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25-2.お前、ノアに腕時計買ってやれ。

 ノアと面談した三日後の夜、黒石から電話があった。

『乃亜さん落ち着きました。一昨日が黄色で、昨日が青で、今日、信号が消えました。ありがとうございます』

「そっか。それなら良かった」

 あの錯乱ぶりからしてもう少し長引くかと思ったが、治まったか。

『原因、何でしたか』

「混乱してた。俺がノアの面倒みてないって泣いてた。会長がお前だってことにまだ慣れてないんだな。四月五月と我慢してストレス溜めて、いきなり赤信号が出たのかも。お前も俺のこと会長って呼ぶなよ。まわりの二年にもきつく禁じとけ。お前らが俺を会長って呼んだら、あいつがまた混乱する」

『わかりました。気をつけます』

 電話の向こうで、黒石がため息をついた。黒石がため息とは珍しい。参考書とノートを広げた勉強机にひじをついて、話を聞くことにする。

「どうしたよ」

『いえ、もう、文化祭の準備がほんとに大変で……。全部締切りと綱渡りです。先輩、文化祭を全く滞りなく進めていらっしゃったじゃないですか。こっちは乃亜さんもいて最初から信号方式を使ってるのに、大混乱です。先輩の凄さが身に染みます。俺とどれだけ力量の差があるのかと。信じられないです。本気で落ち込みます』

 黒石、弱気になってるな。

「最初はそんなもんだ。俺も自分の中では大混乱だったぞ。下の奴らにそんな顔見せたら動揺させるだけだから平気なフリしてたけどな。俺の演技力が見事だったってことだな。まぁ、どうしても困ったらまた電話してこい。俺も迷ったときは先輩にアドバイスもらってたし、遠慮はいらん」

『はい。そうさせていただきます』

「それとな、お前、ノアに腕時計買ってやれ。安物でいいから電波式で時刻が狂わないやつ」

『腕時計ですか。乃亜さん、先輩にもらった時計つけてませんでした? 壊れました?』

 何事にも聡い黒石がノアの腕時計がないことに気づかないとは、こりゃほんとに大混乱中だな。大変そうだな。

「んーとな、どうもあいつ、俺に依存してるとこがあってな。とにかく俺のことを忘れろと命令した。だから腕時計も没収」

『忘れろ、とは、また……酷なこと言いましたね』

「まぁスパルタだがな。そのくらい言わないとノアは自立できんだろ」

『そうですか。先輩のご判断ならば。ええ』

 黒石がまだ落ち込んでいるようなので、からかうことにする。

「とにかく俺に言えることは、がんばれ黒石、だな。いろんな意味で。生徒会もいいが恋愛もがんばれよ」

『先輩、今の状況で恋愛なんか無理です。先輩が彼女作らなかった理由がよくわかります。時間足りないです』

「お前の場合、恋愛に時間はいらんだろ。ノアと帰り道一緒なんだから、駅まで手でもつないで帰ればいいじゃん。ノアもメールしろだの電話しろだの文句は言わんだろ」

 指摘すると、想像してみたのか、黒石が一瞬言葉に詰まる。

『……簡単に言わないでください。手をつなぐなんて、そんなこと、どうやって乃亜さんに切り出せと』

「無言、無許可で手をつなげ。俺が許可する。よしいけ黒石。明日にでも実行だ」

 茶化すと、黒石が電話の向こうでうめく。

『先輩、ほんとに、ほんとに、俺で遊ぶのやめてください。もういっぱいいっぱいです』

 俺は笑う。

「お前はできるやつだ。何事にも自信を持て。じゃ、またな。何かあったら連絡しろ」

『はい。ありがとうございます。失礼します』

 大変だろうが、がんばれよ。電話の向こうに念じ、ノアを頭から追い払って、俺は再び受験勉強を開始した。

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