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27話 -ヒロイン誕生-


黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。種族は悪魔。


安倍 薺:何も知らずに異世界へと召喚された勇者の少女。


 


 燦燦と太陽が降りそそいでいる朝。立体的で力強い雲が青空をなかなかの速さで進んでいく。どうやら上空は強い風が吹いているようだ。


 小さな手。


 その白い指先からゆっくりと滴が零れ落ちる。


 その雫の一粒一粒が朝の光を目一杯取り込んでいて、美しさの塊のように見える。


 雫から指先そして腕へと遡っていけば、セミロングの黒髪に色白の肌をしたあどけなさのある少女の顔がある。パッと見れば無表情なのだけど、よくよく観察してみれば少女は少しだけ心配そうな表情をしていることがわかる。


 白いワイシャツに首元にリボン、そしてひざ丈のスカートは日本の学生の制服。


 少しの風が吹いて黒髪が柔らかく揺れた。髪の毛一本一本が光にコーティングされたかのように艶めいている。肌も陶磁器のように滑らかで染みや皺といった邪を弾いているかのようだ。


「ん、んん………」


 少女の見つめる先から水を飲む喉の音がした。


 そこにいるのは川辺に寝そべっている男。


 その唇は白くてガサガサで赤切れている。その黒髪は「ごはんですよ」のようにドロドロ。その肌は中華料理屋の厨房くらい油ギッシュ。


 服は汗を極限まで吸収していて、嫌な臭いがするし濡れている。髪も顔も服も、全てに泥や植物の欠片などがまぶされている。


 腐乱死体。


 いや、黒部 圭太だ。



「ありがとう………なずな


 声もガサガサだった。


「………」


「ああ、頼む」


 少女は小さく頷いて、川へ向かって走り始めた。その背中を見つめる圭太の視線は霧がかかったようにぼんやりとしている。


 圭太は勇者である薺を殺さなかった。


 鎖。


 勇者召喚玉によって日本から強制的に召喚された少女、なずな。その魂には魔法の鎖が巻き付いている。


 スキルによって生み出されたこの鎖は相手の言動を支配し自由を封じる。主人の命令に逆らったり、傷つけようとした場合には魂を締め付け、他に類を見ない痛みを与えるか、破壊するのだ。


 これがスキル「隷属」がもたらす効果。


 しかし鎖はただ縛るだけではない。


 結びつけるのだ。


 主と従。


 互いの心に繋がりをもたらす。


「はぁはぁはぁ…」


 生き物の臭いが強い口呼吸。鼻を使用しないのはその穴が両方とも完全に塞がっているから。


「はぁはぁはぁ…」


 顔色はなずなと同じく白い色をしているのだけど、彼女と違うのはそこに健康さを感じない事。そして口から生き物の臭いが強い息を発していること。


 なぜならば発熱。頭痛。吐き気。めまい。悪寒。関節の痛み。喉の痛み。これらの症状に同時に襲われているから。


 つまり圭太は大風邪を引いて河原で寝込んでいるのだ。


「しぬ………」



 昨日の夜の出来事だった。「隷属」のスキルによってなずなとの主従関係が結ばれて、圭太は安心した。これで勇者に殺されることは無いと。


 緊張の糸が切れた途端に体調不良はやって来た。


 振り返ってみれば、バレルに対して復讐を成し遂げた後、急激なレベルアップがきた。それによって気を失い、目を覚ました時にはもう雨が降っていた。それからは勇者召喚玉を使い、薺との戦闘。


 その間もずっと雨は降っていた。圭太は何時間もずっと夜の雨の中にいたのだ。さらには戦闘によって極限まで体力を消費していたことも合わせれば、風邪をひくには十分すぎる状況だった。


 言葉にしてはいないけれど、薺に散々殴られた箇所も痛い。こめかみ、顎、鳩尾、脇腹、どこも人体の急所ばかりだ。フロントチョークで締め上げられた喉も痛いし、首の後ろも痛い。鼻も塞がっていて口呼吸しかできない。


 圭太はいま最悪の状況だった。



 従である安倍 薺は大きな川の前でしゃがみ込み、大きな魚影を眺めている。


 どこかで魚が飛び跳ねて水を打ち、薺はハッと我に返った。


 魚を見に来たわけではなく、水を汲みに来たのだという事を思い出した。そしてできるだけ綺麗そうなところに両手を入れて水を貯めた。


 少女は川から水を運ぶ。


 主人となったものの喉を潤すために走っている。その手は小さく、多くの水を運ぶことができないから。


 足場の悪い川辺をものともせず進む少女の表情に、暗さは見られない。むしろどこか楽し気ですらある。


 薺は元気だ。


 昨日の夜に雷の直撃を受けたばかりだというのに、今ではすっかり元気になっているのはさすがは勇者と言ったところだ。


「なんか遅かったな」


 苦悶の表情の圭太がガラガラ声で言った。鼻が完全に塞がっているので声はちょっと聞き取りずらい。


 薺は何も答えずに頷いて、手で作った皿から水を少しずつ口元に零していく。


 圭太の喉が鳴るかすかな音。



 朝の空気は澄んでいる。


 雲の流れはますます早く流れ、地表にも湿気を多く含んだ強い風が吹いた。


 川はまだ流れが速い。恐ろしさもあるけれど、太陽の光を反射している美しさもある。


 鳥が鳴いた。空が朝の光を放ち始めた時から森の中からはずっと鳥の声が鳴っている。



 少し明るい表情の薺と、苦悶の表情の圭太。


 たしかに、完璧に良いスタートとは言えないかもしれない。


 けれど、二人の旅は始まっている。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


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☆5なら踊ります。


◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆


特殊スキル 無能 Lv3

特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。


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