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12話 -Side story-

大司教バレルのサイドストーリーなのでスキップしても本筋には影響ありません。


総大司教パトリアクスがバレルに向かって上げた名前ラカミノール。その人物を一言で表すのならばバレルにとってこの世で一番負けたくない相手。


ラカミノールはバレルと同時期にプーチャル教に入団した司祭であり、現在の地位はバレルと同じく大司教となっていて互いに負けたくない、あいつよりも上に行きたいと意識し合う存在でもある。


だがそれは健全なライバル関係では全くない。


嫌悪、憎しみ、憎悪の感情。


プーチャル教に所属することとなった初日から二人は教義に関する意見の食い違いで言い争うという騒動を巻き起こした。それからもことあるごとに衝突を繰り返す存在。



ラカミノールの失敗をこの世の誰よりも望み、ラカミノールの成功を誰よりも妬ましく思っているのがバレルであり、それは相手も全く同じである。


2人の競争心は初めて顔を合わせた日から何年たっても変わらない。むしろ年月を追うごとに強まっていっている。


互いに教会内で相手よりも上の地位に就こうと競い合っている二人ではあるがその立場は対等というわけではない。ラカミノールが彼と決定的に違うのは彼の父親は大商会の主であり多額の寄付金をプーチャル教に収めているという点。


バレルはそれを覆そうと自身の担当区域の寄付金を増やそうと様々な手を考えて実際、成果は出てはいる。しかしそれは相手も同じであり多少の寄付金の大小ではラカミノールの父からの寄付金に差を開けられてしまっているのが現状だ。


そして薄々ではあるが最近、教会の上層部がバレルよりもラカミノールを優遇し始めていると感じることが何度かありバレルは焦っていた。


「どうして奴の名を?」


嫌な予感が全身を駆け巡っているが聞かずにはいられない。



ここまでバレルとラカミノールは同じ日に教会組織に入り、同じ日に昇進してきた。総大司教であるパトリアクスも当然のことながら人事に関する権利を持っていて今後の昇進に関する内部情報を持っていても全く不思議ではない。


「教会上層部が彼の昇格を決定したからさ」


「なぜアイツなんですか!?」


答えはわかっていた。


「彼の父親が経営する商会はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いでね、その規模は世界中に展開していっている。教会上層部としてはプーチャル教の威光をさらに広げるために寄付金の増額を狙ってるんだ]


「そのために彼の父親が最も望んでいることは息子が教会内でさらに地位を上げる事だ。それは単なる息子自慢をしたいというだけではなくその肩書を使ってさらに商会の勢力を強めることに使えるからだ」


「そんなものは!!」


そんなものはただの金集めだ!そう言おうとして口をつぐんだ。この世界が只のきれいごとだけで生きていけないことはわかっていた。そしてこの場でそれを叫んだところで何の意味もない。


それは教会に入る前から分かっていたこと。そしてさらなる地位を欲しているバレルにとって一日たりとも忘れた事が無いことである。


「君にとっては理不尽だというのは分かっているよ。君がどれだけ努力しているかを私は知っているからね。だがこれは君も承知のようにどうしようもない事なのだ」


「それと・・・今回私が持ってきた案件だがね。バレル大司教。君には断ることもできるんだよ」


「まさか!?」


この話を聞いてしまったからには逃げられないそう思っていた。パトリアルクスの話は国際法に反することの上に教皇を裏切るという事でそれは誰にも知られたくないことだと思っていた。


「これがあれば何の問題もない」


パトリアルクスが取り出したのは赤黒く禍々しい拳ほどの大きさで半透明の鍾乳石ような代物。


今までに見たことは無いが間違いなく強力な力を持つ魔道具であろう。見ているだけで風邪をひいた時のような寒気が背筋に走る。


「これは使用者の記憶を書き換える魔道具でね。もしもこの一件から逃げたいのならこれを使わせてもらう」


「また禁制品ですか」


実際に見たことはないが知識としては人間の記憶を操作する魔道具があるという事は知っていた。これも国際法によって破壊が義務づけられている品。


勇者召喚玉ほどに恐ろしい罰則がある代物ではないが十分に違法と言える物だ。


品物だけではなくそれをさらりと取り出すパトリアクスという人物に改めて驚かされる。


教会の上層部というのはこうも闇につつまれているものなのだろうか。


普通であればこれだけで十分驚くに値する無いようであるが、こうも立て続けに驚かされていると心が麻痺して段々と動揺しなくなってきてしまっている自分にも驚く。


「さあそろそろ決めてもらおうか」




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