11話 -Side story-
大司教バレルのサイドストーリーなのでスキップしても本筋には影響ありません。
バレルの目の前にいるパトリアクス。世界最大の宗教団体の幹部である総大司教という立場にいるこの男からもたらされた衝撃の話。
国際法にて厳重に守られている禁制品である勇者召喚玉。
それを他者に譲り渡すという重大犯罪を犯すというだけではあきたらず、この男は教会内でタブーとされている教皇の秘密を探ろうとしているのだ。発覚すれば死刑は免れないであろう行為を同時に二つも犯そうとしている。まともな人間の発想とは思えない。
そしてこの男はそれに自分を巻き込もうとしている。
大司教であるオガアクル・ド・バレルの特殊スキル「ストーキングフライ」は魔力によって自分の分身ともいえる蠅を生み出すことができる。
この蠅は指定した他者にとりついて、相手に気づかれることなくその周辺の音声と映像をバレルへと送ることができる諜報に特化した能力である。
この能力を使って教皇を支援するその友人の正体を暴く。こともなげに言われたそれは発覚すれば間違いなく自分の人生は終わりだと確信できる。
なにしろそれは教皇から禁止されている事項そのものなのだ
世界最大の宗教団体のトップである教皇。
しかし彼がトップの位置に来ることは決して定められた道というわけではなかったという。彼のほかにも候補となる人間が何人もいたが彼はその人間たちを抑え教皇という位置についた。そんな彼が他者を押しのけて頂点に君臨することができた背景には一人の謎の人物の存在が噂されている。
現在の教皇が若い時に莫大な富と強力な人脈を持つ支援者を得て現在の地位を築いたことはバレルも噂で聞いたことがあった。
そしてそんな教皇を妬み羨んだものが支援者を見つけ出そうと躍起になるのは当然の事だった。その支援者に教皇ではなく自分を支援するよう頼むつもりである者もいたし、その人物を始末し教皇の立場を揺るがそうとする者もいた。
教皇は自身の周辺を探ることに対し過剰なほどの禁止令を出したがそれを無視するものも少なからず存在した。そしてその人物達はは例外なく死体となって見つかった。
その者たちほとんどがプーチャル教に属するものであり相応の地位に属する者たちだった。そのもの達は今の状態だけで満足することができずにさらなる金と権力を欲して教皇の秘密を暴こうと気危険な賭けに打って出たのだ。
調査を進めていくと死体となったもの達は事件の発覚を恐れ、自分に嫌疑が掛からないよう幾人も間に人を介すなど過剰と言えるほど巧妙に細工していたがそのすべてが無駄であった。
裏切りは必ず見つけ出され死という制裁が加えられた。
裏切り者を見つけ出すその調査力は尋常ではなく正確で、その正確さゆえに特殊スキル所持者の存在が確実視されるほどであった。裏切り者を見つけ出すスキル、真実を見つけ出すスキル、考えを読み取るスキルなどなどいろいろと噂されたが真相は誰にもわからない。
ただ教皇の周辺を探ろうとしたものは確実に殺されていた。
そして裏切り者の死体にはある共通点があった。
その死体には惨い拷問のあとがしっかりと残っていた。あまりにも無残なその死体と犯人を暴き出すその恐ろしいまでの力とを思い知ることで教皇の周辺を探ろうと考える人間は減っていき、完全にいなくなったと思っていた。
しかしその禁忌を破ろうとしている人物が目の前にいる。自分の上役がそれを目論んでいる。そしてそれに自分を巻き込もうとしていることに背筋が凍った
「お待ちくださいパトリアルクス総大司教様!!危険すぎます!!そんなことが教皇様のお耳に入ったら・・・」
「バレなければ何の問題もない」
力強い眼力がバレルに突き刺さる。
一体何をもってして目の前の男はそれを断言しているのだろうか。追い詰められている人間は尋常な判断ができなくなり無謀としか思えないことに手を伸ばすというがこの男にはまともな判断力が無いのだと思った。
裏切り者を皆殺しにし王を凌ぐほどの権力と力を持つ教皇。そんな恐ろしい人物を敵に回せと言うその神経はとてもまともな人間の者とは思えない。こいつは完全に壊れている。
「君の蠅君が相手に見つかったことなど今までにあったかね?」
パトリアルクスは優し気にバレルに問いかける。
バレルの心にはこんな壊れた人間との会話を続けることの意味を見失い始めている。しかし相手は一応総大司教に位置する人間、完全に敵対するまでは関係を続けなくては損。だから仕方なしに会話を続けることにした。
「・・・・・ありません」
ストーキングフライは不可視化することができ音も発生しない為に今までにその存在が発覚したことは実際に一度もない。それが彼の自慢だった。
たとえどんな相手だろうと自分の能力から逃れることはできない。自分は全ての情報を得ることができる。そう思っている
「なら何を恐れているんだい?」
「しかしあまりにも危険すぎます。禁制品を取り扱った事が発覚すれば死罪。しかも教皇様の背後を探ろうとした何人もの権力者たちが例外なく殺されている。どちらを向いても死です。一体なぜそんな無謀なことを」
「教皇になりたいからに決まってるだろう」
ああ、やはり目の前の人物は蛇なのだ。底なしの欲望を抱き自分がやろうとしていることの危険性が見えなくなっているのだ。このような危険人物からは一刻も早く縁を切る必要がある。そしてその無謀を実現するために自分を巻き込もうとしている。
「君は力に興味が無いのかね?」
ある。
あるに決まっている。
バレルは大司教という地位にはついているがそれには全く満足していない。
自分が頂点に立ちたい。だれにも頭など下げたくない。全てが自分に平伏すべきだ。全てを手に入れたい。
だからこそ彼はプーチャル教という組織に加入することを決めたのだ。神、教義、教え、教団、信者、その全てが彼にとってはとるに足りないもので頂点に立つための道具でしかない。
「私が教皇になれば君には枢機卿の地位を約束しよう」
「!!!」
枢機卿は教会のナンバー2にあたる超重役。パトリアルクスの現在の地位である総大司教よりも一つ高い地位でありナンバー2といえどもその権力は王に匹敵する
「す、す、、すうききょう・・・」
視界がグラつくほどの衝撃。悪夢の中にいるような現実感のなさと恐怖心。体中がぎくしゃくとして立っていることができなくなり近くの椅子に勢いよく倒れこんだ
世界でトップクラスの権力者への道があるとこの男は言っているのだ。
バレルは世界の頂点に立つことを夢見ているが現実はそう甘くはない。教会内での地位を欲している者は世界中にいてその者たちとの権力闘争に勝利しなければならないからだ。
「たしかにリスクはある。それは認めよう。だが私はそれなりの見返りを用意するつもりだ。そしてこれは君がラカミノール君より上に行く最大のチャンスでもあるのだよ」
バレルの全身に電流が走った。
それは彼にとって特別な意味を持つ名前。




