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舞台裏~黒石の決断と「会長のバカ」大作戦・1

◇舞台裏・黒石の決断と「会長のバカ」大作戦 ―黒石視点―


 玉砕覚悟の告白だった。

 波瀾万丈の文化祭をなんとか乗り切った後、どうしても想いを伝えたくて、好きだと言った。「もしよかったら付き合ってほしい」という申し出に、乃亜さんが「よろしくお願いいたします」とお辞儀したとき、逆に俺が驚いた。

 付き合い始めて、嬉しくて、手をつないで帰ったりも、していたのだけど。

 すぐに、どうも違うことに、気が付いた。

 俺と付き合うのは、乃亜さんの負担になっているんじゃないか。

「あの、さ。別れようか。乃亜さん、俺と付き合うの、嫌じゃない?」

 地下鉄の駅まで並んで歩きながら、聞いてみた。付き合い始めて一ヶ月の頃だった。

 乃亜さんが俺の顔をみて、俯いた。ほらやっぱり。

「俺、会長だけどさ。付き合ってって、命令じゃないよ。付き合うかどうかは、乃亜さんの自由だよ?」

 そう言うと、乃亜さんが泣き出した。

「別れる、のは、だめ、です。黒石くんに、ご迷惑かも、しれないですが、生徒会が終わるまでは、私と、お付き合い、してくださいませんか」

 生徒会が終わるまで。生徒会に波風立てることを気にしてるのかな。

「別れても大丈夫だよ。俺、生徒会に私情持ち込んだりしないよ。会長と副会長として乃亜さんとやっていけるよ。付き合う前とおんなじになるだけだよ」

 そう説得しても、乃亜さんは泣きながら言う。

「ちがうの、です。生徒会が終わるまで、お別れしては、いけないのです」

 うーん。乃亜さんは少し変わっている。そういう変わっているところも好きなのだけど、大丈夫かな。どういう理屈なんだろう。

「俺は全然、迷惑なんかじゃないし、嬉しいけど……。もし、乃亜さんが嫌なら、ほんとに、すぐ別れるから。いつでも言って」

 俺に言えることはそれだけだった。手をつないだり、頭をなでたり、乃亜さんに触るのはやめた。まわりに「付き合ってる」と宣言するだけ。そういう体裁をとった。



 文化祭の後処理を終え、体育祭の準備に入った。体育祭仕事は凄まじかった。文化祭で会長としての動き方も多少学んだはずが、全く歯が立たず、体育委員会や当日ボランティアとの連携に苦労した。メンバーに仕事を持ち帰ることは厳禁と言い聞かせ、先代会長がやった「体育祭業務の授業」も真っ先にやったのだけど、それでも無理だった。どうしても時間に間に合わず、何日か、数人に「仕事を持ち帰って良い。むしろ持ち帰って。ほんとにごめん」という特例を出すハメになった。

 あの人は「俺を会長と呼ぶな」と言ったけど、俺にとって滝川先輩はやはり「会長」だ。

 心の中で呼びかける。

 会長。会長って一体どれだけ仕事できる人なんですか。去年の体育祭で、誰かが仕事を持ち帰る特例をだしてもらったなんて話は全く聞かなかった。全員に時間厳守させて仕事の洩れもミスもないなんて、そんなこと、一体どうやってたんですか。

 会長の凄さは身近で見て知っていた。会長も俺のことを次期会長と見込んで、鍛えてくれていた。自分の仕事ぶりを見せてくれていた。それでも。

 それでも、全然、追いつけない。会長の足元にも及ばない。

 連日の体育祭仕事に疲れ果て、最終下校時刻に間に合わず、マクドナルドで、乃亜さんと一緒に信号ノートを見て、誰が危ないのか、話を聞いていた。赤信号が頻発している。去年の同時期のノートと見比べても、明らかに多い。信号の付いた誰をどうするか、判断して赤ペンで書き込む。この手法も会長に教えてもらった。

 書き込みを終え、乃亜さんに声をかける。

「遅くなってごめんね。帰ろ」

 乃亜さんが俯いた。

「もう少し、ここに、います。黒石くん、お先に、お帰り下さい」

「でも、もう遅いよ。乃亜さんの家、帰り道危ないんでしょ?」

 夜十時を過ぎていた。

「大丈夫、です。しばらく、ここに、います」

 乃亜さんが呟く。俺と一緒に帰るのが嫌なのかな。そんなことを思いながら、マクドナルドを出た。店を出て振り返ると、乃亜さんはカバンから手帳を出し、小さなメモを取りだして、じっと眺めていた。泣いているように、見えた。

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