<会長編・最終話>ノア
26-2.会長編・最終話
四月の初め、大学へ行けば、校門に「入学式」という札がかかっていた。ちょうど式が終わったところらしく、講堂からスーツ姿の新入生達が続々と出てくる。
授業は三限目からだ。大学のカフェで予習しようと早めに登校していた。新入生を横目に通り過ぎる。
―――会長。
懐かしい声に呼ばれた気がした。のんびりと、穏やかな、忘れられない声。
立ち止まりかけて、やめた。錯覚だ。そんなわけない。そのままカフェへ向かって歩いていると、後ろから勢いよく抱きつかれた。
「沢野先輩の、ご紹介を、いただきました」
その声に心臓が止まる。
お前、黒石は? 聞きかけて気づく。沢野が電話で言っていた。
―――高二の三月末に彼氏と別れて、それからずっとフリーなの。
振り返ろうとして、抱きついた小柄な人影が離れない。顔が見えない。
「ご命令、の、一つ目を守れずに、すみません」
涙声だった。
――― 一、俺のことは忘れる。
「私、は、会長が、好きです。どうしても、好き、です。中学の頃に、応援合戦の審判をなさっている会長を拝見して、応援合戦に、ほんとうに真剣にお気持ちを向けていらっしゃるのを感じて、こんなすごい方がいるのだと、お慕いして、会長を追いかけて、高校に、入りました。生徒会に、入りました。今、も、追いかけて、きました」
ノア。呼びたくて、声が出ない。
「私は、会長が、好きです。ご迷惑かも、しれないのですが、どうか、もう一度、私のことを、みて、いただけないでしょうか。たくさん、働きます。会長のもとで、たくさん、働きます。だから」
ノアが泣く。それ以上言葉にならない。
俺に巻き付いている小さな手をほどいた。振り返り、ノアと向き合って、息を呑む。
きれいになった。一年見ない間に、こんなに。
ノアが俯いて泣いている。
「泣くな。大丈夫だ」
頭をなでる。名前を、呼べなくて。
「お前はよくやった。お前らがやった文化祭も体育祭も、すごかった。お前がよく働いたこと、わかってた」
言いたいのはそういうことじゃない。だけど、言えない。どうしても言葉が出てこない。名前を呼べない。
ノアが顔を上げて、俺をみた。目が合って心臓が跳ねる。
泣きながらノアが笑った。
「会長は、私を、好き、です、ね。とてもとても、好きです、ね。わかります」
ずば抜けて勘のいい部下に心を見抜かれて、もう隠しきれなくて、白状する。
「好きだ。ずっと好きだった」
引き寄せて抱きしめた。
「ノア」
「はい」
ノアが返事をする。俺の腕の中で、返事をする。
生徒会のお守り。だけど、それだけじゃない。お前は俺のお守りだ。俺の希望の箱船だ。
強く抱きしめて、目眩がして心拍数が上がって、何度も何度も、その名前を呼んだ。
会長編・完結です。
裏話・黒石編へ続きます! どうぞお楽しみに(> <)!




