そうだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。
◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆
特殊スキル 無能 Lv3
特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。




